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『ねぇヨナカ……ねぇ』
声がする。
どこかで聞いたことのある声。
なんだか身体が軽い。
まるでふわふわと浮かんでいるような……
「て、またアナタか……」
目を開けると、そこには金色のドラゴン。
あの洞窟の中と同じように、私は真っ白い空間にいた。
ベッドがふわふわすぎて寝付けないと思っていたら、これだ。
こっちはね!畳に布団敷いて寝てるんだからね!
ふわふわのベッドじゃなくてカチカチの畳持って来なさいよ!
『もっと喜んでよ、神竜の子様』
「それ勘違いだから!訂正しといて」
『なんか疲れてるね』
突然こんな目にあったのだ、疲れていないって方がおかしい。
私の前でにょろにょろと身体を動かすドラゴンに対し、私は大きく溜息を吐き出した。
「顔面がキラキラしてる男達に口説かれそうなの……」
『自慢かな?』
「自慢じゃないの!私はね!全然モテないの!これは自慢だけど本当にモテないの!ずっといじめられてきたし、友達ゼロなの!いや、クマのぬいぐるみを友達って換算するなら3人はいるけどね!」
『とんでもない自慢だな』
「モテないのよ!」
白い空間で、私は力強く叫んだ。
本当にモテないんだから仕方ない!
これは事実。
モテないからこそ……!
「人生に3回しかないモテ期を、こんな人工的に生み出された逆ハーレムで消費したくないの!!」
口説くために集められましたーって!
「私」のことを好きなわけじゃないじゃない!?
完全にドラゴニア王国からの指示でしょ!?
もはや仕事じゃない!
ビジネスモテ期よ、こんなの!!
「ビジネスモテ期じゃなくてナチュラルモテ期が来てほしいのに、恋愛経験ゼロ状態で顔面偏差値3億みたいなメンズに囲まれて、今後の私の人生に悪影響を及ぼしたらどうしてくれるの!?」
結婚願望だってそれなりにあるのに!
無駄に目が肥えちゃう!
ていうか、そもそもよ!?
「シロだかクロだか知らないけど、そういうのじゃないから!私!」
『それはどうかな?』
金のドラゴンが笑った気がした。
ドラゴンだから笑顔かどうかなんてわからないはずなのに。
『君は神竜の子だよ、だって私が選んだんだから』
「違います。私は英夫と幸子の子です」
『そういう意味じゃなくて。君は生まれた時から決まってたんだ、この世界に来ることを』
キラキラと輝くドラゴンは、血のように赤い目を私に向けた。
その目は嫌い。
私の目に似てるから。
両親からも愛されなかった私に似てるから。
『この世界で、神竜の子として生きることを』
ぱん、と音がした。
何かが目の前で弾け、一瞬だけ目がくらむ。
目を開けると何かが変わっていた。
自分の悪者みたいにキツイ顔が嫌いで隠している長い前髪が、金色に戻ってる。
ええーーーこの前染めたばっかりなのに!?
隠すものは何もなくなった。
金色の髪に赤い目。
異質な見た目。
この見た目や、この人生全てが運命だっていうなら。
全て決まっていたことだよ、なんていうなら。
なんて残酷なんだろう。
嫌いだ、こんな世界。
こんな運命。
こんな私。
金のドラゴンは続ける。
その声は私の頭の中に直接響いてくる。
私の中でずっと渦巻いていたモヤモヤとした感情が、まるでハリケーンのように私の中で暴れる。
嫌いだ、全てが。
でも私が死んだところで何もならない。
世界も誰も変わらない。
だから生きて、立派になって、私をいじめてきた奴らに地団駄踏ませてやるからな!と思ってたんだけど……
『君は爆弾だ。膨大なチカラを持ってる。そのチカラは世界を変えることだってできるし……世界を壊すことだって出来る』
今の私には世界を壊すチカラがある、という。
本当か嘘なのかわからないけど。
でも残念なことに、ここは私が壊したかった世界じゃない。
「なりたくないよ、神竜の子なんて」
このチカラを持って、元の世界に帰れるなら嬉しいけど。
いやでも待てよ?そうなると私、死ぬな?
もし死ぬならただでは死なないぜ!と思ってたけど、積極的に死にたいわけじゃないしな?
『なりたくないとか、なるとかじゃない。君は生まれた瞬間から「そう」なんだよ。だから君に残された選択肢は2つ。そのチカラを使うか、使わないかだ』
私は眉を寄せた。
生まれた瞬間から私が神竜の子だっていうなら。
このチカラは使うためにある?
『使うならうまく使いなよ。君は爆弾だ、皆が君の機嫌を伺う。お気に召すままに。いってただろう?死ぬときは全てを道連れにするって。君はたくさん嫌な目にあった。道連れにしちゃっていいんだよ』
「そんな簡単にはいかないよ。私はこの世界のことを何も知らないし……」
『じゃあ知ればいい。幸運なことに、君を口説こうとしている男達がいる』
「ビジネスモテ期ね……でもそっか、それを利用したらいいのか」
この世界の人間からこの世界のことを知って。
私が生きていく道を選べばいい。
このチカラを使うか、使わないか。
『そうそう、利用しちゃえ!誰かを好きになれば君はこの世界を壊さない。君が世界を壊さないように、この世界の人間は君の元に男を放ったのだから』
「利用されてるってことだもんね……逆に利用しちゃうのは悪いことじゃないよね」
『悪いことじゃない。チカラを使うことだって。たくさん悩んで?時間は無限にある』
「無限にはないけど」
でもそっか。
そう考えると、ビジネスモテ期も悪いことじゃない気がしてきた。
私はこの世界を何も知らないしね。
顔面が良すぎてドン引きしてるけど!
私に利用されるんだからな!ふははは!
と思うと、かろうじて理性を保てそうだしね。
あのままイケメン光線を浴びせられ続けると多分死ぬし。死因キラキラ中毒で。
『悩んだ結果、君がクロの子になるのも悪くない』
そんなことを思っていると、ポツリと金のドラゴンがつぶやいた。
「クロの子?」
何それ?
私が聞き返すと、誤魔化すように金のドラゴンは笑う。
なんか笑顔怖いな……
キラキラと私の身体が輝き出した。
時間が来たらしい。
意識がどこかに引っ張られる感覚がする。
『じゃあね、また会おう。神竜の子。可愛い私の子』
金のドラゴンの声が遠くなるーーー
身体が重くなり、私はゆっくりと目を開けた。
天蓋だ。
ベッドに溺れそうになるほどにふわふわだし、戻ってきたってことか。
いや、それとも夢?
「現実か……」
黒に染めていた髪が金に戻ってる。
寝る前は確かに真っ黒だったはずなのに。
起き上がって鏡を見ると、そこにいるのは金色の髪に赤い目の凶悪そうな顔をした私。
昨日までと何も変わらないけど、多分何かが変わった。
「世界、どうしよっかな」
こうして私は神竜の子であることを認めた、というか認めざるを得なくなった。
チカラを使うか、使わないか。
その前にまず、髪でも切ろうか。
もう隠す必要はないのだから。
第1章完結です!
ブクマ、評価ありがとうございます!嬉しいです!!