プロローグ
この業界はすぐ有名になるわけじゃない。にじみ出る努力しても注目の的にはならないし、かといって下手な演技でも運よく注目しトントン拍子に大女優の枠にはまり一生、名誉と威厳を約束される。それはさらに死んでもその名誉は語りつくされる。
私はどちらかといえば前者のほうである。この世界に入り20年滲みに出るほど努力した。町村Aでも容赦ないような演技をし主人公をたてたが評価は主人公に集め、所詮は町村Aの扱い、かといって重要な役に決まったが特訓のやりすぎで疲労骨折し入院、そのせいで役をおろされてチャンスを棒に振った。それからはまともな役が巡り合わなく夢をあきらめようか迷う毎日。しかしながらそれでも周りのスタッフ、友人たちは『職人』と呼ばれ褒められているが。それだけが唯一の誇りである。
そんなあるとき一通の手紙が送られてきた。なんでも町おこしのため劇団を作り、劇をして集客を試みるためどうしても私に協力してほしいとか。でも、名も売れていないのによく私という女優をみつけたのか。いや、言い換えようエキストラと。
私のような者に『女優』とはおこがましい。20年間鳴かず飛ばずの私を使うとはよほど経済的に苦難しているのだろうか。しかしながら私は大変感謝している。こんなにも長い間くすぶっている私を使って頂けるとはまさに神!この機会で私は羽ばたけるのだろうか、淡い思いを抱いて夜も眠れない毎日。本当に子どもだ。おかげで目の周りくま作って約束の場所に向かうハメになるのだから、雇い主はビックリしてその場で不合格と言い渡されるのだろうか・・・・非常に困る・・・・
私はなんとか目の周りを、長年培ってきたメイク術で遺憾なく発揮してごまかし、念のためにくろぶちメガネでくまを隠して約束の場所へ。衣装は全身リクルートスーツで身を固め、大企業へ面接向かうOLのような格好で面接に挑む。これは決して比喩ではなくまさに面接なのだ。最初の印象をよくして相手の心にとどめておけば見事に使って頂ける。これはもう戦いなのだ。
いざ、決戦の戦いの場へ。