Chapter:58 「噛みつくぞっ!!」
真っ昼間、村の真ん中においていきなり捕物があったことで、村は騒然となった。道端に泡をふいて倒れている『鳥で虫でカッパ』には誰も目をくれず、捕まったのは男らしい、なんでも女装していたとか、それは気の毒に云々ということがささやかれていた。
その人混みの中、一つの影が、動いた。
「…………」
黒く、長い髪の毛が、揺れる……。
今度はあの無機質な建物ではなく、博希たちは大きな屋敷の中に引きずられていった。
「ぶあっ」
強烈なシャワーの洗礼を浴びせられ、執政官のもとに連行される。
「はじめまして」
「……またかよ……」
博希がそう言ってため息をついたのは、イエローサンダの村々とそう変わらない、妙齢の婦人がそこにいたからである。
「パープルウォーも、女性の方が執政官をなさっておられるのですね?」
出流が聞くと、執政官は満足そうに答えた。
「ええ、そうよ。総統ファンフィーヌ様が男を好まれないのでね」
やはりそうだったか、と三人はそれぞれに納得する。
「……では僕たちはきっと、ただではすまないんでしょうね」
解っていて吐き捨てるように言った出流の顔を見ながら、執政官は唇の端をゆるく歪めた。
「そうだわねぇ、罪名は村内侵入と脱獄。それに加えて反乱罪まで追加しようかしら? ね、【伝説の勇士】?」
「!」
執政官の微笑に、博希は鳥肌を立てた。
「知ってやがったのか、……」
「ファンフィーヌ様から通達済みよ。すぐにこの三人の首をはねなさい!」
「はっ――」
拘束されている今の状態でエンブレムを出すことは難しかった。鎧装着もできず、博希たちは屋外の処刑場に連行された。村中に放送が響き渡る。
『これより罪人どもの処刑を行う! 村人は集え!』
どうせ無理矢理に集わして、僕たちの処刑を見せ物にするつもりなんでしょうね、と、出流は思った。
「いやだよう……ぼく死にたくないよう……」
五月はひたすらに泣いていた。それをいうなら出流とて同じ気持ちであった。アイルッシュにいる家族たちの顔が脳裏に去来し、うっかり彼は涙をこぼしかけた。
空が青い。おびえる村人たちが少しずつ集まり、こわごわと博希たちを見ていた。
「ただ今より、わが村に侵入し、脱獄まで図った罪人たちの処刑を始める!」
処刑人らしい、巨大な斧を持った大柄な女性が、野太い声でそう告げた。
博希がまず、一際高い壇上に連れていかれる。
「ちょ、いやなんで俺が一番なんだよ! ……そりゃ一番が五月でも出流でもイヤっちゃイヤだけどさ! はーなーせー! 放せってば!! 噛みつくぞっ!!」
わあわあと叫びながら暴れる博希を、五人もの女戦士たちが押さえにかかる。
「潔く死ね!!」
ドストレートな物言いをされながら博希は首根っこを押さえられ、台の上にたたきつけられた。
ドンドルルルルルル。太鼓が叩かれ、斧が降り下ろされる――――
「わ――――――ッ!!!!」
「博希サンっ!」
「いやだア、ヒロくんっ」
出流と五月は瞬間、目を閉じた。
誰もが、目を開けたつぎの映像で、博希の首が転がっていることを確信していた。が。
「…………え!?」
誰よりも早くつぶやいたのは出流。次に声を上げたのは、他ならぬ、博希だった。
「あれえ?! 俺生きてる!?」
あららららら、と、博希はつぶやいた。処刑人や女戦士たちはみな博希の周りで昏倒しているし、彼の縄はすっかりほどかれていた。
出流はその時、初めて気がついた。
「五月サン。僕ら、いつ、この縄をほどいてもらったんですかね?」
「え?」
この騒ぎで、すっかり、自分の事に頭が回っていなかったが、博希だけではなく、出流と五月の縄も、外されていた。
と、いうこと、は。
「鎧装着できますよっ! 博希サン!! 勇猛邁進・鎧冑変化!!」
「おうっ! レジェンドプロテクター・チェンジ!」
「ヨロイヨデロー!!」




