Chapter:28 「動物か……」
「さて」
博希と出流は顔を突き合わせた。
「両方さらわれるのははさすがになあ」
「今回はケースがケースです。どちらか片方のほうがいいでしょうね」
博希は腕を組んだ。
「……俺だな」
「何で博希サンなんです」
「お前、自分が神隠しに遭うなんて思ってんじゃないだろうな」
「いや執政官様の趣味がどっちかは解らないわけですから」
「お前やっぱり自分がさらわれると思ってる」
「思ってませんよっ」
議論が不毛なものになりそうな前に、出流は黙ることにした。この際どちらがさらわれようと、残った二人が間違いなく後を追ってくれればいいのだ。その組み合わせがどうなるかの違いだけである。
しばらくして、五月が昼寝から目覚めた。あたりが暗くなったのを見計らって、三人は執政官の屋敷へと向かった。
「うわっ、前の二倍はありますよっ」
三人は屋敷の大きさに圧倒された。これはデカいなんてもんじゃない。もしも執政官に逃げられた日には、捕まえるのは一生かかっても不可能かもしれない。大袈裟でなく、そんな事を思わせるほど、その屋敷は並でない大きさを誇っていた。
「塀も高いですねえ。もしかして、逃亡防止でしょうか……」
塀をペたんこペたんこと叩きながら、出流が言った。
「しかも、相当、がっちりしてますね」
出流はキョロキョロとあたりを見回した。そして、地面を蹴った。
「ふっ!」
「!」
博希と五月は、出流が塀の上に乗ったのを見て、絶句した。今まで体育の授業では落ちこぼれに等しかった出流が、いったいどうしたことか。
「ど、どうしたんだ、出流!? ……」
「僕のマネをしてみてください。僕の予想が正しければ、博希サンはもとより、五月サンも、成功するはずです」
「え~~……?」
五月は半信半旋ながらも、出流のマネをして、塀に乗ろうと地面を蹴った。
「ヒャッ」
信じられない高さを飛んで、五月も塀の上に乗った。
「よしっ。じゃあ俺も」
博希も思いきって、地面を蹴る。塀の上に乗ると、屋敷の中は何とか見えた。立って歩くのはまずい。三人は塀の上を這って歩きながら、中の観察を始めた。
「飲み会かなんかやってやがんのか……」
博希がそうつぶやいたのは、いくつかの部屋に明かりが点っており、騒ぎ声が聞こえたからである。
「美少年たちはどこにいるんでしょうねえ」
「屋敷が二つに分かれてるみたい。あっちにいるんじゃないかなあ」
「そうかもなっ。じゃちょっくら見てくらぁ」
その時――
「はっ。だめです博希サンっ。隠れてっ!」
誰かが出てくる。だが博希はすでに飛び出した後。どうやら用心棒らしいが、男か女かはここからでは解らない。
「むっ、そこにいるのは誰だ!?」
「あちゃあ」
出流はつぶやいたが、今、ここで正体がばれてもどうかと思う。博希もそう思ったらしく、とっさに、言った。
「ニャアニャアニャアニャアニャア」
「動物か……」
よくそんな古典的なごまかし方でうまくいったものである。しかも棒読み調で、本物が聞いたら毛を逆立てて怒りそうな鳴き声。しかし執政官の用心棒相手にはこの作戦が効いたらしく、用心棒はそのまま部屋に戻っていって、再びドンチャン騒ぎを始めた。
「は~~~~っ」
三人は体中から力が抜けたようにそこに崩れた。
「帰りましょう。これ以上長くここにいると、また疑われかねません」
「そうだね。もう、戻ろう」
「ああ」
三人は塀から飛び下りると、宿屋に向かった。
「とりあえず、寝ましょう。【神隠し】が来たら、叩き起こされるでしょうし、その前に僕が目を覚ましますよ」
「そうだね。でもぼくも見てみたいなぁ。起こしてくれる?」
「……起こすほど余裕があればな」
そして、真夜中――――
戸締まりしたはずのドアが、開く音がする。
針金で開けたな、と、気がつくのに、時間はいらない。
いつもは熟睡しているはずの博希も、目が覚めた。
「あなた方が、【神隠し】ですね?」




