1-02
100万回いうけど。
私はイジメられてました。
それはそれはもう10年以上続いており、よくこの人たち飽きないな?と私はいじめっ子達に対し、一種の感動を覚えていたくらいです。
小中高一貫の学校だったので、クラス替えもほとんどなかったのも悪かった。
目を付けられたら終わりみたいな感じで、私の毎日は絶望でした。
けれどどういうわけだか。
私は「神の子」になりました。
え?待って?なにそれ?
いじめられっ子から神の子?
温度差凄すぎて風邪引くわって感じじゃない?
ごめん、私もそう。
全てはそう、あの日から始まった。
あの洞窟みたいな実験室に転移した日から。
あの日私は、いつものようにいじめられていた。
「目障りなんだよ、ブス!」
授業中にものを投げつけられたり。
無視されたり、ものを隠されたり……
なんていつものこと。
いじめっ子達はこのお金持ち学校の中でも群を抜いてお金持ちの家の子達なので、教師達も何もいえないらしい。
期待とか、誰かが助けてくれるとか。
そういうことなんてもうすっかり諦めた。
だから授業終わりにこうやって、私の席の周りを取り囲まれることも慣れたものだ。
ちらり、と私は伊達メガネの下からいじめっ子達を見る。
人は嫌な記憶ほど忘れるらしい。
防衛本能か何かで。
けれど私は絶対に、こいつらの顔を忘れてやらない。
そう誓って、私は改めてこいつらの顔を見た。
お金持ちで可愛くて、人生イージーなんだろうね。
絶対にこいつらより有名になって地団駄踏ませてやる!
なーーーんて思ってた瞬間だった。
ドン!と突き上げられるように、地面が揺れたのは。
「なに!?」
「地震!?」
悲鳴があがる。
ぐらり、と身体が揺れる。
何かが壊れる音がする。
「逃げなきゃ!」
「隠れて!!」
混乱した声。
まだ揺れる世界。
私もとりあえず立ち上がろうとする。
しかしその瞬間、いじめっ子が倒れてきて巻き込まれてーーー……
私が意識を取り戻したときは、この世界にいた。
つまり、ここ。
ドラゴンと神様と争いが支配する世界。
ドラゴニア王国に。
「え?なんなの?私……生きてるの?」
金のドラゴンがいた白い空間。
いつの間にかそこにいたことにもビックリしたし、いつの間にか元の洞窟に戻ってきていたことにもビックリしつつ……
私は自分の身体が無事なことを確かめる。
黒いドラゴンに食べられてなかったっけ、私?
「……なに?」
身体の無事を確かめていると、ゴツゴツとした何かが手にぶつかってくるのを感じた。
なんか箒でつつかれてる?
もーーここまできてまだイジメられるのかよ!
と思いつつ振り返った私は、そこに黒いドラゴンがいることにビックリしてしまう。
しかも黒いドラゴンときたら、ネコみたいに喉を鳴らしているのだ。
頭を下にやり、大きな身体を縮こませて。
自分の頭を私の手に擦り寄せてきている、まるで撫でてほしいみたいに。
え?さっき私、こいつに食べられなかった?
何で急に甘えてきてんの?
不思議に思ったが、私は無事みたいだし。
甘え方がネコみたいで可愛かったので。
そして可愛いは正義!
というわけで、私は黒いドラゴンの頭を撫でてやった。
どういうわけだか動物に嫌われるタイプなので、ネコも好きだけど撫でたことなんてないんだよね。
ちょっとゴツゴツしてるけど、可愛い。
(あ、やっぱり目が見えないようにされてる)
潰されてるわけじゃないけど。
黒いドラゴンの目の上から、布みたいなものが貼り付けられていた。
さっき食べられた私がいうことじゃないけど、こんな大型トラックさながらの塊が突っ込んできたら危ないもんね。
「シロの子様!」
そう思いながらドラゴンの頭を撫でていると、何人かの大人が駆け寄ってきた。
白衣……ではないけど、似ている感じのマントみたいなものを付けてる。
その後ろにクラスメイト達の姿も見えた。
私と同じように全員、制服姿のまま。
洞窟の中で制服ってちょっとおかしな気がする。
だからってこんなマントを着ていてもねぇ……
駆け寄ってきた大人の人達は、マント以外は普通だった。
髪の毛の色が紺とか赤だということを除くと。
いわゆる外国人さんだけど。
私、何で外国語わかるんだろ……?
