Chapter:48 「人の質問には答えるものですよ」
スイフルセントの唇が、微笑を形作る。
「デストダ。【伝説の勇士】が動いたようね」
彼女は【万里の水鏡】を見下ろしながら、くすくすと笑っている。デストダはいぶかしげに尋ねた。
「それで……」
「お誘いしてあげて? わが城へ」
「は!?」
「あら……不服?」
瞳がきらっ、と光った。
デストダは少しだけ、ぞくりとした。レドルアビデの見せる瞳に、似ていた。
「いえ、不服などということはありませんが、なぜ、そのような、」
「……レドルアビデ様の心は読めても、私の心は読めないというわけ?」
「えっ?!」
読めないわけがない。何のためにもらった【読心】の魔法なのか。デストダはしかし、それきり黙って、ひざまずき続けた。
「お行き。時間がないわ」
「ははっ」
デストダは飛び立った。
スイフルセントは扇を広げて、くすくすと笑いながら、言った。
「理由なんて簡単よ。早く倒してあげたいじゃない、朝を待たずにね?」
三人は街灯の下、ひそひそと話をしていた。
「どうする。まっすぐスイフルセントの城に行くか?」
「……でも、しょっぴかれた人たちがお屋敷にいるかもだし……」
城ならば夜目にもはっきり見えている。三人が判断に迷ったその時だった。
「おい、【伝説の勇士】」
声がして、闇夜に、すい、と、布がひらめく。声の主がまとっていたものだ、と三人が察するのに、時間はかからない。
「あっ」
街灯に照らされたその姿に、五月が声を上げた。
「この人! ヴォルシガのお城にきた……」
「ふん、あの時の奴か。その通り、自分の名は……」
「鳥で虫でカッパの人!!」
五月の半ばはしゃいだ大声が、夜の街に響き渡る。
「違うっ!! 自分は【鳥で虫でカッパ】などという回りくどい名前じゃない!!」
「あなたが次にスイフルセントに仕えるとおっしゃってた方ですか、鳥で虫でカッパの人」
「だから違う! 自分の名前はデストダ! レドルアビデ様の配下だっ!」
「……それで? なにしに来たんだお前?」
戦うつもりとみた三人は素早くエンブレムを出した。しかし、デストダは冷たい瞳で言い放った。
「スイフルセント様が首を長くしてお待ちでいらっしゃる。お前らを早く倒したいとな」
「!」
三人は遠くに高くそびえる城を見た。
「なんだそりゃ……挑戦状のつもりかよ」
「自分はスイフルセント様のご命令を遂行しているだけだ」
デストダはそれだけ言うと、城の方角目指して飛び立った。
「お城、行っちゃう……?」
「ああまであからさまにご招待されているのなら、行くしかないでしょう」
三人は鎧装着して、スイフルセントの城を目指し駆け出した。
夜の闇に、足音だけが響く。
忍び込むつもりでいたが、その必要はなくなった。彼らは城の入り口までたどり着き、その扉をぶち破って殴り込みをかけるつもりだった。
だが――――
「あんたたちが【伝説の勇士】ね」
城の正面に、女性が立っていた。スイフルセントではなかった。
「お前、誰だ」
「私? あなたたちがさっきまでいた村の執政官よ」
博希は静かに武器を出し、剣を肩のところでトントンともてあそびながら、言った。
「へぇ。屋敷ほっといて、こんなところにいていいのかよ」
五月と出流もそっと武器を出す。
びりびりと空気が冷えていた。
「なるほどねえ、スイフルセント様のおっしゃる通り、美少年揃いだわね」
「人の質問には答えるものですよ」
「しょっぴいた人たちは、どうしたの。お屋敷にいるの?」
クスリ、と、笑う唇。
「いいえ」
彼女は少しだけ肩をすくめると、手からフヒュッ――と、何かを飛ばした。
博希は反射的に、剣でそれを弾いた。金属的な音がした。
再び、片手に何かを構える。そのわずかな光を、出流は見逃さない。
「針……?!」
「ヒロくん、アレたぶん危ない!」
「解ってる。俺たちはあんたがたの人形になるつもりはないぜ」
「残念だわ、三人ともとても好みなんだけど」
「男はオモチャじゃねぇぞ。村の男たちはどこだっ!」
「あら遅い。もう、とっくに、スイフルセント様に引き渡したわ」
「引き渡すとか好みとかって、なんかサイテーだあ」
「そう? 私は楽しいけれどね」
「どうせ、いらなくなったら捨てるのでしょう?」
執政官は言葉に出さず、ただ、フッ、と、笑った。三人はそれで、執政官の返事を悟った。
「お前みたいなヤツが俺ァ一番嫌ェなんだ。男だろうが女だろうが、他人をもてあそんで喜んでるヤツがな」
執政官が針を投げるのと同時に、三人も武器を構えた。




