第六十四話 攻防戦
ふいに、轟音が天高く響いて思わず目が覚める。気付けば空はずいぶんと明るくなった……が、まだ夜明け前といったところ。
「起きたか」
ロベルドの声がした。もしやずっと見張っていたのか?
「ロベルドさんは――」
「徹夜したところで問題はない。セレスはどうだ?」
俺は体を確かめる。ひとまず問題はない。
「こっちは大丈夫」
「そうか……セレス、見た目的にはよさそうなんだがな」
そこでまたも轟音。起き上がりロベルドの視線の先を眺めると、そこはまさしく戦場になっていた。
夜には見えなかった、大きな洞窟が真正面に存在していた。その周辺には洞窟を守るようにして布陣する幻魔の姿。数はかなり多い上に魔物もいるため、さすがという兵力。
それに相対するのがフェリア達。竜を始め魔物や悪魔のような見た目の存在を惜しげもなく投下し、洞窟周辺にいる魔物を蹴散らしている。その上で幻魔に対してはこちらも幻魔――つまりフェリア達が応じている。
「先ほどモルバーの手勢から連絡があった」
と、ここでロベルドが口を開く。
「あいつも直にこの戦場へやってくる……加えて人間側とも色々話し合ったと。どうやら闇夜の襲来は人間側も相当危機感を与えたらしく、深夜にも関わらず即座に部隊を編制し、こちらへ向かっているらしい」
「部隊……そうは言っても数も多くないだろうし質だって――」
「人間側も動き回るイザルデのことは警戒していた」
俺の言葉を制止するように、ロベルドは告げる。
「この洞窟近辺には軍事拠点も存在する」
「つまり、相応の部隊がやってくると?」
「そういうことだ」
「問題は、きちんとフェリア達と手を組めるかってことだけど……」
「そこはフェリアに頑張ってもらうしかないな」
ロベルドが言った瞬間、またも轟音。見れば洞窟入口近くで魔法を炸裂させたか土砂が噴き上がっていた。
「……フェリアが現在優勢だ。とはいえ報告によると外にいる幻魔が洞窟へ戻るべく動いているらしい」
「……俺達はどうすれば?」
「もしこちらに気付いたのならば迎撃すればいい。頃合いを見てフェリアと合流してもよいだろう。あの調子ならば策など用いず押し込むこともできそうだからな」
……確かに見る限りではフェリア達が押し切りそう。とはいえ洞窟の中から援軍が出てくるかもしれないし、外にいた幻魔が戻ってくるのならばどうなるかわからない。
「日が昇るまで様子を見ることにしよう」
ロベルドはそう告げながらじっと洞窟周辺を注視する。何が起こっても即座に対応できるように、ということだろう。
その時、後方で気配。振り向くとまだ多少眠たそうなリュハがいた。
「どうしたの……?」
「フェリアさん達が戦っている。優勢みたいだけど」
「そう……」
呟きながら俺の隣へ来たリュハは、洞窟を眺め……眠気も吹き飛んだか硬い表情となった。
「リュハ……何か感じるか?」
俺の問い掛けに彼女は深々と頷く。
「気配がする……とても濃い気配が」
「あの場にイザルデがいることは間違いなさそうだな」
呟きながら俺はフェリアを観察。多数の幻魔を味方につけた彼女の猛攻により、敵の数を確実に減らしている。なおかつ味方側の犠牲はそれほど多くない……数の上ではどんどん有利になっていく。
その時、戦場に変化が起きた。洞窟を挟んでセレス達のいる場所から反対側……幻魔が出現する。外にいた敵だろう。
けれどフェリアは即座に対応した。事前に察知し迎え撃てるような態勢を整えていた、というわけだ。
ただこれは……数が多い。
「下手すれば、外にいるイザルデの手勢全てが集結しているかもしれないな」
ロベルドはそんな風に呟く。実際その通りだと思うくらいの数。フェリア達が危なくなるのでは……そう思っていると、竜が吠えた。
そして果敢にも突撃を開始する。幻魔もそれに対抗すべく魔法を放ち、撃ち落とされる個体もいた……が、大半は生き残り援軍へ突撃。陣形を破壊していく。
混乱した状況下でフェリアは突撃し、士気を下げながら迎撃……作戦はこんなところだろう。
「今回の戦いでイザルデを倒したとしても残党が懸念されていたが……その心配もなさそうだな」
ロベルドが評する。確かに後のことを考えなくて済むのはいいかもしれないが……。
「――セレス、また……!」
リュハが呟く。俺も即座に気付いた。今度は右手から新手が。
「いや、フェリアはそれも察しているな」
ロベルドが言う……言葉通り幻魔が展開し、援軍の対応に出る。
とはいえこれで数の上では不利になったか……俺達も出るべきではと思ったが、ロベルドが動く気配はない。
「ロベルドさん、どうする?」
「まだだ。フェリアの役目は戦力を減らしセレスの援護をすることだ……その役目を全うしているだけに過ぎない」
断じるロベルドだが、ここで大きく戦力を減らせば著しく不利になる――
「セレス、フェリアも百戦錬磨だ。このくらいの状況は慣れているし、むしろ窮地に立たされたわけでもない」
ロベルドはフェリアを信頼し、任せている……ならばと俺も口を閉ざす。事の推移を見守り……信じることにする。
洞窟側と右手とで二正面の戦闘に入ったフェリア達。しかしそれでも彼女達は堪え、あまつさえ右手側の敵達を押し返そうという勢いがあった。
「ここまでは順調……かな?」
「これ以上援軍が来なければフェリア達が勝てるだろう。もっとも、まだ終わっていないだろうが」
「何か根拠が?」
「……イザルデの配下で側近中の側近がいる。そいつがまだ戦場に現れていない」
「洞窟の中にいるのか?」
「外で確認したという報告はないため、おそらくそうだとは思うが……」
この状況下で洞窟から大軍が押し寄せてきたら――不安がよぎった瞬間、変化が生じる。
突如洞窟周辺の魔力が、俺でもすぐにわかるほど濃くなった。リュハが小さく呻き慌てて「大丈夫か」と声を掛ける。
刹那、洞窟からさらなる手勢が出現する。魔物と幻魔の混成軍だが、明らかに他とは違う気配……!
「ここが正念場だな」
ロベルドが言う。おそらく先ほど彼が言った側近が率いている。もしここで勝つことができれば……俺はどこか祈るような気持ちで戦いを眺め続けた。




