カフェモカとカプチーノ
カフェモカと、カプチーノ。
冷めたら始まる、君との時間。
いつも頼むカフェモカ。わたしの好きな味。
つらいとき、つまづいた時、私を助けてくれる温かさ。
やさしい香りに、ほっとする。
美味しいカフェモカ。いつもありがとう。
いつも届けるカフェモカ。僕に君は気づいてない。
泣きそうな顔、苦しそうな顔。
それを笑顔に変えるのは、僕の淹れたカフェモカだなんて。
むず痒いような気持ち。
美味しいカフェモカ。僕に気づく魔法を掛けて。
あの人が好きなカプチーノ。初めて頼んでみた。珍しいですね、店員さんにおどろかれた。気分転換に違うのを、そう言って誤魔化す。好きな人の好きな飲み物です、なんて言えない。
僕の好きなカプチーノ。注文は一つ。珍しいですね、思わず声をかけた。気分転換に、そう微笑む君に、知らない男の影が見えた気がして。落ち込む気持ちを隠すように、僕も微笑んだ。
泣きながら駆け込んだ店内。どうしたんですか、驚く店員さんに何も言えず、いつもの席へ座り込んだ。しばらく何も考えられず、携帯に入った写真を眺めては、涙を零す。するとそっと、カフェモカが出てきた。いつものです、そうやって笑う店員さんの優しさに、わたしはまた、泣いてしまった。
いつもよりも乱暴に扉が開く。入ってきた君は泣いていた。どうしたんですか、聞いても返事はなく、虚ろなままいつもの席へと腰掛けた君。携帯をじっと見つめ、涙を零す君を見ていられず、元気になる魔法を掛けた。いつものカフェモカ。笑って出してみると、君は笑って、また泣いた。
泣き止んだ君が、すみません、頭を下げる。大丈夫ですよ、お客様も今日は少ないですし、そうやって笑うと、君も少し笑った。
「あの、お代を……」
「あっ、大丈夫です。今回は僕の奢りで」
「あいや、そんな、申し訳ないです……」
「僕は君に笑って欲しかっただけなので。受け取って下さい」
困ったように笑った君に、僕は提案した。
「じゃあ、代わりに」
そっと君の手をとった。離してくれても構わなかった。
「あなたの名前を、教えてください」
だけど君は、離すどころか握り返して笑ってくれた。
「まりあ、です。桜木まりあ」
「まりあさん。素敵なお名前です」
カフェモカとカプチーノ。
僕らを繋いだ、魔法の呪文。
「つかさくん」
僕を呼ぶ君が、こんなにも眩しいなんて。
「まりあさん」
君と僕が結ばれるのは、まだ先の話。




