新たな活動拠点1
わたくし、桂恭子は非常に困った。
それは面接に不合格になったという困惑ではなく、目の前の現実に非常に戸惑いをみせている。
「はじめまして、自分はウサ うさぎです。 親しみやすくウサさんとお呼びください」
・・・・・
黒のハット、全身リクルートスーツを着てキメているのはわかるが・・・・
全身うさぎの着ぐるみの上の全身リクルートスーツ・・・・非常に理解に苦しむ。しかも器用にコーヒーカップを口の近くに持ち、コーヒーを飲む真似をしている。
わたくしも人のことは言えない格好をしていますが・・・黒の帽子に黒のレースのワンピース。服に似合わないくろぶちメガネ。第三者から見たらハロウィンパーティーにいくような恰好。
「ところで恭子様は素晴らしお召もので。やはり、
演技をするものとしてこういうものをお召しないと格好
がつかないものですな」
そう言いうさぎはコーヒーカップをおろす。
・・・・やはり飲まない・・・・・
「おほほほ」
右手を口に覆い苦笑いするしかできない。
怪しい、非常に怪しすぎる。新たな詐欺か?
でも自慢ではないがわたくし、桂恭子は貧乏である。
手持ちのお金は小銭しかなくクレジットカードも審査落ちして借金なんてできない。ましては携帯電話は昨日で支払い期日が過ぎ音信不通。時計変わりか懐中電灯がわりぐらいの小物になったのだ。
そんなわたくしを騙すメリットは・・・・ないでしょう。
「すみません。本題を・・・・」
「ああ、すみません。単刀直入で言います。違う世界で演技をしてみるのはいかがですか?」
うさぎは途方もない話をはじめた。
うさぎの内用は、世界に挑戦してみてはどうかという誘いの話だ。といわれてもここでも全然うまくいってないのに他で通用するとは思わない。なぜ、わたくしなのか?新しい詐欺なのか?人の名前を使って携帯電話を買わせてのオレオレ詐欺的なことなのだろうか?
ん~・・・わからない。
「話はわかりましたがはたして、わたくしが通用するのでしょ
うか?ここでも全く通用できないのに・・・」
マグカップを少し口を運び、うさぎの顔を覗き込む。断る前提の空気を漂わせて。
怪しい話は裏があるの世の中の常識なのである。だからといって直接断るとうさぎが逆上するかもしれないし、ここは穏便話に済まさなければならない。
さて、どう動く。
「はぁ、そうですか。なるほど・・・」
うさぎは納得したかのようにマグカップを口の近くまで運び、そしておろした。
うん?着ぐるみでは飲めないよね。マネかな?
わたくしが不思議そうにうさぎを見ていると、うさぎは突然バンと大きくテーブルをたたいた。
ほかの客がこちらを見てる。
「そのような気持ちだから売れないのですよ!
なぜ前向きに考えないのですか?本気で女優目指しているのですか!?」
皆こちらを凝視している。すごいプレッシャー。
えっ?なぜ、ほかの客がいまだにこちらを見ているのか?やめてもらいたい。
すごい恥ずかしい。
「皆さんの注目がそんなに恥ずかしいのですか?
人様の前で演技するのでしょ?」
いや、そんなこと言われても・・・仕事とプライベートを分けるタイプなのでわたくしは。
うさぎは急に立ち上がり、わたくしの手を引っ張り出した。
「口でいろいろと語りましたがやはり行動してみないとわか
ません。なので‥‥」
「えっ?」
飲んでもいないコーヒーを置いて店の外へ引き連れるうさぎ。
まだ会計も済ませてないから若い店員も一緒に出てきた。
「まだお金払ってませんよ!」
「では、みなさま新しい劇場へ誘います。」
手品師なのだろうか?
手から木の外枠みたいなものを出し、包み込んでいく。
えっ?‥‥えっ!?
突然のことで声もない声を出し周りを見渡す。
周りのおしゃれな喫茶店が黒い霧に覆われている。どういうからくりなのか全くわからない。
「そろそろ到着しますので着いたら〈本試験〉行いますで
よろしくお願いいたします」
うさぎが意味不明なことをいう。
試験?この黒い霧は??面接中なのでは?って、家賃、明日!?どうしよう...
悶々と考えてると黒い霧が少しずつ晴れていく。
えっと…何!?
そこまでおしゃれな喫茶店からなにも舗装してない道へと変わってしまった。
どういうこと!?