Chapter:62 「……無粋なマネをする」
「しらばくれる?」
「あなたはいつもそうなのですね」
ファンフィーヌは、少しだけ――レドルアビデをにらむふうを見せた。
「パープルウォーの一村、ウォーアビスに、【伝説の勇士】が現れました」
「デストダから聞いている」
「あの村は男子禁制。その法に基づき、彼らを処刑しようとした際、何者かの邪魔が入りました」
レドルアビデは髪をかき上げた。真っ赤な髪の毛が、わずかに、揺れた。
「邪魔をした者が誰であるかは――レドルアビデ様、あなたが一番、ご存じなのではないですか」
レドルアビデはちらりとファンフィーヌを見やり、窓の外に目をやった。
「――邪魔をしたのが俺だと――そう、言ったら、お前はどうする」
「邪魔をしたのはあなた自身ではないでしょう。あなたの命を受けた、誰かが」
「たいした想像力だ」
「なぜ、そんなマネを」
「伝説の勇士たちを――生かしてみたくなったのよ」
「生かしてみたくなった……?」
「そういう理由では、不服か」
「そのために、各都市の総統が、もう二人まで砂となっています。それでも、勇士たちを野放しにしておくと」
レドルアビデは、少しだけ、口をつぐんだ。そして、しばらくして、窓の外を見ながら、唇の両端に笑みを浮かべた。牙が鈍く光った。
「構わぬ。奴らの強さ、見せてもらおうではないか」
「!」
ファンフィーヌは黙った。震えそうな瞳で、レドルアビデを見上げると、しっかりと見つめたまま、聞いた。
「では! ……ではもし私が、砂となっても――それは、あなたにとっては、勇士たちの強さの指針としてしか――感じられない、そういうこと、ですね?」
レドルアビデはふっと、ファンフィーヌの瞳をのぞき込んだ。今何よりも彼女が欲していたのは、言葉だった。
「…………そう、だ」
レドルアビデはただその一言だけを、ぼそりとつぶやいた。
「――私が、手を下さずとも、次の村が――ウォーレイドが下すかもしれませんわよ?」
「ふん。もしそうなったら――その時は、奴らに俺と戦うだけの【運】がなかっただけであろうよ」
「……そうですか……」
ファンフィーヌは終始、レドルアビデに近づくことなく、また触れることもなく、静かに頭を垂れて、退出した。
レドルアビデは窓の外の気配を認めた。
「いるのか」
デストダが窓より入ってくる。
「聞いておりました」
「……無粋なマネをする」
レドルアビデは少しだけ笑った。今日は機嫌がややよいらしい、と、デストダは彼の笑顔から悟ったが、それきりレドルアビデが無口になったので、これ以上、自分が何かを言っても仕方がない。彼は飛び立つことにした。
シャワーを浴びてからしばらくして、博希の様子がおかしいことに、出流はさっきから気がついていた。何か考えごとでもしているのか、珍しいこともあるもんですね――そんなことを考えながら、彼は天井を見つめたままの博希に声をかけた。
「博希サン、朝ごはんですよ?」
「おう」
食堂に向かい、無言で朝食を口にする三人だったが、ふと、博希がつぶやいた。
「男を人柱に立てて、平和になる村なんて、おかしいよな」
出流は突然のことに驚きつつ、あたりに気を使ってそっと答える。
「まあ、それは……」
「――な、今日は一日、この村の探索やろうぜ。三方向に分かれりゃ、早いだろ」
出流はついさっきまでそう言おうと思っていたのである。それを、今日に限って、博希が先に言った。なんだかタダゴトではないような気が、出流はした。
「いつになくマジメなこと言いますね」
冷静にそう言ってのけたが、心の中は相当動揺している。博希はそんな出流の心を読み取ったのかどうなのか、ちょっとだけ胸を張って、言った。
「ハン、俺だってたまには、――――アレ?」
「ヒロくんっ!?」
多分自分でも感覚がなかったに違いない。博希は不可思議な顔をしたまま、まるで棒のように倒れた。
「どうしました、博希サン!?」
「わからん……なんか、身体が、熱い……」




