2-03
「おはよう、ヨナカちゃん♡朝から会えるなんてラッキーだね、それにしても……」
相変わらずこの人は甘い顔に甘い声だ。
瞳だって桃色で砂糖菓子みたい。
身長は180センチ近くはありそうなのに、威圧感を全然感じないのも、彼がまとう独特な雰囲気のせいだと思う。
そんな砂糖菓子みたいに甘いジョエルさんは、タレ目がちな瞳をゆっくりと動かした。
視線が私とスーくんの手に注がれてるとわかり、私は思わず離そうとする。
けれど逆に、スーくんががっしりと握りしめてきた。
「やだなぁ、抜け駆け♡」
「その喋り方、気持ち悪い」
「おや、怖いねぇ」
「気持ち悪い」
妖艶に微笑むジョエルさんに、スーくんはきっぱりといいすてる。
しかし彼は一向に気にしていないらしく、むしろ楽しそうに「ふふ」と笑った。
笑い方エロ!
歩く18禁か何かなの!?
16歳だけど見ちゃって大丈夫!?
「それで?お手手を繋いでどこに行くつもりなの?」
「ええっと中庭……」
「何処だっていいじゃん。クロードには関係なくない?」
スーくんが冷たい声で告げる。
しかもふん、と明後日の方まで向いた。
ジョエルさんは笑ってる……けど、なに?もしかしてこの人達、何か因縁がある感じ?
まだ彼らのことを知らないので何ともいえないが、あからさまに2人の間には何かがある。
さっきまでにこにことしていたスーくんがこんな態度だし。
ジョエルさんの方はよくわからない、笑顔で本心を隠してる感じ。
「中庭に行くのなら辞めといた方がいいんじゃないかな?と思ってね」
「なんで?クロードの許可でもいるの」
「俺の許可は特にいらないけど、今の時間はお手入れしてるみたいだからさ。立ち入り禁止になってるかもよ?」
ぐ、とスーくんが言葉に詰まった。
どういっていいものか私が困っていると、ぐるん!と勢いよく美少女顔の美少年はこっちを向いた。
「でもさ!ヨナカちゃんもさ!!僕と中庭に行きたいよね!?」
わ、私にふるんかーーい!
ジョエルさんの桃色の瞳が私に向けられる。
どきりとするくらい綺麗な瞳。
「いや、私は……」
「中庭で僕と小鳥の巣とか見るんだよね!」
「そうなの?」
初耳なんだけど……
絶対に中庭に行きたかったわけじゃない。
私は少し悩んでしまう。
どっちを選んでもめんどくさいことになりそうな気配がする。
「うーん……」
「ねぇ、ヨナカちゃん♡」
眉を寄せていると、私のすぐ近くからジョエルさんの声がした。
びっくりして私は身を強張らせる。
音しなかったけど!?
忍者なの!?この人!
「それより俺と良いことしようよ♡」
ふう、と甘い息が落ちたのがわかった。
耳元で囁かれるキャンディみたいに甘い声は、じんわりと私の脳に突き刺さる。
エロすぎて怖い……!
これは、スーくんと一緒に中庭に……!
「ヨナカちゃんの部屋で一緒に朝ごはん食べよ♡」
「食べます」
恐ろしいくらいの素早さで即答してしまった。
スーくんが「えっ!?」と大きな声をあげる。
「僕と中庭でかくれんぼは!?」
「えっかくれんぼの約束したっけ?」
「ヨナカちゃんは俺と朝から良いことするんだよ♡」
「朝ごはん食べるだけなのにエロい感じにいうのやめて」
ぷくーーっとスーくんの頰が膨れる。
私が中庭ではなく、朝ごはんを選ぶってことを感じ取ったらしい。
だって!私!お腹空いてるんだもん!
昨日の夜も食べ損なったんだよ!?
国王に会うとかなんとかで時間なくて……
いやごめん嘘!
リュカがパッサパサのパンくれたんだった……この国の重要人物らしい人間に対して、明らかに残り物のパン渡す?