じゃなくて、シロの子ってなに?
わんわん?
「アンタね!!」
私が首を傾げていると、背中に衝撃が走る。
バランスを崩した私は前に倒れた。
勢いのあまり、伊達メガネが吹っ飛ぶ。
黒いドラゴンがそこにいたので地面にぶつかることはしなかったけど、ドラゴンがいなかったら大怪我だよ!?
驚きつつ振り返ると、いじめっ子が私を睨みつけていた。
なるほど、私を思い切り押したのね。
「調子に乗んなよ!!!ブス!!」
可愛い顔を歪めながら、いじめっ子は思いっきり私の足を踏みつける。
いった!!
普通、足狙う!?
いじめられっ子に助けられたことがムカついたとしてもよ!?
足よ!?足!?素足ですよ!?
けれどここで反応してはもっと酷くなる。
いじめられっ子人生において、身をもってそれを学んでいる私は唇を噛んで声を抑えた。
いじめっ子は「調子に乗んな!!」と叫びながら、何度も何度も私の足や身体を蹴りつける。
「捕まえろ!」
声が響いた。
人がたくさん走ってくる音がした。
その後すぐに、いじめっ子の悲鳴みたいな声が聞こえた。
「なんなの!?」
これはいじめっ子の金切り声。
「何すんの!」
「セクハラ!!」
これは取り巻き達の悲鳴。
見ると、いじめっ子は兵隊のような人達に取り囲まれていた。
押さえつけられ、地面に転がされてる。
助けようとしたらしい取り巻きの何人かも、同じように押さえつけられていた。
「犯罪者みたい……」
「犯罪者ですとも」
ぽつりと呟いた私に、誰かがいった。
顔を上げると、私のすぐ近くに男性が立っている。
紺色の髪に紺色の目をした男性。
彼は貼り付けたような笑顔を浮かべていた。
白のマントをつけているけど、他の人に比べると少し豪華な装飾が付いている気がする。
整った顔をしているけれど、なんだか怪しい。
後ろの髪は短いくせにもみあげだけ長くて、リボン付けてるし。
何そのファッションセンス。
怪しすぎる。
そんな怪しい男は微笑んだまま、いった。
「貴女はこの国の宝。国中が、いや世界が貴女をお待ちしておりました。シロの子様」
だからシロの子ってなに?
私は藤原 二十四時。
ただの女子高生だけど?
「貴女は世界を変えるチカラをお持ちだ。さぁ、国王が待っております!王城へ行きましょう」
「王城?王様?何それ、私……」
「その犯罪者共は牢獄に入れておけ」
その謎の男は短くそう告げると、私に手を差し伸べて立たせた。
たくさんの大人に囲まれながら、私は歩き出す。
洞窟から出る前に振り返ると、いじめっ子達は呆然としてこちらを見ていた。
クラスメイト達も。
でも意味がわからないのは私も同じ。
とりあえずわかったことといえば、黒いドラゴンが洞窟の奥に連れられて行っていたってことだけだった。
「えーーっと……?」
「道すがら説明いたします。シロの子様」
その男性はにっこりと笑った。
本当に怪しい。
大抵の場合、こうやってニコニコしてるやつは黒幕なんだよ……
「それにしても綺麗な瞳ですね、赤色で」
あ!そういえば伊達メガネ!
自分の顔を押さえた私を見て、その男はやっぱり微笑んだのだった。
そして私は男と一緒に馬車に乗せられ。
本当に道すがら、簡単に説明を受けたのだった。