Chapter:61 「そのようなモノです」
「朝ですよお」
出流が博希と五月の布団をめくりにきた。
「さぶいっ、もう少し寝かせろよ!」
「シャワーを浴びるのではなかったんですか。早くしないと五月サンが入ってしまいますよ。泡だらけのお風呂は一番キライでしょう」
「そりゃイヤだ」
「じゃあ早くお起きなさい! 僕は五月サンを起こします」
布団を抱きしめてぐにぐにとうねる博希を横目に見ながら、出流は五月を揺り動かした。
「五月サン。朝ですよ」
「……ん――。イーくん」
「はい、何ですか?」
「ヒトバシラ」
「は!?」
出流は一瞬、五月がまだ夢の中にいるのかと思った。ヒトデと貝柱の夢でも見ているのか――と、そう、思ったわけである。
「五月? 何寝ぼけてるんだあ?」
博希が五月の頭をくしゃっとやる。
「寝ぼけてないよ、ヒトバシラ。ねえ、イーくぅん」
「ねえと言われましてもね」
出流は頭の中で辞書をめくった。
「ヒトバシラ……ああ、ひょっとして、人柱、ですか?」
「人柱、あ――、なるほどなあ。それがどうかしたのか?」
「うん、あのね、……」
「その話はひとまず、顔を洗ってからにしましょうね、さあ、いってらっしゃい」
「うん」
五月は、顔を洗いに洗面所兼風呂に向かった。
「僕が五月サンから詳しい話を聞きます。その間に、博希サンはシャワーでも浴びていてください」
「解った」
出流は顔を洗い終わった五月と、向かい合わせに座った。
「ね、【ヒトバシラ】って、なあに」
出流は言葉を探した。どうにかして辞典的解釈を、五月に解るように噛み砕いて説明しなくてはならない。そのまま説明してしまえば、辞書の二度引きになってしまう。
「五月サン、【生け贄】は解りますか?」
「解るよ」
「そのようなモノです」
実に三十秒と経たずに説明が完了した。
「どういうこと。じゃあ、……」
「今度は僕が聞く番ですね。【人柱】なんて言葉、五月サンはどこで聞いたんです」
「あのね、んとね、……」
五月は出流に、昨夜聞いたことを、思い出せるだけ話した。
「ヒトバシラは今度、明後日でね、男の人がヒトバシラでね、……」
聞いたことのほとんどを思い出せているのは非常に優秀である。少々ごっちゃになってしまっているのは否めないが。
「え――と……では、明後日……もう明日かもしれませんが、それが人柱の日なんですね?」
「うん」
出流は頭の中でひとつひとつを整理しつつ、五月に丁寧に聞いていった。
「人柱は男の方が?」
「それで平和なんだって、この村」
五月が昨夜、隣の部屋から聞いた会話の内容は、なんとか、出流の知るところになった。ちょうどその頃、博希が出てきた。
「待たせたな」
「いえ、そんなに待ってません」
出流はそう言って笑いながら、博希が頭をわしわしと拭くのを見守った。
「で?」
博希が首にタオルをかけてそう聞くので、出流はさっき自分が五月の話から得た情報を彼に伝えた。
「ふん……とにかくこの都市は、男という男をヨソにやりたいわけだな」
「そういう事になりますかね。……とりあえず、人柱があるという日までは、この村に滞在しましょう」
この日も、ホワイトキャッスルは、白く、黒かった。
「来ると、思っていた」
「あなたにごまかしは利かぬということ、ですか」
「――さて何の用、かな。ファンフィーヌ」
「しらばくれられるおつもりですか――レドルアビデ様」
二人の間に――ごおっと、わずかな風が起きたような、共通感覚が生まれた。




