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2-02

「絶対、絶対にこんなの変だよ……」


 鏡の中の自分が見慣れない。

 きつい顔が嫌で隠すように伸ばしていた前髪をバッサリと切られ、今や眉上ぱっつん。

 金髪ツインテールにぱっつん、黒ワンピースって……!

 大丈夫なの、これ!?

 ツインテールは元々やってたけど、金髪だとあざとさが出ちゃってない!?


 鏡の前で私が頭を抱えていると、ひょこっとスーくんが顔を覗かせる。

 ひいいいいい!顔がいい!

 並んで見たくなかった!!


「そんなことない!似合うよ♡」

「こんな短い前髪、顔がいい人しか似合わないって決まってる……笑われるじゃん……」

「大丈夫だよ、ヨナカちゃん!髪の毛を切る前もブスだったけど、神竜(シロ)の子だから!みんなヨナカちゃんの前では笑わないって!自信持って!」

「え?励まされるそれ?それとも私の心を完全に砕きにきてる?」


 しかも「髪を切る前『も』ブス」っていわなかった?

 ん?つまり?今も?ん?あれ?


「似合ってるよ♡」


 スーくんがにこにこと可愛らしい顔で笑っているので深くは考えないことにした。

 笑われないならいいや、神竜(シロ)の子って便利だな……

 あっちにいた時は絶対に笑われてたもんな……


「ねぇねぇ、せっかく可愛い格好したんだから遊びに行こうよー!」

「うーん……でも昨日、リュカに暫く王城から出ないでっていわれているし」

「なんなの!そんなの無視したらいいじゃん!!僕と遊びに行く方が大事でしょ!?」

「まだ君とリュカを天秤にかけられるほどの愛情を抱いてないからごめんね」

「じゃあせめてお散歩しよ!中庭!」

「中庭なら……いっか」


 城の中だしね。

 ご丁寧に「これが似合うよ!」と出してくれていたブーツを履き、私達は部屋の外に出る。

 するとさも当然、とばかりにスーくんが私の手を握った。

 驚きすぎて声が出ない。

 私はパクパクと口を開け閉めする。


「ちょっ!!!!と!!!!!?」

「あはは〜どうしたの?鯉の真似?」

「じゃなくて!!!!!手!!!!!!」

「手?」


 ぎゅ、とスーくんが手を握りしめる。

 柔らかいだけかと思っていたら、意外にも男らしくて硬い……じゃなくて!


「て、てててて、な、なん、握るの!?」

「えーーー?手は握るためにあるんだよ、夢をね♡」

「なんか良い感じのことをいって誤魔化さない!!」


 ウィンクしたって許さないんだから!

 ていうかウィンクできてなくて、両目を閉じちゃってるの可愛すぎるけど、許さないんだから!

 恋愛経験どころか、男の人に優しくされたことないんだからね!!

 惚れちゃったらどうしてくれるの!!


「わ、私、ほんとこ、こういうの慣れてないからスーくんにとっては何でもないことなんだろうけど、て、照れるので」


 なんとか私が告げて手を離すと、スーくんは目を丸くした。

 きょとん。

 頭に「?」を浮かべつつ、スーくんは首を傾げる。


「照れるだけ?」

「え?」

「嫌じゃないならよくない?それとも僕と手を繋ぐことは嫌?」


 いや?

 嫌か嫌じゃないかって問われるとーーー


 正直!はちゃめちゃに嬉しいよ!!!

 私の人生において、ここまで顔面のいい人と手を繋ぐ経験を無料で出来るなんてありえないだろうし!

 えっ待って?そう考えるとラッキーだな?

 ビジネスモテ期を利用しない手はないな?

 いやいやそうじゃなくて!!


「い、嫌じゃないよ!」


 そういってから、これはスーくんを好きだと取られてしまう?と不安になった。

 スーくんのことは美少女だな!と思うけど、異性として好きとかではない。

 手を繋いだとしても嫌じゃないくらいには好きだけど、それはまた別の話。


 むしろスーくんにとっては好きでもない女と手を繋がせてしまって申し訳なさすら感じているくらい。

 私が神竜(シロ)の子だとして、この国に置いておきたいから優しくしてくれる、っていうのはわかるけど!


 でもほらそれってつまり!

 ビジネスじゃない!?

