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Chapter:25 「気をつけろってコトさあ」

 歩いているうち、彼らは行商のおばさんに引き止められた。

「旅人さんかい?」

「ええ、そうですが」

「そうかい……」

 それだけ言って、おばさんは向こうに行ってしまった。そして五月はふと、自分たちを見る村人たちの目が、どこかしら奇妙であるのに気がついた。

「なにか……見られてるような気がする」

「旅人が珍しいんじゃねえのか」

 それは憎悪の目というわけではなかった。自分たちを排除しようと思っている目なら、それなりの悪意が感じられるだろうが、この時五月には、村人たちの目に興味か好奇の意識が浮かんでいるようにしか思えなかった。

「ぼくがキレイだから、見とれてるのかな」

「馬鹿言っちゃいけねぇや。俺の肉付きの良さに見とれてるんだろ」

「違いますよ、僕の知的な顔に見とれているんです」

 出流までが調子に乗ったその時、五月が、出流のシャツの裾を、くい、と、引っ張った。

「イーくん。間違いならいいんだけど、この村、ぼくたち以外に、男の人がいない」

「…………」

 出流は黙った。彼自身が村に入った直後に覚えた違和感は、それであった。

「え? そうだっけ?」

 博希は今気がついたらしい。

 どうもグリーンライを出てから、五月の神経はどこか高ぶっているような気がする、と、出流は思っていた。その敏感さが、いつになく、五月の【第六感】を引き出させていた。が、出流はそこのところには触れなかった。五月が精神的にデリケートにできているということを、知っていたから。

「僕も、この村に入って、気になっていたんですよ。宿屋に入ったら、宿の方に聞いてみましょうね?」

 それだけを言えば、十分である。

「そうだね」

 五月はそして、少し、笑った。



 宿に入る。宿帳書きは、出流の仕事だ。その間、博希は村の新聞を――字が読めないくせに――広げて見ていた。五月は、カウンターの方で、少し、もじもじしている。どうやら、宿の従業員と、何か話しているらしい。

 宿帳を書いてしまって、部屋の鍵をもらう。

「行きますよ、五月サン」

「あ、待って」

 五月は宿の従業員からなにかをもらうと、出流たちに追いつくようにして、走った。

 部屋で、荷物を下ろすと、程なくして、宿のおばさんがお茶を運んで来た。

「ようこそ、サンダリンクヘ。どうぞどうぞ」

「わーい、どうも」

「男の方の旅人さんなんて珍しいねえ」

 おばさんの言葉に、出流の眼鏡が、キラリと光った。

「あの……僕らはこの村にきたばかりなのでよく解らないんですが……、この村で、男の方を見かけないんですけど、どこかに出稼ぎにでも行かれているのですか?」

 おばさんは博希たちの部屋の戸をぴしゃっ、と閉めた。そして、キョロキョロとあたりを伺って、こそこそと言う。

「実はね。この村の男衆は、ある日、神隠しに遭ったのさ」

「神隠し」

「うん……それがね、噂では、執政官様が一枚かんでんだって! 執政官様は美少年好きだからねえ。噂じゃあ、お屋敷に千を越す美少年を放し飼いになさってるらしいよ」

 千を越す美少年を放し飼い。博希と出流はがくう……と、肩をたれた。

「これはあくまで噂だからね。もし執政官様のお耳に入りでもしたら、この宿自体が潰れちまう」

「じゃ、なんでぼくらに教えてくれたの」

「気をつけろってコトさあ。旅人が神隠しに遭うことなんて、この村じゃあ、珍しくないんでね」

 おばさんの剣呑そうな笑顔を含んだ忠告は、ぞくっ、と、三人の背中に、冷や汗を流した。彼女は「ごゆっくりい」とだけ言い残して、部屋を出ていった。

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