Chapter:60 「ヒトバシラヒトバシラヒトバシラ」
五月がむずかる前に、三人は新しい村に辿り着いた。ここは前の村ほどに警備も厳しくなかった。むしろ、歓迎されたと言っても過言ではない。
「ようこそ、ウォーレイドへ」
ウォーレイド。それが、この村の名らしかった。
「うあー、久しぶりにのんびりできるな」
博希が宿屋のベッドに倒れ込む。
「んう――」
五月が目をこすった。
「五月サン、寝るのでしたら着替えてからになさい。お風呂はいいですか?」
「うん……今日はもう……眠い」
ずいぶんいろいろなことがありましたからねえ――出流はそう言って、少しだけ、笑った。五月が着替えたのを確認すると、倒れ込みそうな彼を、出流はベッドまで誘導した。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ぽんぽんと布団を叩くと、五月はスヤスヤと眠った。
「俺も、もう寝るわ。シャワーは明日浴びる」
「そうですか」
出流は自分だけ、軽くシャワーを浴びると、布団に潜り込んだ。
三人は平和に眠った。
平和に。
ファンフィーヌの城では、あいも変わらず、窓越しの会話が続いていた。
「勇士に逃げられ、執政官はやられた。……ウォーアビスはもう、駄目ね?」
「はっ、すでに村民が独立を果たしておりますれば」
「お前がついていながら」
「……自分のことを信用なさっていなかったのではなかったのですか」
「ふうん……【読心】ね?」
「――!」
内側の空気が、一瞬、攻撃的なものに変わる。
「信用していないのはお互い様ね。お前を昏倒させた者に、覚えはないの?」
「覚え……いきなり後ろからやられましたので、――なれど――」
デストダはこの報告をしていいものかどうか、迷った。が、今、ファンフィーヌは自分の主である。この都市で起こったことを逐一報告するは自分の役目。
「あの気配、自分には覚えが――ホワイトキャッスルにて存在した気配と同じでございました」
「――――!?」
空気が、また、変わった。が、今度は、攻撃的なものではない。どちらかというと、狼狽しているような、そんな空気。
しばらく、ファンフィーヌ側から、音がしなかった。
「……ファンフィーヌ様? ――いかが、致します」
「お前の邪魔をした者については、私が直接に、レドルアビデ様に確認するわ。お前は――そうね、今、勇士たちはどこにいるの」
「今現在はウォーレイドに滞在している模様にございます」
「ウォーレイド……ですって? ……そう……執政官を呼びなさい!」
「御意」
デストダはそのまま、飛び去った。部屋の中、ファンフィーヌは、一人、自分の身体を抱きしめて、細かくブルブルと震えた。
なぜ。
どうして――邪魔をしたの。
そんなに私が――、
ファンフィーヌはそのまま崩れた。首輪をギュッと握りしめると、そこから感じる暖かい流れを、彼女は全身で受け止めた。
五月は夜中に目を覚ました。
「……ん」
トイレは一人で行くんですよ、と、出流にクギをさされていたので、ベッドから起き上がると、トイレに向かった。
その時、――五月は、隣の部屋のヒソヒソ声を耳でとらえた。
「……今度の【人柱】は明後日らしいわ」
「でも……男を人柱として捧げたら、この村は平和でいられるなんて……」
扉の向こうで、女性らしき人物が二人ほど、一体何の話をしているのか、彼には解らなかった。
【ヒトバシラ】って何だろう。
明日、イーくんに聞いてみたら解るかな。
五月はそっと、部屋に戻った。頭の中で、『ヒトバシラヒトバシラヒトバシラ』と唱えつつ。五月は布団にもぐって、定期的な寝息をたて始めた。




