Chapter:59 「次に会う時は……敵かもしれない」
罪人だった男三人がまとめて【伝説の勇士】として登場したことで、処刑場が騒がしくなった。執政官がすっかり平常心を失って、慌てる。
「静まれっ、静まりなさい!」
「あなたにそう言う権利があるのですか。この村の男の方たちはみな処刑されたのですね、僕たちと同じように罪人として?」
「黙れ! かかりなさい、お前たち!!」
女戦士たちに命令する。彼女らは博希と五月に、まとめて襲いかかった。
「ブキヨデロー!」
「スタンバイ・マイウェポン!」
博希は女戦士たちを相手にしながら、出流に言った。
「出流、執政官は任した」
「承知しました。以一簣障江河――武器招来!」
出流は弓をキリキリと引き絞った。
「今までのどんな村よりも、あなたの犯した所業は罪深いですよ……!」
手にぐっと力を込める。瞬間――バッ! と、出流の手に、何かがぶつかった。
「!?」
「貴様にいいカッコはさせん」
「……さっき泡ふいて倒れた『鳥で虫でカッパ』さんですか」
多分、石でも投げたのだろう。出流は衝撃で弓を落としていた。声のするほうから現れたのは、デストダ。
「名前で呼べと言っているだろう!?」
「だから『鳥で虫でカッパ』なんじゃないんですか。敬意を表してさんづけまでしたというのに、これ以上僕にどうしろって言うんです」
「うるさい黙れっ! とにかく今のうちに逃げろ、執政官」
出流はその一言を聞き逃さなかった。
「あなたにもいいカッコはさせません」
ひょっ、と、素早く矢を射る。逃げかけた執政官の服の裾に、矢はしたたかに刺さり、彼女は見事に転んだ。
「……で、あなたは今更何がしたくて出てきたんです」
「お前たちが処刑されるものとばかり思っていたらこのザマだからな」
その時、後ろから声がした。
「出流。こっちは片づいたぜ。先にやってるぞ」
多分落書き大会が開かれるのだろう。出流はデストダと対峙しながら、言った。
「ああ、お疲れ様でした。僕の分も残しておいてください」
「……貴様らそのうち痛い目を見るぞ」
「もうとっくに見てますよ、何度もね。……さて、どう、するんです」
「ふん――自分に戦闘能力がないと思ったら大間違いだぞ、」
そこまでデストダが言った時。バコンッ、という大きな音とともに、彼はくちゃあ、とつぶやいて倒れた。
「役立たず」
その静かなつぶやきに、出流は聞き覚えがあった。逆光にさらされて、姿は影でしか見えないが、このシルエットは、――そしてその澄んだ声は、
「リオール、さん?」
「さん、はいらない。リオールで結構」
落書きをしていた博希と五月が、その言葉に反応して駆け寄る。リオールは三人の荷物を、ドサリと石畳の上に置いた。
「もしかして、あんたが俺たちを?」
「ええ」
五月がおずおずと聞く。
「ね、あなたは、味方?」
「そりゃ味方だよ、俺たちを助けてくれたし」
「……さあ、それは、どうかしら……次に会う時は……敵かもしれない」
「え……!?」
「ならばなぜ、助けてくれたんです!?」
リオールはそれに答えず、ひとつに結った長い髪をなびかせて、走り去っていった。石畳に、カツカツカツという、ブーツのヒール音が残った。
三人はその背中をずっと見つめていた。
「あの人、ホント、ぼくたちにそっくりだね。ヨロイとか」
「……そうですね」
「一体なんなんだろうな? 四人目の【伝説の勇士】かなあ」
「でも、敵かもしれないって言ってたよ」
謎は深まるばかりだった。紅の騎士、リオール。その正体は誰も知らない。
「さて、考えてたって仕方ないな。続き、やるか?」
「そうですね」
三人の、ワイワイ言う声が、処刑場に響いていた。周りでそれを見ていた村人たちが、恐ろしさから解放された喜びに、歓声を上げていた。これで処刑された男性たちが戻ってくるわけではないが、これからこの村を作っていくのは彼女たちである。
デストダも含め、執政官たちは顔の部品がどこにあるのかも解らないほど落書きされていた。しばらくは落ちないでしょうねえ――出流はそう、つぶやいて、苦笑した。
必要のなくなった門をぶち壊して、三人は村を出た。
「次の村へ行くか?」
「行きましょう。ファンフィーヌの支配がどう及んでいるか、知る必要があります」
「また逮捕されたりして」
「可能性はありますが、かといって、逃げてもいられませんよ」
「大丈夫だろ、また女装すればいいんだし」
「却下」
「なんで!」
不満そうな博希に、何の言葉もかけられず、二人はそのまま、歩き出した。




