Chapter:54 「そんな理不尽な!」
パープルウォーに入ったようではあったが、博希たちの前に村はまだ見えなかった。森の中を歩き続け、あたりはだいぶ暗くなっていた。
「早く村を見つけなければ。ただでさえ寒いんですしね、夜はもっと冷えるでしょう」
三人は急いで森の中を走り抜けた。さくさくさくさくっ――草を蹴る音が三人分、森の中に響いて、やがてその音は、石畳を蹴る、かつかつという音に変わる。
ぽつ、ぽつと、オレンジ色の光が見えた。
「あっ、村だよ!」
「行こうぜ。とにかく泊まらせてもらわねぇと」
だが、村の入り口とおぼしき所には、門がそびえていた。ご丁寧に衛兵らしき人物までいる。
「大きい門だねえ。ぼく初めて見た」
「門っつーよりゃ、時代劇によくある関所に見えるがなあ」
「僕もそう思います。えらく警戒が厳重のようですが……」
「立ち入るのに何か要るんかな?」
とはいえ通してもらわないことには村に入れないようだし、この寒さの中野宿するわけにもいかないので、三人は門まで歩いた。
衛兵のような人物は、女性だった。それも、三人よりはるかに屈強そうなのが二人。
「こんちはー」
博希が気軽に挨拶する。
「止まれ!」
やはり黙って通してはもらえないらしい。出流はできる限り丁寧に言った。
「僕たちは旅をしているのですが、今晩の宿を求めてこの村に辿り着いた次第です。どうかこの門を開けてはいただけませんか」
「……旅人、だと?」
目の前の二人はそれだけつぶやいて博希たち三人をじろじろと見た。
「貴様ら、性別は」
それを聞いた出流は眉を少しひそめる。
「三人とも男ですが、それが何か」
それを聞くや否や、二人の衛兵は、うなずき合って、ホラ貝のようなものを吹いた。
プオ――――!
「なんだっ!?」
「なっ、何が始まるんですか!?」
「うわあ、すごく上手」
ずれたことを言って五月が拍手した時、門が開いて、衛兵そっくりな女性たちが二十人ほど、ドドドドッとなだれてきた。
「わあ」
たちまち囲まれる博希たち。
「村に侵入しようとした不埒な男どもにございます」
「では連行しよう。ご苦労だった」
三人は、あっという間に手錠をかけられ、腰に縄をつけられた。
「ど、どういうコトだよ!? 何すんだ!?」
「僕らはこんなことをされるいわれはありませんよ!?」
「電車ごっこなら明日にしようよう。ぼくもう眠い」
「違いますよ五月サン! 僕らは逮捕されたんですよ!」
「逮捕? 何で?」
「解りません。ただ、厄介なことに巻き込まれたのには、違いないようですが」
出流のその言葉を聞いて、女性の一人が、唇の端を歪めた。
「なぜ逮捕されたか解らない、だって? ……これは愉快だ!」
他の女性たちもゲタゲタと笑い出す。
「……何がおかしいんです?」
「逮捕された理由を教えてやろう。……お前たちが、男だからだよ」
「はあぁああ!?」
博希が叫んだ。
「そんな理不尽な! 男だから逮捕した!?」
「女の子だったらそのまま通れてたの?」
「そういうことだ。貴様らはしばらく牢屋に入ってもらう。歩け」
博希を先頭に、どこかへ引きずられてゆく。あたりはしんと静まり返り、三人とも、言葉を失っていた。
やがて無機質な白い建物に連れていかれた三人は、割合広めの部屋に入れられた。
ガッシャアアン! と、檻の閉まる音がする。
「本格的に犯罪人の気分ですね」
「男だから犯罪人だなんて話、聞いたコトねぇぞ」
「僕だって聞いたことありませんよ」
博希と出流は話しつつも、鎧装着しようという結論にはいきつかなかった。五月がすぐにまるくなって寝てしまったせいもあったし、まだ、この都市はおろか、村のことすらよく解っていないからだ。
黙って、冷たい床にごろんと横たわる二人。すぐに、博希のほうからイビキが聞こえてきた。出流は隅のほうにあった毛布を五月にかけてやり、博希には本人が脱いだコートをかけてやった。そうして彼は自分のコートをかぶると、天井を見た。
男性だから逮捕……ねえ。
この村も、じゃあ、女性しかいないんでしょうか……?
それにしても、納得がいきませんね。
彼は牢屋の中でひとり、うねうねと考え続けていた。
夜が、静かに更けていった。




