Chapter:56 「俺のプライドが許さねぇよ」
やっと目を覚ました博希は、もっと冷たくなった具なしスープを見て、こともあろうにあっためろと無理な注文をつけ、見張り官にどつかれた。
「何考えてるんです」
「俺らは罪なく捕まってんだぜ!? 何が悲しくてこんなクソ冷てぇスープ飲まされなきゃいけねぇんだよ!」
「持ってこられた当時はまだ少し温かったですよ」
「じゃ起こせよー」
「眠りを邪魔すると怒るでしょ博希サンは」
仕方なく冷めきったスープを平らげる博希を見ながら、出流は壁に自分の首を預けた。
「――さっき、見張り官から聞いたんですが――僕らは捧げ物になるそうです」
二人に視線を向けずひとりごとのようにそう語る出流を、博希と五月は静かに見た。
「ササゲモノ? どういう意味?」
「神様とかにお渡しするものという意味ですよ」
見張り官に聞こえないように、博希はこそと声をひそめた。
「誰に捧げるんだ……まさかレドルアビデか? そういやスイフルセントも同じようなことを言ってたな。美少年たちがレドルアビデへの【献上品】だって」
だとすれば、と出流は言葉をつなぐ。
「僕たちはたぶん、殺されます。それが【処分】――捧げ物としてね」
「なんでそうなるの!」
「男だからって逮捕された挙句に殺されるとか、冗談じゃねえぞ」
イエローサンダではどちらかというと、男の扱いは手厚かった方だった。それもこれもスイフルセントが男好きであったから。だがこの村は違う。完全に排除の方向に向いている。
「もしかして男の人がキライなのかなぁ、今度の総統は」
博希と出流は五月が言うのを聞いて、ふうむ――と顔を見合わせた。なるほど、そういう考え方が妥当かもしれなかった。
「こりゃ逃げなきゃいけねぇな……」
「ええ。僕らはこんなところで死ぬわけにはいきません」
となれば、鎧装着するしかない。正体が露見するのは不本意ではあるが、命には代えられない。――三人がうなずきあった時――それは一瞬の事だった。
ガッ! と、鮮やかな音がして、こちらに近づいていた見張り官が、ゴトリと崩れた。
「!?」
見たところ、死んではいないようだが、したたかにやられたらしく、多分、むこう一時間は目覚めまい。崩れた見張り官の影から、一人の人物。どうやらこの影が、彼女を倒したらしかった。
「誰だ?!」
博希は驚きの中から、ようやく、その言葉を紡いだ。逆光で、その姿がはっきりと見えない。
「だあれ? ……ぼくたちと……同じ、ヨロイ、着てる!?」
五月が叫んだ。人物は、しっ――というふうに、口に手をやった。見張り官から鍵を奪うと、博希たちの入っている牢屋の扉を開く。
「あなたは……?」
「…………名乗るほどの名は持ち合わせていないわ。早く逃げなさい」
「女か!?」
博希がその顔を見ようと、動くが、その女性らしき影の出した大きな剣に、止められる。さらりと――黒々とした髪が、揺れた。
「どうもありがとう。……でも、名前、本当に、ないの?」
五月がペコリと頭を下げながら聞いた。女性は少しよどんでから、言った。
「私の名は――リオール――、紅の騎士、リオール」
リオールと名乗った女性は、風のように走り去った。
「オイ、こいつらが目ぇ覚まさないうちに、とっととここ出ようぜ」
「そうだね。……落書きはしないの」
「俺のプライドが許さねぇよ。人に倒してもらったヤツに落書きするほど俺は堕ちちゃいねぇ」
そんな変なところにプライド持っても仕方ないような気もしますが、と、出流は突っ込もうと思ったが、いかんせん今その余裕はなかった。
「じゃあ、行きましょう。見つからないように」
それだけ言うのが精一杯。
建物内の見張り官はみな倒れていた。三人はそっと牢屋を出ると、建物からも脱出した。




