Chapter:26 「その時は、遠慮はいらぬ」
博希はどさあっ、と、床に寝転んだ。
「まぁた執政官が悪いコトやらかしてやがる」
「その上にはきっと似たような――美少年好きの総統がいるんでしょうねえ……」
どきっ、と、五月が身を固くする。そのしぐさに気がついたのは、多分、出流だけであろう。
「この村に男性がいない理由は神隠し、でしたか……いやあどの村の執政官様も神懸かった言い伝えがお好きなようですね」
「前回が娘で今度ァ美少年かよ。そういう奴しかいねぇのかこの世界には!?」
五月はベッドに横たわって、ぼんやり天井を見ながら、手の中で、何かを転がしている。
「さっきもらったものですか?」
「ん? ……うん。まあね」
「何もらったんだよ。見せろよ」
「だめっ。ぼくのだもん。ヒロくんだって秘密のもの見られたくないでしょ」
五月にズバリと言われ、博希はうっ、と言いよどんだ。
「それよりさ、この村の男の人って、言っちゃあ悪いけど、美少年ばかりじゃあなかったと思うんだけど。他の人はどうしたのかな」
「ああ……そうですね。これは調べてみる必要がありそうですね」
「さっきの話だけじゃ、信憑性に欠ける。噂が現実かどうか調べようぜ」
「それと、美少年以外の男の方々の行方も」
「明日やることは決まったね」
三人はいつものように、握り拳をちょん、と突き合わせた。
「とりあえず、今夜は戸締まりを厳重にして眠りましょう」
三人は程なくして、眠った。
口元を美しい扇で隠した女性が、黒い翼の支配者の前にいた。
「何かご用とか……?」
「うん。最近、お前の都市もなかなかに活気があるそうだな」
「それはもう。私が差し出している生け贄はいかがでして?」
「よい肥やしとなっているぞ」
「そうですか。それはそれは。ほほほほほ」
「ところで、だ。アイルッシュに行ってみる気はないか。今すぐに、でなくて構わぬが」
「アイルッシュへ……」
黄色い髪が揺れた。わずかに、赤い口紅を塗った唇が見える。
「それはもしかすると、【伝説の勇士】の?」
「いや、ひとまずアイルッシュで遊べ。勇士どもが抵抗してくるかはわからんが、もし来たなら――その時は、遠慮はいらぬ」
「承知いたしました。不肖スイフルセント、アイルッシュへ行かせていただきますわ、レドルアビデ様」
「そうか」
「私も……【伝説の勇士】とやらと、戦ってみとうございますわ」
くすり……と、扇の向こうの唇が形よく歪んだ。
レドルアビデは、【エヴィーアの花】の元へ行った。
「最近とみに美しくなってゆくな、マスカレッタ……。その茎も、その葉も、そして何よりその赤き花びらも――」
ぷつっ――――長く伸びた爪で、白磁のような自らの肌に傷をつける。真っ白い、だがけして貧弱ではない腕に、赤い筋がズウ――ッと浮かんだ。そこから、ポタリ……と、血が滴る。レドルアビデは腕をそのまま、【エヴィーアの花】の根元に近づけた。土の中に、レドルアビデの血が、ポタリ、ポタリと落ちてゆく。そして――茎がわずかに赤くそまり、【花】が、赤みを増した。
「もっと血が必要だな。スカフィードの血で美しく染まりたいか、マスカレッタ? フフフ……」
【エヴィーア】は、もの言わず、静かに――レドルアビデの血を受けて、美しく、たたずんでいた。
翌朝。博希たちは村の中へ聞き込みに回った。五月は北。出流は南。博希は西と東である。
「それじゃあ、いいですね? 何かあったら連絡すること。いったん、お昼ご飯の時間に集まることにしましょう」
三人はそれぞれに別れた。




