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Chapter:39 「【受け止めろ】!」

 父親はカップをくるくると回しながら言った。

「ゲームの話だったね。魔物を倒して、世界を守ってくれと頼まれた勇者がいるとするね?」

 五月はドキッとした。

「魔物が、怪獣の姿をしてるものばかりとは限らない。時には、人間の姿をしていることも、あったりするよね?」

 うん――五月は、声にならない肯定を、首で表した。

「でも、勇者は、魔物を倒すんだ。それは、彼に、守らなければならない世界があるから」

「守らなければならない世界……」

「もちろん、【倒す】ってことは、【殺して】いることと違いがない。けれどそうしなきゃ、その世界の人々が危ないんだ」

「……うん……」

「勇者は多分――苦しいと思うよ――それでも。やらなければいけない。逃げられない。ゲームには出てこないだろうけど、心の中では、倒した魔物に、謝っているかもしれない」

 五月は机の上を見た。小ビンが、青く、光っている。

 どうして自分が、ヴォルシガの砂を、あの時、無意識のうちに握ったのか――今なら、解る気が、した。

「もちろん、人であっても、魔物であっても、【殺す】事は悪いことだよ。でも、勇者は、感謝される。なぜだろうね」

「誰かを、守ってるから……?」

「多分ね。お父さんも、ちゃんとした答えは、出せていないんだよ。魔物からしたら、勇者は、悪い人だし、ね。五月は、優しい子だから、多分、誰が相手でも、倒すのに戸惑いがあるんだろうね。それはそれで、構わないよ」

「うん」

「でも、目の前で誰かが苦しんでいるのを、見て見ぬふりをするような人間だけには、なってほしくない。解るね?」

「うん」

 五月はすこし、しゃんとした顔で、父親を見た。そして、思い出したように――ラジオを、つける。

『警察本部のヘリを墜落させた電気強奪犯は、話し合いに当たっていると思われる謎の少年二人を電気攻撃の直中におき、警察との膠着状態が――』

「………………!」

 カーテンを開ける。五月の耳に、救急車や消防車の音が飛び込んできた。ラジオのニュースが、ヘリコプターは不時着して、ケガ人が何人も出ていると伝えた。

「…………」

 ぐっ。五月は、拳を握りしめて、唇を固く噛んだ。

 左手が、じわっと、熱くなるのを感じた。



 アスファルトに叩きつけられて、博希と出流は、アスファルトに伏したまま、「――ぐう」と、小さく、うめいた。

「…………のヤロー……」

「素敵。まだ、起き上がってこようとするのね」

 ……ざけんじゃねぇぞ……博希のつぶやきが、出流には聞こえるような気がした。そして、わずかに、震えた。

 もし今度――あの電撃をくらったら――

「まだまだ――扇の電気はたっぷり余っていてよ?」 

 スイフルセントはそう言って、ほっほほ、と、笑った。やっと立ち上がった博希と出流は、しかし、体力の限界にきていた。

「あとどのくらいで死ぬのかしら。あなた方の死に顔が楽しみだこと」

 ぞくりと、出流の背筋に戦慄が走る。

 死ぬ。

 僕らが――きょう、ここで?

「……そのあとは……アイルッシュの方々も……闇に葬る気ですか!?」

 出流が言った。その声は、いつになく、強かった。

「さあ。それは、どうかしら」

 スイフルセントはつまらなさそうに言った。

「私は、レドルアビデ様のご命令にしたがって動く者。アイルッシュは破壊するにはとてもいいところだけれど――レドルアビデ様がよせとおっしゃるなら、やめるだけよ」

 す、と、スイフルセントが高度を下げる。

「さあ、【伝説の勇士】! 無様に、死になさい!」

 はっ。

 博希と出流が、同時に、スイフルセントのほうを見る。扇が――舞う!

 その瞬間だった。

「【受け止めろ】!」

 ハイトーンだが力強い【声】とともに、二人の目の前に迫っていた電撃がかき消えた。

「えっ……」

「ヒロくんとイーくんは、殺させない! 絶対に!! そして、もう、この街の人の誰も、殺させないっ!!」

「さつ……!」

 細身のソードを構えた五月が、黄色い電撃を受け止めて、博希と出流の前に立っていた――――!

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