Chapter:49 「素敵」
数分後、城の前には執政官が無様に転がっていた。
死んではいない。周囲に針を散らばせ、白目をむいて倒れている彼女の額には【じょーしゃひっすい】と書かれている。誰が書いたのかは推して知るべしだが、当人たちはもう既にそこにはいなかった。
博希たちはまず、手分けをして男性たちを探すことにした。執政官がスイフルセントに引き渡したというのなら、城の中にいるはずだ。
大理石を駆け抜ける足音だけがいやに響いて聞こえる。博希は、何階めになるか数えるのもやめたほど高いところで、鉄格子を見つけた。
中に青年たちが何人もいる。これは間違いない――博希は鉄格子をひっつかんで聞いた。
「おいっ。あんたたち、村から連れてこられた人たちか?」
「は、はいっ……」
「離れてろ!」
博希はソードを振った。派手な音がして、鉄格子が砕ける。その中にいた青年たちがみな、安堵のため息をもらした。
「あなたは、【伝説の勇士】様なんですね?」
「そうだよ」
「ありがとうございます、ありがとうございます……」
「おら、早く行けよ、スイフルセントに見つからねぇうちにさ!」
博希が背中を叩く。
「はいっ」
数十人の青年たちは一斉に出口に向かって走り出した。
「出流! 五月! こっちにいたから今逃がしたぞ!」
『ぼくも見つけたー。さっき逃がしてあげたとこ』
『こちらもです。バラバラに閉じ込めてあったようですね』
それぞれ通信機で連絡を取り合う。博希は空になった鉄格子の中を見ながら、思った。
それにしてもあいつら「イエ俺も戦います」なんてなことも言わないで
そのまんまとっとと逃げやがった……なーんか、拍子抜けするなあ……
その瞬間だった。
「余計なことをしてくれたわね?」
博希は背後に殺気を感じて素早く振り返る。スイフルセントがそこにいた。
「……執政官はどうしたのかしらね」
博希は少しだけスイフルセントと距離を作ってから、言った。
「玄関にいるよ。ただし、起きてはいない」
ふうん。聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、そうつぶやく、スイフルセント。
瞬間的に博希は、その婦人の瞳に、危ない光がよぎるのを見た。
「!」
博希が思わず大股に飛びのくのと、スイフルセントが自身の扇をふるうのとは、ほぼ、同時だった。
「うあっ……!」
彼は一歩でなく、二歩のけぞった自分の判断力に心から感謝した。床はえぐれており、ぷすぷすと煙を立てていた。
「……は……」
「残念ね、もう少しだったのに」
なんて威力だ、と博希はつぶやいた。間違いなく、アイルッシュにいたときに持っていた扇の力の数倍はある!
「ずいぶん、強くなったな」
「せっかくレドルアビデ様に【献上】しようとしていた子たちを逃がしてしまうんですもの。先日のお礼も含めて、それ相応のおもてなしをしなくてはね?」
「献……!?」
博希がつぶやくより早く、スイフルセントは扇をふるった。博希の身体に、蛇のようにまとわりつく電撃!
「ぐあっ!」
「素敵! 苦痛に歪んだその表情! もっと見せて、私に!」
博希は身体のまわりにバチバチという痺れを残しながら、階段を駆け下りる。
「逃がさなくてよ!」
スイフルセントも後を追う。その瞳は恍惚としていた。なんてアブない女だ、博希は全身に痺れと悪寒をまとわりつかせながらソードを構えた。
「出流、五月! スイフルセントだ! 上ってきてくれ!!」
自分より下の階にいるはずの出流と五月に連絡を入れる。
「さっき、お前言ったな、【献上】? どういう意味だ」
スイフルセントは扇をぱちんと閉じた。
「知らなくてもいいことよ」
妖艶な瞳を向ける。博希の全身に、ずあっ――! と、悪寒が走った。扇が静かに開かれる。
「そのうち、あなたも【献上品】になるんですもの!」
扇がふられ、素早く閉じられる。黄金に輝く電撃が――細く、まるでそれは鞭のように、博希のソードを捕らえた!
「うわっ」
「放つだけと思ったら大間違いよ。素敵――金色の輝きと銀色の輝きが絡み合う様――美しいわ」
笑うスイフルセント。ソードだけは飛ばされてはいけない、と思いながら、博希は足をぐっと踏ん張っていた。
「レドルアビデへの【献上品】ってか? 冗談……!」
ぎり、と唇をかんで、指の一本一本に力をこめる博希。
「アウトカッティング!」
絡みついた電撃を切り裂く!
肩で息をしながら、彼はスイフルセントをぎっと睨みつけた。




