太陽をしゃべらせた男
神という概念が解体されて、より分かりやすい存在に託されていく。
偶像崇拝の変化球なのか、いつの間にか宇宙が神ということになっていった。
二千年ごろから始まったムーブメントは大きなうねりとなりスピリチュアルの常識として変化している
スピリチュアルな方々の間で星降ろしという儀式が流行したのは、つい最近の事だ。
動画サイトなどで、火星や土星を我が肉体におろして、語るという荒芸が一定のファンを得る事態になっている。
アラブの民族衣装やアステカ風の衣装、あるいはただの和服。それぞれ思い通りのコスチュームに身を包んだ預言者たちが星の意味を語り伝えていく。
ただ、誰も手掛けない星がある。太陽だった。
太陽を降ろすととんでもない事が起きるとタブー視されていた。
禁を破って太陽降ろしを行うシャーマンが現れる。俺はスピリチュアルライターとしてこの歴史的瞬間に立ち会わなければいけない。靴のエッジを石畳に響かせながら会場に向かう。
ある程度の集客が見込めるホールで長髪の若者が前後に激しく身体をゆすって惑星の降臨を待ちわびていた。
意識を集中させて彼の発言を見守もる同志たち。
座の中心にいる男は、汗をかきながら独特の呼吸法を繰り返し瞑想を始めた。
わざとなのか偶然なのか顔の筋肉がぴくぴくと動く。土下座が崩れたようなポーズを取り男は全身を真っ赤にほてらせながら重い口を開いた。
「熱い」
観衆は拍子抜けした。よりによって「熱い」とは。心無い仲間は「当たり前だろう」と男にツッコミを入れた。太陽降ろしは失敗に終わり、ネットの中では嘲笑が続いていた。
数日後、太陽の表面に文字が浮かんだ。黒点の塊と思われたそれは「熱い」という文字に酷似していた。
その後、太陽は光を失い。消し炭のような青みがかった灰色になってしまった。
「太陽の奴、自意識に目覚めやがった」
俺は厚手のコートに身をくるんで寒々とした外を歩く。パンドラの箱はむやみに開けるもんじゃないと悟った。人類は、活動をオフした太陽を見捨てて、化石燃料の発電で命をつなぎとめる。
俺はもう一度太陽を見た。肉眼で目視してもなにものこらないように、その光は弱弱しくかってのぎらつくような温かさはもうなかった。
「熱いのにいままでご苦労さん」
俺は太陽に別れを告げると暖を取るために建物の中へと入っていった。