Chapter:38 「もちろん、みんな命は平等だ」
出流は何発目かの電撃をかろうじて避けると、博希を呼んだ。
「このまま固まって逃げていても、どうにもなりません。それぞれ、離れたビルの陰に隠れながら戦いましょう!」
彼はできるだけ、人の少ない所に、スイフルセントを引き込むつもりでいた。
だが。
「無駄だわよ、【伝説の勇士】」
スイフルセントは淡々と言ってのけて、扇をふるった。
「!!」
二人の足元が、火を噴いた。
「……なっ……!?」
電撃の威力が爆発まで引き起こした!? 爆風に吹き飛ばされ、博希と出流はしたたかに背中を打つ。
二人の頭上で、バラバラバラバラッと音がする。警察のヘリコプターが旋回していた。
「うるっさいわねえ。あまり好戦的すぎても、うっとうしいだけね!」
スイフルセントが扇を――今度はひらひらではなく――ばさっ! と、振った。
「!」
ヘリコプターが、一瞬、真っ黄色に輝いた。出流は思わず、身体を伏せた。
「……なんてことを……っ!」
ヘリコプターは墜落してゆく。周りで様子を窺う警官たちも、一瞬、唖然とした。自分たちの力の絶望的なことを感じた。
博希はギリッ……! と唇を噛む。出流は弓を構えた。
「スイフルセント! この世界から立ち去りなさい!」
弓をいっぱいに引き絞る。その声には、一寸の余裕もない。
「誰が立ち去るもんですか。こんなに楽しい世界を!」
言うなり、スイフルセントは出流に矢を放つ間を与えなかった。
「うああっ!」
五月は小ビンを机に置き、ベッドに座り直した。
父親はスープカップを五月に渡し、五月の隣に座った。
「ありがとう」
一口飲むと、体がじいん、とした。
「帰ってきて閉じこもったままだっていうから。お腹減ってるだろうと思ってね」
コンソメスープと父親の温かさが、五月の心を少しだけ、ほぐした。
五月はカップをぎゅっと握る。言ってもいいものかどうか、迷った。
だが考えるより先に――恐る恐る、口が、動いていた。
「あのね、もしかね――」
「うん?」
「――パパがね、誰かを、死なせちゃったら、殺しちゃったら、どうする?」
父親は五月の瞳を見つめた。冗談で聞いているのではないことは、それで、解った。
「――ゲームか何かの――話かい?」
本当のことを話すわけにはいかない。五月はぶんぶんと、首を縦に振った。
「そうか……うん、むつかしい――話だね?」
不安そうな瞳で、五月は父親を見た。
「たとえばね」
父親は一口、コンソメスープを飲んだ。
「お父さんがもしも、誰かを死なせてしまうとしたら、殺してしまうとしたら。それはね、多分、他の誰かのためだと思う」
「…………?」
「お父さんは人殺しじゃない。殺したくて、人を殺しはしない。解るね?」
少し――五月の身体が引きつった。しかし、しっかり、うなずいた。
「だけど、もし、目の前で、五月やお母さんが、誰かに殺されそうになっていたら。そうしたら、お父さんは、その誰かを殺してでも、五月やお母さんを守ろうとすると思う」
「でも」
コンソメスープを見つめていた五月は、ばっ、と、顔を上げた。
「そう、もちろん、みんな命は平等だ。あの人を殺していいとか、この人は生かしておくベきだとかは、誰にも決められない」
五月はこくん、とうなずく。




