Chapter:50 「ヒロくんとイーくんは……ぼくが守る!」
「博希サンっ!」
「ヒロくんっ!」
出流と五月がバタバタと駆け込んでくる。
「あらあ」
スイフルセントは、くすくすと笑ったまま、三人を眺めていた。
「誰から仕留めてあげましょうか? ……三人とも素敵なんだもの、迷うわ」
「決定する前に、僕らが倒して差し上げますよ!」
出流がキリキリと弓を引き絞る。
「乾坤一擲!」
だが、放った矢は、閉じた扇で、あっさりと叩き落とされた。
「この扇は、これまでのものとは違ってよ。覚悟なさい、【伝説の勇士】!」
言うが早いか、扇がばさりと開かれる。電撃が三人をまっすぐに狙った。
「受け止めろ――っ!」
五月は以前のように、【声】で電撃を受け止めようとする。博希も出流もそれに倣った。だが、電撃は三人から武器を奪わんとする勢いで蛇のように絡みついた。
「消えない……っ!」
「ぐっ……!」
出流はスイフルセントをにらみつけた。全身、真っ白な布をまとったように見えるこの妖艶な婦人の首には、ヴォルシガがつけていたような首輪がついていた。
あれは、ライフクリスタルの? ……だったら、あれを攻撃してしまえば、スイフルセントは倒れる。五月もそう思ったらしい。
「イーくん、首輪、……」
「ええ」
出流は電撃による強力な引力の中、必死に、弓を引いた。
「――乾坤……一擲!」
バッ! と、一気に放たれる矢。一瞬だけスキのできたスイフルセントの首に、その矢は、命中した。
「首輪……!」
スイフルセントの絶句。首輪は二つに割れ、落ちた。当然、中に入っているライフクリスタルも、割れた。
「やったか!?」
博希が剣を取られまいと抵抗しながら、言う。
当然、三人とも、スイフルセントがヴォルシガのように、砂になるものと思っていた。しかし、スイフルセントは、崩れなかった……!
「な……何だと……!?」
「まさか、そんなこと、だって、ライフクリスタル……!?」
「どうして!? どうして!?」
三人ともパニックになっている。スイフルセントは嫌な笑いを彼らに向けた。
「首輪を狙ったことは褒めてあげるわ。ヴォルシガのことがあるんですものね、首輪にライフクリスタルが――と考えるのは当然のことよねえ。だけど少し、甘かったわね」
「じゃあ、そのライフクリスタルは……ダミー……!?」
答えはない。その代わりに、スイフルセントは、扇を操った。先程博希のソードをとらえたような鞭が、ぶあん、と生まれる。それも、三つ!
「……っ!」
まるでそれは蔓のように――細く伸びた電撃の鞭は、博希たちの身体をぐるぐると縛る。
「うああああ」
三人の身体が黄金色の輝きに包まれる。その威力はこれまでの比ではない。
身体中がガタガタと震える。食らい続ければ、間違いなく、死ぬ……!
「本当に素敵。これが三人バラバラだったら、もっと素敵だったのに。一人ずつ、楽しんで殺したのに」
本当に残念そうに言うスイフルセント。
「やっぱりアブねぇヤツ……だぜ……!」
博希は苦しみの淵からつぶやく。
出流は歯噛みしながら、なんとかこの鞭が破れないか考えていた。
五月は必死に涙を抑えていた。目に涙をいっぱいにためて、我慢している。
パパ。
ぼく、もうダメかもしれない。
もう一度、パパのスープ、飲みたかったな……
もっとぼくに、力があったら……
ぼくは苦しんでるひとを見ないふりなんて、したくない……!
ぼく……力がほしい。
ヒロくんも、イーくんも、みんなを守れる力がほしい!
瞬間、五月は、自分の身体がふわっと軽くなるのを感じた。心の奥底がぽかぽかと温かくなって、何かがせり出てきそうだった。
博希と出流は苦しむ中で、スイフルセントの攻撃とは違う光を見た。
「ありゃ……なんだ……!?」
五月の身体から、ピンク色の光がしゅうしゅうと漏れている。
「五月サン……!?」
漏れ出た光が、五月の目の前で武器を形作る。それは五月がいつも使っている細身のソードだった――
「馬鹿な」
出流はつぶやいた。五月が【声】を出すのを、誰も聞いていない。なにより武器は、さっきまで五月自身が握っていたはずだ。それなのに、武器が出てきた。あれはいったい……?
五月は光をまとうその武器を、愛おしそうに抱きしめる。
閉じられた長いまつ毛が、ゆっくりと開く――――
「ヒロくんとイーくんは……ぼくが守る!」
五月の瞳が開き切り、その叫び声が聞こえた瞬間だった。
ピンク色の光が、その場で爆発した。




