Chapter:47 「私の、恋人だったんです……」
夕食を終えて、さあ風呂に入って眠るだけ――となった、三人の部屋。
ドアが静かにノックされた。
「はい?」
出流が対応する。そこにいたのは、先程様子のおかしかった娘だった。
「どうしました?」
「……あの、さっきは……申し訳ありませんでした……」
「なんだなんだ。別に気にするこたねぇのに」
博希が奥から顔を出してそう言った。
「動揺してしまいまして……久しぶりの旅人さんだったので……」
「なんで久しぶりだと動揺するの?」
五月も顔を出して不思議そうに言う。
娘は少しだけ顔を伏せて、実は、と話しだした。
「お客様と同じように、旅人としてこの村にやってきた人がいて――その人は、私の、恋人だったんです……」
娘はしくしくと泣き出した。五月が「なんだかかわいそう」と言うので、博希は娘を室内に入れて話を聞くことにした。
彼女の話によると、この村は大きいがゆえに、旅人たちは長逗留になる傾向にあるという。その中で、村の女性たちと結ばれる旅人が決して少なくなかったのだという。
「まあ男が連れてかれちまった村だしな……」
娘の恋人だったというその男性も例外ではなく、滞在中に娘と仲良くなったらしい。
「旅人さんたちは――長くここにいるぶん、村人と同じとみなされて――執政官様の通達で、連れていかれてしまったのです」
そして当然のように、娘の恋人も連れていかれた。
「結婚の約束までしていて……待っててね、帰ってくるからね、と彼は言ったのですが……」
音沙汰はなかった。
それから約一年、旅人は訪れなかったのだという。
「つまりおかみさんがおっしゃったように、しょっぴかれたと」
「……たぶん執政官の屋敷か、そうでなきゃスイフルセントの城にいるよな」
「だと思うけどねぇ」
「これから行ってみっか。どうせ明日にゃ殴り込むつもりだったしな」
「夜のほうが、かえって忍び込みやすいかもしれませんね」
「そうだね」
「え……あの……」
一人話題に取り残されている娘に、博希は優しく言った。
「俺たちが、しょっぴかれた人たちの行方を探ってくるよ」
「えっ……でも、お客様にそんなこと……」
「大丈夫です。あなたは、ここで、待っていてください」
出流はそう言ってにっこり笑う。念のための宿賃も置いてゆき、三人はそっと宿を出た。
だがこの闇夜の中、昼間に村を回っていなかったこともあって、執政官の屋敷がどこにあるのかはわからなかった。五月の地図機能も村の中まではサポートしておらず、彼らは一瞬、途方に暮れた。
かつん、と、尖った靴音が聞こえる。スイフルセントの目の前に、うやうやしく頭を下げる婦人がいた。
「スイフルセント様、私の村に、【伝説の勇士】が滞在しているとの話――事実で?」
「ええ。多分、程なく、私のところにやってくると思うけれど」
「まさか! その前に、私が片づけます」
扇がばさりと開いた。
「……できるかしら?」
「なんと……?」
「彼らはね。私たち好みの、美少年揃いよ。知力も体力も、そしてその外見も、とても素敵。倒せとのご命令がとても残念よ、人形として置いておいてもいいくらいなのにね」
三人がここにいたら口をそろえて「お断りだ!!」と言いそうなことを、スイフルセントは妖艶な笑みで言ってのけた。
「それほどの美少年ならば――私も見てみとうございますわ。捕らえますか」
「その必要はないわ。すでにこの村の話は彼らの耳に入っているはず……」
スイフルセントは知っているのである。きっと、博希たちなら、村の話に逆上するであろうことを。そして、自分の居城に、自分を倒すためにやってくるであろうことを。
ほほほほほ、という、二つの笑い声が、スイフルセントの居城に響いた。




