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窓の中のWILL―勇士様は高校生! 凸凹トリオが世界を救う―  作者: 担倉 刻
―Third World―  男と女のイロハニホヘト
65/197

Chapter:65 「聞きたいか? 知りたいか? 真実を」

「…………」

「あなたは博希サンが死ぬのを遅らせた上で、ファンフィーヌと刺し違えるつもりではありませんか」

 ルピーダは薄く笑った。

「おぬしらが【伝説】としての義務を語るなら……ワシがこの村を守るのも、義務よ」

 やはり、という顔で、出流はルピーダを見た。

「おぬしら、おかしいとは思わなんだか」

「何を?」

「この村よ。娘ばかりではなかったかの」

 言われて出流はこの村に入ってからのことを思い浮かべる。道行く村民たち。宿の従業員。言われてみれば、歳をとった人間はこの村で見かけていない。

「なぜ、です」

 それだけ聞くのが精一杯であった。

「あなたが若いままの姿なのも――同じ理由なんですね?」

 ルピーダは静かにうなずいた。

「ワシらにも【呪】がかけられている。卑怯よな、ワシらは自分たちが生きるために、男たちを手にかけた」

 ルピーダは窓から外を見た。

「生きるために」

「他に道を捜すこともせず。ただ、ファンフィーヌの命令だけを忠実に聞いた結果よ」

「もしかして【呪】をかけたのは、ファンフィーヌですか」

「聞きたいか? 知りたいか? 真実を」

出流は少しだけ、躊躇した。それから、ルピーダの瞳をのぞきこんだ。


  ――哀しい瞳ですね。


 彼はその言葉を飲み込んで、その代わりに、別の言葉を捜した。

「聞くことが――知ることが、僕たちの、使命です」

 ルピーダの瞳が、出流と五月を見た。

「そうか…………」

 ルピーダは少しだけ、うつむいて、ぽつり、ぽつりと、話し始めた。

 もともとファンフィーヌはレドルアビデの寵愛を受けていたという。

 だが、この世界にマスカレッタがいたことで、ふたりの関係が狂う。

 レドルアビデはファンフィーヌを捨て、ファンフィーヌは以来、男を憎むようになった。

「憎しみだけが――彼女の心を支配したといっていいかもしれぬ」

「それでもレドルアビデはファンフィーヌを部下とし続けたんですね」

「ファンフィーヌはその辛さも悲しみもすべて過去のものとして封じ込めた。そして、自分だけでなく――――」


 その魔法で、この村の時をも止めたのだという。


「ワシらの外見上の時は止まったが――声を聞いて解ろう? 中身の時は確実に動いておる。外と中が食い違うことで、変調により逝んだ者も少なくはないわ」

「男の人をヒトバシラにしていたのは、なんで?」

「男を捧げねばファンフィーヌが【呪】を更に強めると言うでな……だがもう限界じゃ。先程呼び出しもあったが……もう素直に従うのはごめんじゃ。今更とは思うが」

 五月は少しだけ息をのんだ。出流は少々うつむき加減になって、髪をかき上げた。

「……五月サン」

「ぼくも言おうと思ってたんだよね」

 二人はうなずき合うと、ルピーダに言った。

「ファンフィーヌの城に行ってきます。彼女の心に介入する権利は僕らにはありませんが、この村を混沌から引き上げる義務はあるはずです」

「こやつはどうするつもりじゃ」

「博希サンのことは――ルピーダ、あなたが見ていてくれませんか。もしも博希サンが目を覚ましたら、僕らはファンフィーヌの所へ行ったと――そう、伝えて下さい」

「……承知した」

「頼みましたよ、それから――」

「解っとるよ。おぬしらが戻ってくるまで、そうそう死ねんわい!」

 出流はそれだけ聞くと、すいっ――とうなずいて、五月を伴って飛び出していった。



 風がわずかに流れていた。

 ファンフィーヌは、自らの首につけてある、首輪をなでた。そこにはめ込んである、紫色に輝く水晶から、血の高まりが聞こえてくるようだった。

 髪飾りを解く。ばさり、という音と共に、美しい髪の毛が、肩までほどけた。ファンフィーヌはその髪をなでながら、椅子に座って、窓から外を眺めた。

 彼女が椅子から立ち上がるとともに、マントが、風になびいた。彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれた。

「涙は、」

 ついっと、流れていく涙を、ファンフィーヌは拭くことなく、風に流した。

「これっきりにするわ」

 それは悲しみの涙ではなかった。ある一つの、強い意志が――その涙にはあった。


  私のプライドは、

  もう、置いてきた。


 そうして彼女は砂時計を手にした。砂時計の中、紫色の砂が、ざっと流れた。

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