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Chapter:29 「ここで永久に【花】として愛でるだけよ」

 相手はだんまりを決め込んでいた。出流のつぶやきには答えず、ただ、黙って起き上がった出流と博希を見下ろしていた。

「………………」

 二人は、目の前の【神隠し】の、その早すぎる動きに、対応できなかった。起きたばかりで頭が回っていなかったというせいもあった。

 【神隠し】は本当に素早く、出流の首筋を殴り倒した。

「!」

 出流は昏倒して、動かなくなった。博希は一瞬、黙って、それから、何も言えなくなった。そうして【神隠し】は、出流を運んでいってしまった。

 これだけの騒ぎがあれば、さすがに五月でも目覚めるものである。

「……ヒロくん……? イーくんは? イーくんが【神隠し】に遭ったの?」

「くっそが――――!」

 俺ァ【神隠し】が出流の首ぶったたいて、出流を担ぐ時まで、自分が【神隠し】に遭うもんだと思ってたんだぜ――そう、博希は言った。五月は呆気にとられるしかなかった。

「追うぞ五月! 奴らぶん殴らねーと気がすまねー!」

「うんっ」

 目的がちょっと違っているような気がするけれど、と五月は思ったが、博希がやる気になっているなら口ははさむまいとも思った。

 二人はまだ暗い中、執政官の屋敷を目指した。



 出流は床の冷たさで目を覚ました。

「……いたた……」

 首筋がじんじんと痛む。手を当てようとして、彼は、身体の自由が利かないことに気がついた。じゃら、と、鎖の音がする。両の腕が広げられて拘束されていた。

「……まずいですね」

 これではエンブレムを出せない。鎧装着は不可能ということだ。

 それにしてもここはいったいどこなのか。おそらく執政官の屋敷に連れてこられたのだろうが、あの大きい屋敷のどの位置なのか。せめて通信がオープンにできれば、二人に連絡がとれるのだが――いまは、それも、叶わない。

 出流は不自由な身体を少し動かして、あたりを観察した。小窓があるが、明るくない――そんなに長いこと気を失っていた感覚はない。まだ夜明け前なのか。

「博希サン……五月サン……」

 つぶやいたそのときだった。出流のいる部屋の扉が、静かに開いた。

「執政官様がお会いになる。そこへなおれ」

 入ってきた男はそう告げた。なおれも何もこんな状態でどうしろと――悪態をつきそうになるのをどうにか抑える。

「あなたが新しい【花】ね」

 出流はその声を聞き、絶句した。目の前にいたのは、妙齢の婦人。

「驚いているようね。イエローサンダの執政官はほとんど女性よ、総統スイフルセント様が女性であらせられるのでね?」

 ほう、なるほど……出流は思った。すべての総統、すべての執政官が男性というわけでもないのだ。

「情報としては十分かしら? 【伝説の勇士】」

「!?」

 もうバレている!?

「スイフルセント様からの連絡が入っているの。この村に【伝説の勇士】がいる、とね?」

 出流は言いよどんだ。

「……もし……僕がそうでなかったら……いかがなさいます……?」

「愚問ね」

 冷たい声だった。出流は執政官を見ないように――うつむいた。

「あなたをここで永久に【花】として愛でるだけよ」

 出流ははっきりと、ごまかしはきかないと思った。

「……それ、で。どうするつもりです……?」

 拘束された腕が痛い。苦悶の表情を浮かべ、出流は冷や汗と脂汗を流しながら言った。

「そうね。あなたのお仲間も、【花】として愛でて差し上げようかしら?」

「本気……ですか」

「私は嘘と冗談は嫌い。勇士だろうとなんだろうと、私は【花】を愛でられればそれでいいの」

「ではお呼びになればよろしい。すぐにでもとんでくるでしょうよ」

「そう――ではそうさせてもらうわね」

 しかし執政官は出流の顎にすっ……と手を触れた。出流は全身に鳥肌が立った。

「本当に素敵なこと。できれば死ぬまで、私の側にいてほしいわ」

 そんなことしたら日がな一日毒づいてばっかりですよ――出流は思ったが、声には出さない。執政官はそのまま、出流の腕の通信機に手を触れた。スイッチを入れる。

「聞こえていたら返事していただきたいわ。あなた方の仲間はここにいてよ。安心してね、まだ手は出していないから」

 通信機の向こうから声が聞こえた。

『出す気なのかよっ!!』

 博希サンだ、出流は思った。

「さあ。それはあなた方次第ね」

 あとは、ふふふふふ、という含み声だけで、何も言わない。執政官はそのまま、ぷつん――と通信を切った。

 出流は満足げに微笑む執政官を見ながら、歯噛みした。おそらく、こんな鎖、引きちぎろうと思えば引きちぎれるはずなのだ。だが、力のコントロールがうまくいかないのか、それとも精神的に疲弊しているからなのか、鎖はびくともしなかった。

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