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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第七十二話 勝利

 イザルデを倒した後、彼の拠点を調べ上げたが邪神の気配は一つとして見つからなかった。


「邪神の力自体は、他者に使われることを危惧し、拡散させるようなことはしなかったのだろう」


 ロベルドはそう俺へと語る。


「戦場に出てきたイザルデが偽物という可能性も一瞬考えたが、洞窟内に存在する邪神の気配が完全に消え失せたことに加え、イザルデ自身の力であると確定したため、ああして一気に攻め立てたわけだ」

「終わったけれど、なんだか複雑な気分だな」


 俺はそう呟き、洞窟を見回す。


「みんなのおかげで、イザルデを倒すことができた……本当はもっと、俺が全てを賭して戦うくらいだと考えていたのに」

「イザルデもそう思ったから戦場に出てきたんだろう。もっともそれこそこちらが望む形だった」

「作戦成功ってことか」

「そうなるな」


 俺達は洞窟を歩む。俺の後方にはマシェルを始め、フェリアやリュハもいる。その目的は、リュハの体に眠る邪神を取り払うためだ。

 イザルデが消えたことにより、洞窟内は静寂に包まれ、俺達は一切障害もなく進むことができている。


 そうして問題などなく、俺達は最深部へと辿り着いた。立っているだけで理解できる、凄まじい魔力が存在する空間。大地から力が漏れ、この空間がまるで世界の中心であるかのような錯覚にすら陥る。


「さて、始めよう」


 リュハを部屋の中央に立たせ、マシェルが陣を描く。手順としては俺の剣で自身の魔力を増幅し、マシェルが描いた陣内に『創神刻』を使用する……もし失敗しても何度でも試すことができる。難しい話ではない。

 そうして俺は神域魔法を使用し、魔力を高めていく……リュハの表情は穏やかで、俺に全てを任せている様子。


 内に眠る邪神は何を考えているのだろうか……そんなことを思案しながら、俺は魔法を解き放つ。


 剣を介し放たれた力は、大地の力と結びついて一気に光が溢れる。マシェルが描いた陣の中を駆け巡り、まるで砂竜がのたうつような凄まじい勢いが生じる。

 そうした魔力の奔流の中で、俺とリュハは何事もなく対峙する――やがて、視界が真っ白になった。けれどリュハのことは魔力を通してわかる。彼女はまだ、立ち尽くしている。


 そこで俺はさらに魔力を高めた。このまま出力を上げ続ければ……そういう考えを抱いた時、突如リュハの気配が消えた。


「え……」


 呟いたが少し違うと思った。彼女が消えたのではない。これは間違いなく――


「どうやら、私の負けみたいね」


 そこで、リュハの声がした……けれどそれは彼女ではない。

 光の中から、姿を現すリュハ……いや、紛れもなく、邪神の意思だった。


「……リュハが消えて邪神になったわけじゃないな」

「そうよ。今あなたは一気に魔力を開放したせいで意識を飛ばしている。もっともそれはほんのわずかな時間。そのわずかな時間で、私はあなたに干渉して語りかけている」

「命乞いでもする気なのか?」

「違うわ。邪神との戦いはあなた達人間の勝ち……そう言いたかったのよ」


 にこやかに……まるでそれが運命であるかのように、受け入れる邪神の姿がそこにはあった。


「イザルデという存在から、邪神の成り立ちについてはわかったはず。私は……そうね、あらゆる負の感情から生まれた以上、破壊衝動が存在しこうして消えることに抵抗もある。でも同時に、これで良かったのだろうという思いもある」

「それは、何故だ?」

「私の中に眠る、人間の感情……負の感情以外にも、ほんの少しだけ存在しているようね。それらがこの終わりで良いと私自身を納得させている、とでも言うべきかしら。もしかすると単に私が自身を慰めるための言い訳かもしれないけど」

「……こうして姿を現したのは、それを伝えるためだけか?」

「そうよ……邪神の力を用いた物質などはまだ残っているかもしれない。けれど本体が消えればいずれそれらも力をなくすでしょう。一度世界全てが消え去ったけれど、最終的にはあなた達の勝ちというわけね」

「とはいえ、これで終わりじゃないさ」


 俺が述べると邪神は小首を傾げた。


「どういうこと?」

「世界は邪神の存在を認識している以上、その力を復活させようと企むようなやつが出てくるかもしれないだろ?」

「なるほど、そういう見方をするとまだ戦いは終わっていないかもしれないわね」

「……女神が消えている以上、俺がやらなきゃいけないことなんだろうな」


 もし女神が健在ならば、邪神の残滓を抑え込む手法はそう難しくなかったと思う。けれど邪神に対抗できる存在がいないとしたら、誰かがその役目を背負わなければならない


「ならば、この少女はどうするの?」


 邪神は自身の胸に手を当て、問い掛けた。


「彼女は間違いなく、あなたと一緒になることを望んでいる。けれど邪神の力を入れ込んでいた彼女の体は、間違いなくそうした一派が器として適役だと認識するだろうし、また同時に力が入り込みやすくなっている」

「それを封じるのが、『創神刻』だ」


 こちらの言葉に邪神は「なるほど」と応じる。


「なら、大丈夫そうね」

「……そっちは急に親しげになったな」

「そう? 私はあなたにこれからのことを訊きたくて話をしただけよ」


 肩をすくめた邪神……と、俺は気付く。その体が薄くなっていく。


「あなたの魔法が効き始めて、存在が消えかけているわね。ここまで来たら抵抗なんかしないから、安心しなさい」

「何か、言い残すことはあるか?」

「そうねえ……邪神を見に宿した少女のことは、大切にしなさい」

「そんなこと、百も承知だ」


 決然としたセレスに対し邪神は微笑を浮かべ、やがてその姿が――消え失せた。

 それと同時にリュハの気配を感じ取る。『創神刻』がきちんと効いて、いよいよ邪神を別の神に変質できるところまで来た。


「どうすべきかはずっと考えていた……これがその、答えだ」


 そう俺は発し、魔力をさらに高める。そして室内が俺の魔力で満たされた瞬間、リュハの気配も魔力に覆われ感じられなくなった。

 それと同時、一気に魔法を収束させる――邪神の力が俺の魔法によって変化していく。それが彼女の体隅々にまで行き渡り……女神に近い力に変化する。


 そこでようやく、俺は終わったと……邪神との戦いが完全に終わったのだと悟った。


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