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Chapter:53 「幸せになってほしいなあって」

 結婚式の日はとてもよく晴れた。

 祝い事が久しぶりとあってか、村全体がお祭り騒ぎであった。

 三人はその盛り上がりぶりに圧倒されつつ、式を見守っていた。花嫁と花婿はそれぞれ村の街道を別々に一回りしてから、会場へ入るのだという。これまでのお互いの人生を再確認するための儀式らしい。

「やはり僕らの世界とはずいぶんと文化の相違があるのですね」

 出流は感心しながら様子を見、五月はただただ「きれーい、きれーい」と興奮していた。博希は立食パーティーでもしゃもしゃと料理を平らげながら、村の面々や新郎新婦と話をしていた。

「勇士様のおかげで、結婚することができました。本当に、なんと言っていいか……」

「泣くなよ、めでたい日だぜ。それより二人とも、ずっと仲良くな」

「もちろん! 死ぬまで一緒ですよ」

 幸せに満ちた二人をまぶしそうに見つめる博希の背中で、出流が声をかけた。

「博希サン。――明日、発ちますか?」

「ああ、俺はそのつもりだったぜ。沙織を捜さなきゃな」

 博希はそこまで言って、村人や新郎新婦に沙織のことを聞いて回ったが徒労に終わった話もした。旅人であった新郎すら知らなかったのだ、博希たちがこの村、ひいてはこの都市にいる理由はもうなかった。

「……ですよね」

 宴はお開きになりかけた。

 新婦が手に持っていた花束を投げる。

「皆様にお幸せを――」

 空でばらばらになった花が、参加者たちの手の中に少しずつ落ちていった。

「魔法か。粋なブーケトスだな」

 花を三輪ほど受け取った博希が感心したように言うが、五月はよくわかっていないようだった。

「これなあに」

「花嫁さんのブーケを受けとった人は、幸せになれるんですよ」

 出流が、自らの受け取った花を五月の手の中に集めて優しく教えた。

 五月はひととき嬉しそうだったが、すぐ、困った顔になる。

「でもこれ、旅には持って行けないね。明日あたり、この村、出るんでしょう」

 五月も同じ事を考えていたらしい。

「そうですね。そのうち枯れてしまうでしょうね」

 宿に戻った五月は、博希からも花をもらい、しばらく眺めてから、首から下げた笛を吹いた。

『お呼びですか?』

 少しして、フォルシーが窓際にとまる。

「フォルシー。この花ね、スカフィードに届けて欲しいの」

『スカフィード様に?』

「今日、ぼくたちが結婚式でもらった花なんだけど、幸せになれるんだって」

『それはそれは。スカフィード様もお喜びになるでしょう。では、お届けします』

「うん。ありがとう」

 フォルシーが飛び立っていってから数分後、テーブルから花の消えたわけを五月から聞いた出流は首をかしげた。

「スカフィードに花を? またどうして」

「あのね……お姫様のことで悩んでるみたいだったから、幸せになってほしいなあって」

 出流は五月の頭をくしゃっとやって、やわらかく笑った。

「五月サンは優しいですね」



 翌日、博希たちは宿の婦人と若夫婦に挨拶して、宿を出た。

「チズヨデロー」

 次の都市に行くための道は二つある。右に行けばパープルウォー、左ならばブルーロック……。

「棒倒しで決めるか」

 もともと、他に選択肢をあげられるわけでもなかったので、博希の言葉がすべてを決めた。五月が木々の中から、棒きれを拾ってくる。

「倒すぞー」

 この様子を遠くから見ていたのはデストダだった。棒は、右に倒れた。

「お、パープルウォーだ」

「じゃ、行きましょうか。今度はどんな都市なんでしょうかねえ」

「そうだ、何が降るんだろうね?」

「パープルですからねえ……紫色の何かが降るには違いないんでしょうけど」

 三人がわいわいとパープルウォーに向かって歩きだしたのを確認して、デストダは急ぎ飛び立った。



 博希たちがパープルウォーへ向かった、という報告をデストダから受けたレドルアビデは、唇の端をわずかに歪めた。

「……デストダ。お前の次なる主人は、……ファンフィーヌだ」

「はっ?! パープルウォーのファンフィーヌ、様、ですか?」

 そんな馬鹿なと言いたげにデストダは動揺する。

 あの都市の総統には仕えられない理由があったはずだが……と、彼は言いかけて飲み込んだ。

「他にどこのファンフィーヌに仕えろというのだ」

「いえ、……」

「行け。砂捜しも怠るな」

「……承知」

 動揺を残しつつも、デストダは飛び立っていった。

「――次はファンフィーヌ、お前の戦いを俺に見せてもらおうか……氷のように美しい、パープルウォー総統よ」

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