Chapter:71 「ワッタイズイットナウ!」
冷たい白さに、わずかな炎の色が灯った。
「何の用? ボク忙しいんだよねェ、まだファイエリーの村が税金を納めてくれなくて――」
その言葉を、黒い羽根のひとひらが断つ。目の前を横切るそれを、指先でぴちっ、と受け止めると、当人はくすりと笑った。その外見は少年。笑顔はとても無邪気だった。
「……命令かい?」
「いや……受けるも受けぬも貴様の自由だ。――アイルッシュへ行かぬか」
笑顔がふいにやむ。
「アイルッシュにねえ。なぜさ?」
「――【伝説の勇士】が、もうパープルウォーまでを平定した」
「……報復のつもりかい? すぐに殺してやればいいのに」
微妙な笑みがわずかに返ってきた。だが、言葉はない。
「解ってるよ。白状する、ボクも彼らと遊んでみたいと思ってた。いいんだよね、それで?」
フッ、という笑いがまた返ってくる。しかしそれでも言葉はなかった。
よい天気ではあるが少々暑くなってきた。次の都市を目指しながら、三人ともすっかり薄着になってしまって、さくさくと草を踏んでいた。
「あのさ、ねぇ、コスポルーダに来て、今日で何日?」
会話がなくなったころに、五月がぽつりと聞いた。
「――だそうですよ。お願いします、博希サン」
出流は短く言って、博希の方を向く。
「あん?」
「それですよ」
出流が博希の手首を指す。博希はやっと、自分のブレスの機能が役立てる時が来たのだとわかった。
「OKOK。……ワッタイズイットナウ!」
ぱあっ、と、光が散り、時計が立体的に映る。
「……何ですかその【声】は」
「あ? 『いま何時』を英語で言ったんだよ。すげえだろ」
どう聞いてもそれでは英語圏の人々には伝わるまい、出流は思ったが、ブレスに通じるのなら細かいことは抜きにしておこう……と、もぐもぐつぶやいた。
「ね、ね、それで?」
「んーとな、十二日ってトコだな」
「十二日。約二週間ですか……この前と同じくらいですね」
「じゃあいま、ぼくらの世界は何時?」
「じき朝の十時になるでしょう。出発した日のね」
コスポルーダを旅していると時間の感覚がなくなる。
いま向こうで朝の十時ごろなのなら、まだしばらくは旅ができるというわけだった。
「次の村、まだかなあ。すごく暑くなってきたよね、ぼくらの世界と同じくらい」
歩いていたのは森の中ではあったが、陽炎もゆらゆらと見える。
異世界に四季というのがあるかどうかはわからないが、先程までいた都市――パープルウォーとは明らかに気候が違っていた。
「降るものの違いですかねぇ。もう少しお水の用意をしておくべきでした」
汗をふきふき、出流はつぶやいた。
そのときだった。
三人は陽炎の向こうに、人影を認めた。
「誰かいる」
五月が立ち止まり、出流のシャツをきゅっとつかんだ。
それは感覚的なところで、そこにいる人物――それは少年だった――に剣呑な雰囲気を感じ取ったせいなのかもしれなかった。
「やあ……キミたちが【伝説の勇士】だね?」
五月の感覚は当たりと言ってよかった。
こんな森の中で、唐突に自分たちの正体を言い当てる人物に、好意的な者がいるわけがない。
博希も出流も同じことを考えた。
「誰だ、お前」
「やだなあ、そんな怖い顔しないでよ。ボクはただ宣戦布告しに来ただけなんだからさ――――」
「!」




