1-01
人は見た目じゃない、
なんて世間はいうけれど。
結局この世は見た目次第だし。
見た目で判断されちゃうし。
私自身もしたくないっていいながら
見た目で判断しちゃうし。
そんな世界だからこそ
異質な見た目をしていると、
それだけで多分……
終わり。ジ・エンド。
でも終わらせたくないんだよね。
となると?
「早く起きろよブス!」
「寝てんじゃねぇよ!」
聞き慣れた台詞だ。
私は目を開ける。
水をかけられなかっただけマシか。
なんて少しでも思っちゃった私は、繰り返される毎日に慣れすぎちゃってるのかも。
けれどね。
「グアアあああああああ!!!!!」
これは想定外。
いや待って!これ……!
ド、ドラゴンじゃん!?
口の中が真っ赤じゃん!?
尖った牙があるじゃん!?
ドラゴンじゃん!?2回目じゃん!?
「は!?えっ、なに!?」
ざっと周りを見渡す。
何ここ!?
洞窟のような広い場所の一部に、透明なガラス。
自然を活かした実験室?
その向こうから、私を見ているのはクラスメイト。
クラスメイトの顔は青ざめている。
いや、おかしくない!?なに!?
なんであの人達、こっち見てるの!?
洞窟の中!?なんで!?
ついさっきまで私、教室にいたはずなのに……
今は洞窟の中!
目の前にドラゴン!
私を見ているクラスメイト!
皮肉なことに私を見ているクラスメイトだけは変わりない、そこだけはいつもの毎日。
「さっさとアンタが食べられなさいよ!」
呆然としている私に向かって声が飛ぶ。
よく知っている甲高い声。
声が飛んできた方向を見ると、知っている顔があった。
目が大きくて可愛らしい顔をした女の子。
けど私は知っている。
そいつは可愛いけど悪趣味なこと。
だってそいつの趣味は私をいじめることだから。
この10年間、ずっといじめられてきたから。
そんなアイツがいるじゃん!
こんな実験室の中に!
私と、ドラゴンと、いじめっ子!
え、なに、この状況……!?
甲高い声に反応したらしい。
ドラゴンがそいつの方に顔を向ける。
「キャアアアアアア!」。
いじめっ子がいつも以上に甲高い声をあげた。
悲鳴だ。金切り声の。
真っ黒なドラゴンが身体ごと動かして、そいつに向かってドタドタと走り始めた。
動きは速くない、むしろ鈍いくらい。
けれどいじめっ子のそいつは動けない。
足が棒にでもなっちゃったの!?
普段はあれだけ俊敏に私のことをいじめてるのにな!?
私は顔にひっかけているメガネを持ち上げる。
このメガネは伊達なので私の視力に問題はない。
むしろ目は良い方だ。
メガネをかけているのは顔を隠すためなだけ。
だけど10年くらい伊達メガネをかけているせいで、メガネを持ち上げることはほとんどクセになっている行動だ。
アイツの悲鳴を聞きつけて、ドラゴンが動く。
ドタドタと土煙をあげながら。
ほとんど目が見えていないみたいだ。
だからこそ、ドラゴンは声を聞いて動いている。
と、いうことは。
「私の名前は!!!
藤原 二十四時!!!」
できるだけ大声をあげる。
黒いドラゴンの顔がこちらを向く。
今にもドラゴンに食べられそうだったいじめっ子の目が大きく開かれ、信じられないって顔で私を見た。
そりゃそうだ。
そいつは私を10年以上いじめてきた。
毎日飽きもせずに。
そんな私が、よ?
いじめられっ子の私が。
どうしてこんなことになったのかわからないけど。
そのままドラゴンに食べさせたらいいわけでしょ、いじめっ子のそいつを。
そうすると私は、永遠にイジメから解放されるんだから。
けれど、ダメ。
絶対にダメ。
そいつを食べさせない!
少なくとも私の目の前で!
「16歳!!!小中高一貫の学校に通ってます!!」
だから私は叫んだ。
黒いドラゴンが動き出す。
私はその瞬間、ダッシュで動いた。
ドラゴンの動きはそれほど速くない。
しかも目が見えていない。
だから私が声を出してから動けば、大丈夫。
「グアアあああああああ!!!」
耳をつんざくほどの大声。
高い洞窟の天井にまでその声は響いたようだ。
上から小石が落ちてくる。
私も耳を塞ぎ、動きを止めた。
その隙をついてドラゴンが動き出す。
さっきまでの鈍足なのはなんだったの、ってくらいの俊敏さで。
ははーんなるほど、さっきのは演技ね?
エサを油断させるためのね?
