Chapter:37 「ここで死んでもらうわ!」
スイフルセントの扇は、黄味を深め、輝きを一層増していた。
「ホホホホホホ。面白いわねえ」
これは彼女の【魔法】ともいえた。扇で、電力という電力を吸い取って、それを、生き物に放出しているのである。学校で生徒たちがくらった攻撃がこれで、彼らは、いわば一種の感電状態に陥っているのであった。
そして、街の人々も――
『そっ、そこの……宙に浮いている者! 止まれ! というか降りろ!』
スイフルセントは嬉しそうにパトカーのほうを見ると、扇を振るった。
パトカーが黄色い光に包まれ、ふわりと浮き上がる。
『うあああああっ』
中の警官たちが感電状態になり、動けなくなったところで、パトカーは逆さまに地上へ叩きつけられた。痺れながらもパトカーから脱出した警官たちを、スイフルセントはにい、と笑いながら見下げていた。
「ホーホホホホホホ……アイルッシュ人というのは本当に好戦的にできているのねえ。かなわないと解っていても、手向かうのだから!」
扇はなおも、電気を吸い続ける。その時だった。乾坤一擲! ――と声がして、スイフルセントの真横を、一本の矢がかすめた。
「あらあ。まさか本当に来るなんて……!」
「あなたがスイフルセントですね!? それ以上の暴挙は許しませんよ!!」
駆けつけた博希と出流。スイフルセントは、すい、と降下し、微笑んだ。
「初めまして。お目にかかれて嬉しいわ、【伝説の勇士】」
出流はぎりぎりと弓を引き絞る。
「あなたはやり過ぎました。僕たちの友人を大勢傷つけた罪は重い! ――必殺必中!」
しかし――
「残念だわ。あなた方なら、私の城にお招きしてもよかったのに」
なぜかとても残念そうに、スイフルセントは言い、出流に向かって、扇を振るった。
「うぐあっ……」
一瞬。黄色い稲妻が矢を二つに裂き、出流の身体をぐるぐると縛る。
「出流っ!」
振り返る博希。だがスイフルセントはすでに、二発目を彼に向かって放っていたところだった。避ける間もなく、稲妻がバチバチと音を立てて博希を縛った。
「があっ」
「【伝説の勇士】――あなたがたと遊べ、という命令は受けていないのよ! レドルアビデ様のためにも、ここで死んでもらうわ!」
「!!」
出流と博希は、今度はいっペんに、電撃をくらった。
強固な鎧である、まさか壊れるということはないだろうが、スイフルセントの電撃をくらいながら、博希も出流も、ひょっとしたら、ということを考え始めていた。
扇が大きく揺れる。その度に、出流と博希は電撃をくらった。彼らもよけるだけの努力はしているつもりだが、一定方向に飛ばない電撃が、二人を襲う。
「うわああっ!」
「……づうっ!」
五月は部屋で、泣いていた。
ラジオからは、少年たちが電撃をくらった、少年たちの身元が解る方は申し出てくれ、中継車が電撃をくらって動けなくなった、すでに感電者が一万人を越えた、とかいうニュースが繰り返し聴こえていた。
動けない。
エンブレムも出ない。
ねえ、イーくん。
ぼくはイーくんとの約束を、守れそうにないよ。
小ビンの中の砂は、キラキラと光っていた。五月はその砂を見つめながら、やはり、ベッドから起き上がることはできなかった。
ぎゅうっ――と、小ビンを胸のところで抱きしめると、また、ぽろぽろと涙がこぼれてきた。
その時、ドアの所で、ノック音がした。
「五月」
「……パパ……?」
「コンソメスープを温めてきたんだ。二人で飲もう」
五月はラジオをぷつんと切ると、そっと、部屋の鍵を開けた。