 それなのに私が本気で好意を抱いてると思われたら気持ち悪がられちゃう!

 私みたいないじめられっ子に好かれちゃったら申し訳ないし!

 だから好きじゃないよ、と否定しておかないと……で、でもなんていったらいい?


「か、顔がいいし!!」


 悩んだ末に、私は失礼なことを口走った。

 スーくんの顔がいいのは確かだけど、顔がいいってストレートにいっちゃうのはどうなの〜〜〜!

 でもまだ顔以外では見た目に反して毒舌くらいしか知らないし……ああ、でも嫌な気持ちにさせちゃった?


「えへへ〜じゃあ手を繋ご!」


 ネガティブなことを思っている私に対し、スーくんはにっこりと笑ってくれる。

 そして手を差し出してくれた。

 恐る恐る、私はスーくんの手を握る。


「ヨナカちゃんと手を繋げた!顔がよくてよかったー!」


 そういってスーくんは私の手をぎゅーっと握った。

 恥ずかしい……

 男の人に手を握られたのなんて初めてだし……

 高校生ともなると、親とも手なんて繋がないし……そう考えると5、6年振りじゃない?

 一生の思い出にしよう。


「あ、あの……ごめんね」

「何がー?」

「顔のことをいっちゃって。嫌でしょ?」

「どうして?褒められてるし、嫌じゃないよ。それに僕、自分の顔大好きだし!」


 スーくんに手を引かれ、中庭に連れて行かれつつ私は告げる。

 さらっと返ってきた発言に、私はふと笑った。

 そうだよなーーー顔がいいもん。

 自分の顔好きだよね……


「そう思えるのいいな、私は自分の顔、好きじゃないから」


 あ、しまった。

 いうつもりがなかったのにいってしまった。

 うわああああネガティブ発言なんて!

 ブスのネガティブなんて!ダメじゃん!

 構ってちゃんって思われるーーー!!


 なかったことにしたい!と私が脳内では最高に後悔していると、スーくんがピタッと歩みを止めた。

 なに?急に。

 さっきのネガティブ発言がめんどくさいって!?

 そうだよね!私もそう思う!


「ヨナカちゃんは、別にブスじゃないよ」


 えっ!?

 さっきまで散々ブスっていってきたのに!?

 なにいってんだこいつ……と、私はしみじみとスーくんを眺めてしまった。


「そりゃあ確かに、ダッサイ服着るし髪型もぐちゃぐちゃだし、前髪やばいし、目つきも鋭いし、別に鼻が高いわけじゃないし……」

「すみませんけど目の前での批判はご遠慮くださいます?」

「でも!!僕は!!嫌いな顔じゃないよ!!」

「なにいってんの!?」


 私は無意識に、自分の顔を覆った。

 私は私の顔が大嫌い。

 目つきもきついし、可愛くない。

 散々ブスだっていじめられてきたし、目の色も髪の色もおかしいし……


「私なんかの顔が……」

「あのね、聞いて?」


 顔を隠した私の手を、硬い手が触れる。

 女の子みたいな顔をしているくせに、ちゃんと男の人をしている手。


「ヨナカちゃんはさ、姿勢も悪いし目つきも悪いし愛想も悪いしファッションセンスも悪いし……」

「待って待ってだからぁ」

「そういうのトータルでブスだなぁって思うけど、全部変えれるところだよ。可愛くなりたいなって思うと可愛くなれるんだよ」


 ゆっくりとスーくんが私の手を顔から引き離す。

 そっと目を開けると、キラキラと輝く水色の目が見えた。


「自分のことを大好きにならないと、誰もヨナカちゃんを大好きにはならないよ」


 私は自分のことが嫌い。

 外見で判断される世界が嫌い。

 でも一番外見で判断するのは私。


「少なくとも僕が選ぶ服は可愛いんだから!元気出して!」

「そ、そうだね」


 こんな世界は大嫌いだし。

 ビジネスモテ期なんてうんざりだけど……

 私は変われるのかな。


「奇遇だね、ヨナカちゃん♡」


 スーくんがにっこりと笑ってまた手を握ってくれた時、甘ったるい声がした。

 灰色の髪に桃色の瞳。

 ジョエル・クロードが廊下の向こう側で、妖艶に微笑んでいた。



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