赤い舌が見えた。
真っ赤な口が見えた。
尖った牙が見えた。
多分それが、私が見た最期のシーン。
「ただのヒト」であった藤原 二十四時の最期のシーンーーー……
『何でいじめっ子をかばったの?』
目の前に金色のドラゴンがいた。
真っ白の空間。
喋るドラゴン以外には何もない。
こんなに何もない空間なんてある?
しかも私、ふわふわと浮いている。
『あのまま殺せばよかったのに』
金色のドラゴンが話す。
まるで人間みたいに。
もしかしたら全ては私の空想なのかも。
洞窟の中にいた黒いドラゴン。
置き去りにされた私といじめっ子。
私達を見ているクラスメイト。
食べられちゃった私。
いじめられすぎておかしくなった?
私は無意識に、染めている黒髪を触る。
約10年間黒染めし続けてるせいでギシギシの髪はやけに現実的で、私を容赦なく現実に戻してくれた。
「だって私、イジメられてたんだもん」
声が出た。
なんだかキラキラしてる。
空想でもなんでもいい。
なんだか開き直ってきた。
『だから殺しちゃえばよかったんだ』
「絶対にヤダ!」
『え?』
金色のドラゴンが首をかしげる。
可愛いね!そうすると。
そう思いつつ私は続ける。
この世界は見た目で判断される。
私の見た目は異質だった。
だから終わりだって、仕方ないって。
ジ・エンドだって。
誰かがそういうの。
「私は大物になるの。絶対に誰も無視できない有名になるの。クラスメイトの誰よりも稼ぐの。誰よりも幸せになるの。そしてイジメてきたあいつらが、地団駄を踏むところを見るの!」
でもそれが嫌なら。
「私が誰よりも幸せになるところを見せつけて悔しがらせたいから、簡単に死ぬなんて絶対に許せない!!」
足掻くしかないの!
『あはははは!』
金色のドラゴンが笑った。
キラキラが強くなる。
真っ白な空間が星空みたいにキラキラ輝く。
『そのために生かしたの?憎んでたのに?』
「そう!絶対に許さない!」
『自殺しようとか思わなかったの?あれだけイジメられて』
このドラゴンはどこまで知っているのか。
私の脳裏に、イジメられた日々が過ぎる。
思い出すとムカついてきた。
「なんで自殺なんかしなきゃいけないの?死ぬとしたら学校ごと吹っ飛ばしてやるんだから。ただでは死なせないし、私だってただでは死なない!絶対に負けない。許さない。そんなに小さな憎しみじゃないから!」
またドラゴンが笑う。
何が楽しいんだろうね。
『君はまるで爆弾だ。その憎しみを力に変えて生きてる。面白い。気に入ったよ』
「どうも」
ドラゴンに気に入られたところでね。
金色のドラゴンの赤い目が動く。
私を見る。
個人的にちょっとイヤだな。
金色と赤は、個人的に思うところがあるから。
『1つだけ聞いていい?』
どうぞ。
私は小さく頷いた。
『世界で一番のチカラを手にしたら、君はどうする?』
世界で一番のチカラ?
それって誰にも負けないチカラってこと?
私は考える間も無く答えた。
「世界を滅ぼす!!」
金色のドラゴンが笑った。
あはははははは!
笑い声が飛び交って、色んなところから聞こえた。
『大いに結構!君でよかったよ!』
「君でよかったって何?」
『君は爆弾だ!覚えといて!』
金のドラゴンの声がキラキラと光ってる。
ううん、私の身体も。
伊達メガネにパチパチと光の粒子が当たる。
白い空間から遠のいていく。
「なに?なんなのーーー……?」
手を伸ばした。
意識が遠のく。
私はどうなってるの?
誰か答えて。
「というわけですので、神竜の子様。今日からここが貴女のお部屋でございます」
「何ここ……もはやちょっとした家じゃん」
「神竜の子様、そしてこちらの方々が……」
ああ。
この世は見た目で判断される。
それは私だって同じ。
私だって見た目で判断しちゃう。
「貴女を口説くために集められた殿方です!」
にっこりと神官が笑う。
目の前には5人の男性。
個性豊かだが、ひとつだけ共通していること。
それは「見目が抜群に麗しい」。
「よろしくね!ヨナカちゃん!」
「よ、よろしくお願いします!」
「…………」
「よろしくしちゃおうね♡」
「せいぜい楽しませろよ」
私、藤原 二十四時。
16歳。女子。
小中高と一貫の有名私立学校高等部1年生。
10年来の筋金入りいじめられっ子。
「どうしてこうなったの……」
異世界に転移しちゃったので
今日から神竜の子として世界を滅ぼします!