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ドラゴニアの神官兼魔導師のリュカがいったことと、私の想像で話をまとめると……
この世界にはドラゴンがいる。
ドラゴン?冗談?
って感じだけど、実際に私も見たしね。
疑ってる場合じゃない。
洞窟の時点でわかってたけど、私は何かがどうにかなってわけのわからない世界にいるみたい。
もうそれはいいや!
夢だとしても、覚めるまでは生きなきゃならないし。
てことで、
そして人は、はるか昔からドラゴンを戦争に使ってた。
人によって操ることができるドラゴンっていうのが決まっているらしい。
パイロットの才能がある人がいれば、射撃が得意な人もいるって解釈なんだろうな。
無理やり納得するとしたら。よくわかんないけど。
つまり……
強いドラゴンを操ることができる人がいる国が、そのまま国の強さになっていたってこと。
けれどある日。
ドラゴンは人間を拒絶した。
人間の指示に従うことをやめて、自由に飛び交い始めた。
それだけならまだしも、人に攻撃を始めた。
あの黒いドラゴンも攻撃的だったもんね。
その結果、人はドラゴンを戦争に使えなくなった。
様々な国では様々な対策がとられた。
近くの国と和解したり、新しい戦力を開発したり……
何よりも困ったことといえば、ドラゴンが「戦力」から「敵」になったことだ。
ドラゴンの力は無限。
人が束になろうとも不可能。
このままでは人類は滅亡してしまう。
ということで、ドラゴニア王国と近隣諸国ではある1つの手段を用いることになったらしい。
その手段とはーーー
禁忌の魔術を使い、異世界より『神竜の子』を召喚すること。
神竜の子とは伝説の存在。
この世界の創造主である神竜が、異世界に産み落としたといわれている。
人の姿を持ちながら、全てのドラゴンを率いることができる子だという……
「それが私だと」
「その子は神竜と同じように、金の髪に赤の目をしているといわれているんです。ヨナカ様の瞳も赤い。間違いありませんね」
「そうなんですか……」
私は視線をそらし、馬車の外を眺める。
リュカはにっこりと笑っていた。
笑顔のせいで何を考えているのかわからない。
もしかして気づいているんだろうか!
(私の髪が実は金色だってこと!)
この世は外見で判断される。
日本生まれ日本育ち、先祖代々日本人でありながらも、私の髪は生まれつき金色だったし赤い目だった。
なんか色素が欠乏してるとか。
よくわかんないけど。
でもこの見た目のせいでイジメられてきたものだから、あんまり好きじゃない。
だからあの白い空間でドラゴンを見たとき、自分と同じ色だから嫌な気持ちになったのだ。
て、いうか。
あのドラゴンが神竜だったってことだよね?
確かに話してたけど。
だとしたら、何か意味わかんないけど私がたまたま気に入られただけで、私自身がその伝説のシロの子とかじゃないと思うんだけど。
髪の色と目の色もたまたまだし。
完全にこれは間違いなのでは……?
「あの、私……」
間違いのまま、国王に会うわけにもいかない。
それを正しておこうと私が口を開くと同時に、リュカが貼り付けた笑顔のまま続けた。
「神竜の子様は誰よりも美しく、全てのドラゴンに愛されるのです」
美しい?
あ、じゃあやっぱり私じゃないな!
私は金髪に赤い目なだけで美しいわけじゃないもんな!お疲れ!
謎の自信を持った私は「違いますよ」といおうとする。
けれどそのとき、リュカの表情が曇ったように見えた。
いや、実際には曇ってなんかいない。
なんなら笑顔のままだけれど……
「それなのにあの犯罪者の女達ときたら、神竜の子様の特徴の1つとして『誰よりも美しい』といった途端に、私に違いないとしゃしゃり出てきたんです」
にこにことリュカは笑う。
女達ってあれね、いじめっ子達のことね。
確かに可愛い顔してるし、自分の可愛さをよくわかってるタイプだからね。
「黒い目の時点で神竜の子様なわけないじゃないですか。それなのに私は可愛いからと……」
「え、わかっててドラゴンを放ったの?」
食べられる危険性あったよね?
絶対に違うってわかってたのに?
にっこり、とリュカは笑う。
「はい。神竜の子様の名を騙るものには許しなどありません」
こっわ。
リュカの笑顔が怖い。
最高の笑顔じゃん。こわ。
犯罪者として引っ立てられた彼女達が、この後どうなるのか……
私はあえて考えないことにした。
ちょっと可哀想だけど、でも!
「ドラゴンを見たところ、このクラスで一番美しいのはヨナカ様だと気を失っているヨナカ様を実験室の中に放り込んでおりました」
「許しなどありませんな」
意識のない私を放り込むーーーー?普通ーーー!
しかもあいつら、今まで散々私のことをブスっていいまくってたくせになーーーにが一番美しい、だ!
私がドラゴンに食われてしまえ!って思ったんだろーーーーやってらんねーーーー!
可哀想って思った私が間違いでしたーーー!
「ん?待って。私も目をつぶってたから、神竜の子ってわかんなかったはずだけど……つまりリュカさんも食われていいって思いつつ、私を放り込んだわけ?」
シロの子じゃないけどね!
一応ね!
確認はしておかないとね!
私がリュカを見ると、神官兼魔導師は一瞬だけ動きを止めた。
すぐに彼は、白い歯を見せて微笑む。
「はは」
「いや笑い事じゃないから!」
「あ、見えて参りました。あちらが王城です」
「話の逸らし方!!まだお米粒くらいの大きさじゃん!」
本当にこの男は!
絶対に黒幕だ!間違いない!
でもとりあえずわかった。
神竜の子と勘違いされたままでいた方がいい。
間違いだとわかったらリュカがどういう行動に出るかわからないし、ドラゴンに食べさせられたりしたらたまったもんじゃない。
多分ここは異世界だ。
召喚したとかなんだかいってたし。
神竜の子のふりをしつつ、帰る手段を探すのが得策……!
「あ、そうそう。王城では貴女のお婿様候補が待っております」
神竜の子のふりをするぞ!
と意気込んでいた私に、リュカがさらっと告げる。
ん?いま?爆弾発言しなかった?
「お婿様……?」
「はい」
にっこり。
その怪しげな笑みを浮かべたまま、リュカは頷く。
「好きな男ができれば、この国から逃げ出そうなんてつまんないことを考えないでしょう?」
…………こっわ。
好きって感情を利用するつもりだ。
何しでかすかわかんないぞ、この男!!
とんでもないところに来てしまった!!
リュカの笑顔に私がぶるぶると震えているうちに、あれよあれよと話は進みーーー
気がつけば私は、ドラゴニア王城の一室に案内されていたのだった。
そしてそこで、そりゃあもう見目麗しい5人の男と会う。
「よろしくね!ヨナカちゃん!」
「よ、よろしくお願いします!」
「…………」
「よろしくしちゃおうね♡」
「せいぜい楽しませろよ」
これが婿候補5人か!
ただただ私は決意していた。
絶対にこいつらを好きにはならない、と。
怖いし!
日本に帰りたいし!
それに何より!
私は神竜の子ではないんだから!