Chapter:32 「どうやって帰ればいいんです」
三人は、いきなりのスカフィードからの「帰れ」命令に、一瞬、呆気にとられた。
「アイルッシュに? つまり、俺たちのもといたところに帰れってことか?」
「なぜです?」
スカフィードは言った。
『実は……この世界に再び“ほころび”ができた。お前たちがこの世界にやってきたときの“ほころび”と似ている。そこから……イエローサンダ総統、スイフルセントがアイルッシュヘ向かった反応がある!』
「え――――――っ!?」
「スイフルセントがアイルッシュヘ!?」
『だからいったん帰って、とにかくスイフルセントを倒すか強制送還してくれ!』
博希たちは戸惑った。
「ンなこと言うけどなあ、俺たちはどうやって帰りゃいいんだよ!?」
『心配はいらない、今、使いをやる!』
一方的に通信は切れた。
「…………」
三人は顔を見合わせた。
「どういうこと?」
「レドルアビデのヤローの差し金だろうさ……」
「エラいことになりましたね。僕たちがどれだけ向こうで戦えるか……」
その時。大きな翼の――例えて言うなら、鷹か何かに似た生き物が、博希たちのもとに降りる。
「うおわ」
『お乗り下さい』
「しゃべったあ!?」
『スカフィード様の使いにございます。勇士様方、お乗りに』
博希と五月が面白がって、次々に鷹の背中に乗る。出流も素直に乗った。鷹は一気に飛び上がり、羽ばたく。
「すみませんね、三人も乗せていただいて」
『いえいえ、これが仕事ですから』
「鳥の背中に乗ったのなんか初めてだぜっ」
鷹はゆっくりと、スカフィードの家の前に降り立った。
「ありがとう」
『いえ。……スカフィード様。お連れしました』
ドアを開ける音がする。
「久し振りだな。もう、あまり話している暇はないのだが……」
「で? どうやって帰ればいいんです」
「私が、わざと“ほころび”を作る。アイルッシュとコスポルーダを行き来できる“ほころび”をね」
「それはいいですが、どこにつながっているんです、その“ほころび”は」
「君たちが最初にここにきたときに使った場所だ」
「……温室かあ……」
博希が苦笑する。また蔓に絡められて戻ってくることになるのかなあ、とでも思ったのだろう。だが、スカフィードはそんな博希の心中を読み取ったかのように、言った。
「“ほころび”を召喚するには、魔法を使えばいい。呪文は【ホールディア】だ」
三人はアイルッシュに帰る決意を固めた。
「いくぞっ。【ホールディア】――」
スカフィードが自分の杖を振り回して、黒い空間を作る。
「うあー、懐かしい」
自分たちが吸い込まれた空間と同じだ。
「これが“ほころび”だ。さあ、行け!」
「おうっ!」
「うん」
「それじゃあ、また」
三人は、“ほころび”の向こうに消えた。スカフィードと鷹は、その後ろ姿をいつまでも見つめていた。
温室の片隅がぐね、とゆがみ、黒い空間が生まれる。
「うがっ」
「きゃっ」
「わあ」
三人はまだ慣れてなかったせいか、温室でしたたかにしりもちをついた。
「今度はちゃんと着地しなくちゃいけませんねえ……」
出流がぼやいたその時、博希が、焦って言った。
「おいっ、出流っ。今日は何日だ!?」
「あ、そうか。何日かコスポルーダにいたから……ぼくらも失踪したって思われてるかも」
笑い事ではない。確か二週間近くは旅をしていたはずだ。
「うわっ! 配達の手伝い……!」
「いやだー、パパとママが心配してるっ」
「勉強が……二週間も勉強が!? ……」
彼らにとって、最たる問題は失踪したとかそういうことではなくなっている。
「あ、そうだ、カバンはっ……」
温室に入る前は午後の授業が始まる前だった。したがってカバンは教室にあるはずなのである、今の今まで教室に置きっ放しにしてくれていれば。取りにいかなくては。というか、カバンだけ家に帰っているのではないか――
三人は温室から出て、教室へ行ってみた。
「あ、カバンあったよ!」
五月が指差す。
「そうですね。よかったですね」
三人が自分のカバンを抱えたとき、出流は信じられないものを見た。
「……七月……十三日……水曜……日……!?」
「何だとう!?」
博希が大声を上げる。黒板には日付が書いてある。七月十三日、水曜日。日直――……
「ぼくたちが……温室に入った日だよね……」
五月が立ちすくむ。つまり、沙織が、失踪したと噂が流れ――博希が沙織捜しを決意し――三人が温室の観葉植物に飲み込まれた――その日であったのだ。