ということで、私はお腹が減っている。
私はそんな内容を噛み砕き、スーくんに伝えた。
「だからスーくんも一緒に朝ごはん食べよ?」
「やだ!!」
最後にそう付け加えたのだが、スーくんはむすっとしたまま大声で否定する。
そして駆け出しながら、叫んだ。
「ヨナカちゃんなんて大っ嫌いだもん!バーーーカ!」
あっという間に見えなくなったスーくんの緑色の髪。
私は呟いた。
「子どもかよ……」
「子どもなんだよ、今回集められた中じゃあ一番年上なのにね」
「えっ一番年上!?」
嘘でしょ!?
動揺する私に対し、ジョエルさんはふふっと妖艶に笑う。
こんなにエロくて歩く18禁のジョエルさんより年上……
ん?逆にジョエルさんって幾つなの?
年齢を聞いてもいいものかと私が悩んでいるのを察したのか、ジョエルさんは灰色の髪をかきあげながら甘い声で囁いた。
「俺はね、17歳♡」
「待って??私と1つしか違わないの??ていうか、歩く18禁の人が18歳になってないってやばくない??」
「18禁ってなに?」とジョエルさんがいっている気がするが、聞こえない!
私と1つしか違わないってことが衝撃的すぎた。
つまり現代日本にジョエルさんがいたら……制服を着てるってこと!?
高校に通ってるってこと!?
それはまだいい、それはね!
高校生ってことは、視力検査とか身体測定とかしてるってことだよね、ジョエルさんが!
出席番号で当てられたりして「わかりません♡」とかいってるんだよね、ジョエルさんが!
この見た目で!
「そ、想像できない……!」
「なにが?あ、想像できないっていえば、髪の毛の色戻したんだね♡そっちの方が似合うよ♡」
「ありがとうございます……」
妄想が暴走していて忘れていたけど、そういえば今の私は金髪だった。
脳内では現代日本の男子高校生ジョエルさんが、年上のお姉さんをたぶらかしているところだったけれどそれを振り払う。
「それに今の格好も可愛い♡俺は昨日の服も好きだったけど、ヨナカちゃんは可愛いから何着ても似合うね♡」
「はは……ありがとうございます……」
お世辞だ。
私にはわかる。
私なんかが……!と思ったところで、スーくんがさっきいってくれたことを思い出した。
そうだ、確かにこのワンピースは可愛い。
スーくんがやってくれたから、この髪も可愛い。
そこだけは自信を持たないと!
何より、このワンピースを買ってくれて、選んでくれたスーくんに対して失礼だしね!
「スーくんが選んでくれて……可愛いワンピースだよね」
それを着ている私が可愛いわけではないけど。
なんて、考えるのは今はやめよう。
笑われているわけじゃないんだから。
にこ、とジョエルさんが笑う。
「うん。可愛いね♡フォースはセンスがいいよね」
「オシャレさんだよね」
あれ?
スーくんはジョエルさんのことを嫌ってる感じだったけど、ジョエルさんの方はそうじゃないんだな。
隠してるだけかもしれないけど。
眉を寄せていると、ジョエルさんは私の手を取った。
その手にそっとキスをしてきたので、私は思わず「ええっ!?」と悲鳴をあげて手を引っ込める。
「フォースがお気に入りになっちゃった?俺を選んでくれたら後悔はさせないよ♡」
「そ、そういうことじゃないです!」
「そうなんだ、よかった。ヤキモチ妬いちゃった♡」
ぜーーーったいにウソだ!
ジョエルさんの場合、『口説くために集められた』って立場だからこういうことしてますよ、っていうのがわかりやすすぎる!
それなのにこんなにドキドキしちゃう自分の恋愛経験値のなさと、ジョエルさんの整いすぎている顔面が憎い!
悔しがる私の手を改めて握り、ジョエルさんは柔らかな声でいった。
「それじゃあ楽しい時間を過ごそうね、お姫様♡」
日常生活でお姫様なんていわれることある?
ウィンクするジョエルさんの顔面の良さにやられ、私は失念していた。
当然のごとく手を握られていたことを。
(まともな恋愛ができなくなったらどうしよう……)
その時は世界を滅ぼすしかないな!?
ブクマ、評価ありがとうございます!
ニヤニヤしちゃいます!