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蚊取り線香

作者: 九音多夢

私の大学時代、ぼろアパートに住んでいた頃の話です。ちょうどお盆をすぎた頃で、その日は花火大会。私は行かなかったんですが、友人二人が行っていて、終わったらうちに遊びにくる事になっていました。


花火大会は9時で終わりのはずだったんですが、なかなか二人がやってきません。渋滞にでも巻き込まれているのだろうと思い、私はテレビゲームをしながらだらだらと待っていました。結局二人が来たのは11時近くになってからでした。


「悪い悪い、途中で一人増えちゃってさ」

二人の後に続いて白いワンピースの女性が入ってきました。

「え、だれ?」

「彼女はタエちゃん。なんか俺たちすごい気が合ってさ、構わないだろ?」

聞くと、帰りに車で走っていた所、一人で歩いていたのでナンパしたとの事でした。

そんなナンパについてくるような派手な子ではなかったので、意外に思いましたが、まあ、女の子がいるだけでむさ苦しさがやわらぐようなきがして、ついつい招き入れてしまいました。


当時流行っていた格闘ゲームで競い合う、というのがうちに来てからのいつもの流れだったのですが、二人は女の子と話すのに夢中でゲームなんかほったらかしです。仕方がないので私は、はしゃぐ二人を横目に一人でコンピューター相手に遊んでいました。


いくつかのキャラでラスボスを倒した所で三人の方を見ると未だにワイワイとやっていました。しかし、ちょっと様子がおかしいのです。女性を囲むように男二人がずっとしゃべっているのですが、女の子はひと言も発していません。なのに会話が成立しているのです。例えば、どんな映画が好きなの?という男の質問に、女の子は何も答えない。へ〜!渋いね!!ともう一人の男が相づちをうつ、そんな感じでした。

ただ、その子は二人の顔をかわるがわるじーと見つめていました。


その事に気づいてから背筋がぞっとするのを感じました。思い返せば彼女は部屋に来てから何も話していないのです。なぜこんな不自然な事に気がつかなかったのか、自分でも分かりませんでした。彼女の顔は青白く、生きている感じがしませんでした。

あーヤバいな、、そう感じた私は部屋をでました。

「俺、ちょっとジュース買ってくるわ」

携帯を片手にアパートの前の自動販売機へと向かいました。


プルルルルル


「もしもし?卓也?」

「おう、どうした?」

「いきなりなんだけどさ、お前、幽霊とか詳しかったよな?」

卓也って言うのは同じ大学の同級生でオカルト研究会の部長をやっていました。

「ああ、まあ、、で、なんかあったのか?」

私は一通り事情を説明しました。

「んー、、その女どこで拾ったって?」

「いや、詳しくは聞いてない。ただ道を歩いてた所をナンパしたって、、」

「そうか、、あっ!ちょっとさ、お前アビラウンケンソワカって言ってみ?」

「え、なんで?」

「いいから、ア.ビ.ラ.ウ.ン.ケ.ン.ソ.ワ.カ!」

「ええー、っと、アビラウンケンソワカ。これでいいか?」

「ok。じゃあさ、その女の顔ってどんなだった」

「女の顔?えーっと、、あれ、、どんなだったっけ?あっれ〜、思い出せない」

「あーやっぱり。ダメだわ、その女。今のは本来あるべき姿に戻れっておまじないなんだけど、お前もちょっと危なかったぞ。とにかくその女、部屋から追い出せ」

「追い出せったって、どうやって!?おまえちょっとうちまで来てくれよ」

「それは無理。俺今実家帰ってるし」

「マジかよ、、」

「あ〜ひとつあったわ。お前んち線香ある?」

「いや、ない。蚊取り線香ならあるけど」

「ああ、それでいいよ。部屋に戻ってなガンガンに蚊取り線香焚いてみ。部屋が曇るくらい。多分それでもとの場所に帰るはずだから」

彼が言うにはその女は地縛霊で本来はその場所を動けないはずなのに私の友人が連れて来た、とのことでした。

「それから、部屋に帰っても女の顔は見るなよ。お前も取り付かれちまうからな」

さいごにダメだったらとにかく逃げろ、と言い残して電話は切れました。


わたしはやるべき事を頭でシュミレートしながら部屋に戻りました。


部屋に帰ると彼らはまだわいわいと騒いでいました。横を通っても私に見向きもしません。

言われたとおり、すぐに蚊取り線香を炊きました。お皿に取り分けて5本。

1kの私の部屋はすぐに煙でいっぱいになりました。だんだんと息苦しくなってきて友人二人が咳き込み始めたと思うと、スッと女が立ち上がりました。私の事をにらみつけているようでしたが、私は目を合わせないようにずっとうつむいたままでいました。


そのまま女は部屋を出て行きました。

「あれ、タエちゃん。帰っちゃったよ。早く追いかけようぜ」

いまだ正気に戻らない二人を私は思いっきりひっぱたきました。

「おい!おまえら。自分の顔、鏡でみてみろ!」

彼らの顔にははっきりとしたクマが浮かんでおり、顔全体がどす黒くなっていました。

「なんだ、この顔!」

「うえー、これ、誰だよ」

二人は鏡を見てあまりの変貌に驚き、やっと正気に戻りました。

「だめだ、気分悪い」

そのまま二人はぐったりして倒れるように眠ってしまいました。

次の日の昼すぎ、ようやく目を覚ましたときには元の顔色に戻っていたので安心しました。


話はこれで終わりです。

もうだいぶ昔の事なのですが、思い返すと今でもあの時の恐怖がよみがえってきます。

もしあのまま彼女が居座り続けていたらどうなっていたのでしょうか?

みなさんも、知らない人を部屋に招く時は一つ疑いを持つ事をオススメします。



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― 新着の感想 ―
[一言] 実話ですか? そう思うくらい臨場感がありました。
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