2-01
2章です!
朝の時間って特別だ。
夢か現かわからない世界は美しい。
起きているみたいで眠ってて、眠ってるようで起きてる。
ああでも、もう少し寝ちゃおっかな……
「ヨナカちゃーーーーーん!!!」
寝かせる気ゼロじゃん。
バターーーン!とドアが開く音がしたと思うと、駆け寄ってくる足音。
ふかふかのベッドで眠っている私の上に、結構な衝撃が走る。
「ぐえ」
「起きてーー!遊ぼ!カエルの真似してる場合!?」
「潰されかけただけなんですけど?」
まどろみなんて吹っ飛んだ。
私の上に飛び込んできたのは、柔らかそうなグリーンの髪。
明るい水色の瞳が私を覗き込んでいる。
わかってたよ、こんなことしそうなのはフォースことスーくんしかいないってことはね?
でも待って?
昨日初めて会って、まだトータル5分くらいしか話していない異性のベッドに飛び込んでくる?普通?
ありえなくなーーーい??
この世界では常識なの?
その辺りについても詳しく調べたい……遊びに行くことも全然構わないんだけど。
しかし私、はちゃめちゃに寝起き。
髪の毛はボサボサだし、まぶたなんて開いてないから。
普段の状態であったとしても、こんな美少女顔の美少年の隣に並びたくないっていうのによりにもよって寝起き……
せめて髪を整えて、顔を洗う時間が欲しい。
「遊ぶのは結構なんだけど、顔とか洗いたいんで……他の方と時間を潰していてもらえる?」
「無理!だってね!なんかーー!兵隊は仕事に行ったし、喋んない奴は面白くないし、エロい奴はまだ寝てるし、怖い人は怖いから!無理!」
一応、他の人の予定を確認はしたんだ……
よかった。
5分しか話していない、ほとんど見知らぬ人状態の私だけにしか遊んでくれないのかと思った……自意識過剰だった、気を引き締めよう。
「スーくんは可愛いんだから、私じゃなくて他の女の子と遊べば?」
私を口説かなきゃとかそういうのは置いといてね。
だって私がスーくんの顔面をしていたら、モテなさすぎてチョロそうな女は適当に構って他の女の子に手を出すもん。
「だってーーー!他の女の子、遊んでくれないんだもん!」
「あ、消去法の結果に残った人材なんだ、私」
なら仕方ない。
遊ぶまで動かなさそうだし。
ベッドから起きた私の代わりに、ベッドに横になったスーくんはじーーっとこっちを見ている。
私のベッドなのに寝るんだ……というか、今から服を着るからこっちを見ないでほしい。
着替えるときは別の場所に行くからいいか、と思いつつ、私か寝る前にかけた制服を手にした。
「ていうかーーーその服、また着るの?」
ベッドに横になったまま、スーくんが頰を膨らませる。
よく考えたら成人男子がこういうことをしてるって思うと、ちょっとやばいな?
けれどそんなことすら吹っ飛ばしてしまうくらい可愛いから、私は考えないことにした。
「この服しかないの」
「クローゼットあるよ!わかる?服入ってるところーー!」
「クローゼットはわかるけど、この中の服は私の服じゃないでしょ?」
「なんでーーー?ヨナカちゃんの服だよ!ぜーーーんぶ僕からのプレゼント♡」
「えっそうなの!?」
この大きなクローゼットの中。
隙間なく詰められた煌びやかな服やアクセサリーが全部、スーくんからのプレゼント?
昨日開けてみたけど、高そうな服のオンパレードだったのでそっと閉じたことを思い出す。
うん、あんな服は私には似合わない。
「制服でいいかな」
「僕が選んであげるーーー!ヨナカちゃんってセンスなさそうだし!だって髪型も格好も酷いもん!すっげーブス!」
「とんでもなくディスってくるじゃん……」
ベッドから飛び起きると、スーくんはにこにことクローゼットを開いた。
「こっちがいいかな〜?こっちかな〜?」なんて、鼻歌を歌いながら服を選ぶ。
「服好きなの?」
「大好き♡服だけじゃなくて帽子とか、靴とか、アクセサリーも!見るのも好きだしねー選ぶのも好き!買うのも!着るのが一番好きだけどね!」
「新しい服を買ったらワクワクしちゃうもんね!その気持ちはわかるなぁ」
「……ヨナカちゃんって服持ってるの?」
「え、待って?生まれてから制服しか着たことのない人間だと思ってたの?」
冗談だよ!とスーくんが笑う。
いや、今のは絶対に本気だった……曇りのない、本気のまなこをしていた……
海外の学校は制服がないところもあるし、同じ服をずっと着てるのってあんまりイメージできないのかな。
異世界ギャップを感じている私の前で、スーくんはやっぱりにこにこしている。
本当にファッションが好きなんだなぁ。
私自身があまりファッションに興味がない人なのでスルーしてたけど、確かにスーくんはオシャレだ。
私にもわかるくらいに!
小柄だけど、可愛らしすぎない服を着てる感じ。
少し大きめのグレージュな茶色のカットソーにシンプルなネックレス、細身の黒いパンツを合わせて靴はサンダル。
シンプルモード系っていうの?
緑色の髪に合わせて、少し長めのターバンを巻いて、尻尾みたいに垂らしてる。
おしゃれーーー!
私が同じことをやったら確実にハチマキだよ。
何着ても似合う顔面だしね……顔がいいって凄い。
そんなことに感心していると、服を選んでいる姿だけでも絵になる合法ショタが私を見た。
水色の瞳が宝石みたいにキラキラしてる。
「これがいいよ!シンプルで可愛い!」
スーくんは上機嫌に選んだ服を私に押し付けてきた。
スーくんはオシャレだが、ちょっと不安もある。
ほら……オシャレな人ってたまに上級者しか似合わないコーデをするじゃない?
「大丈夫?露出が多すぎる服じゃない?」
「えーーーヨナカちゃんが露出して誰が得するのーーー?目の毒なだけじゃん!」
「バッチバチにディスってくるじゃん……」
こっわ。
絶対にそんなことをいわなさそうな見た目に反して、さっきからナチュラルにディスってくる。
リュカのような悪意を感じられないから、本気なんだろうなぁ。
あ、やばい。泣きそうになってきた。
とりあえずこれを着よう。
「……似合ってるの、これ……」
「似合ってる似合ってる!可愛いよー!」
スーくんが選んでくれたのは、胸の下で切り替えのある黒いワンピース。
ドット柄が可愛らしいけれど、自分だったら絶対に選ばないだろうなって柄。
それでもスーくんが拍手をしてくれたのでいっか。
これで「似合ってない」とかいわれたら、さすがにぶん殴ってるところだった。
「さてと、じゃあ……」
す、とスーくんが何処からともなくハサミを取り出した。
なに!?殺される!?
「似合う髪型にしようね♡」
「ちょ、待って、え……!?」
きゃあああああ。
前髪をバッサリと切られた私の悲鳴が響いたのだった。