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第六話 鍛錬の日々

 その後、ロベルドも交え俺の家で夕食をとり――ロベルドが家に帰る際、俺は見送りをした。


「明日から、砂漠の遺跡へ向かうための準備と、強くなるための鍛錬を始めよう」


 俺はそれに黙ったまま頷く。


「私は生来剣士だが、魔法の扱いについても心得がある。どちらが向いているかは鍛錬の間に調べるしかないが……剣の振り方も教えよう」

「うん」

「そして砂漠の遺跡……これについては行く前に、試練を与える」


 試練――首を傾げるとロベルドは補足する。


「砂漠には砂竜という魔獣が多数生息している。私が基本応じることになると思うが、そうして敵を相手にできるだけの実力は、持つべきだ。だからこそ、砂漠へ入っても問題ないか、向かう前に試させてもらう」


 ロベルドの言う鍛錬がどのくらいで終わるのかはわからないが、道筋がついただけでも大きな収穫だ。

 俺は力強く頷く。そして一層できる限り早く力を手に入れようと思った。






 翌日から、ロベルドと本格的な鍛錬が始まる。とはいえ子供である俺がすぐに剣を握るわけではなかった。


「まずはより実戦的な魔力の扱い方だ」


 これまでは魔力を制御するだけだったが、それを戦闘に転用するための鍛錬……魔獣などと戦う際、魔力に関する技術は生命線だ。前世のケインにおいても、試験の時や魔獣と戦った時だって魔力を用いて体の強化を施していた。


 しかし実力が足りず、結果として俺は死にこうして転生した……今の俺ならそういうことにならない、と思う。


「セレス、お前には三つの魔力がある。しかし魔力による強化について質的なものはあまり関係ない。強いて言えばどれだけ魔力を注いだか……そしてどういった技術を用いたかによって決まる」


 つまり、強化について言えば魔力の質については関係ないわけだ。


「ともあれ、三つの魔力全てで同じように扱えた方が、便利かもしれない……多少時間は掛かるだろうが、飲み込みが早いからな。魔力制御もほぼ完成しているし、そう時間もいらないだろう」


 ――そういったロベルドの預言は当てはまっていた。実際俺は前世からの知識もあるし、半年以上鍛錬を続けてきた魔力制御がいかんなく発揮され、強化の基礎的な部分は二月足らずで終わってしまった。

 また、それと平行して魔法に関することも学ぶ……といっても理論ではない。実戦で活用できるものであり、俺にとっては魅力的なものだ。


 朝から昼は魔力強化を用いて体を動かし、昼から夕方までは魔法について学ぶ……それを繰り返し、確実に俺は強くなっていく。


 強化技術についても一通り身についた段階で、いよいよ剣を持つことになった……五歳くらいの子供に大丈夫なのかと思ったが、ロベルドは特に気にしている様子はなかった。


「場合によっては、セレスよりも小さい時から剣を振ることもある。騎士の家系などは特に」


 なるほどと俺も納得……それで剣の鍛錬についてだが、基礎的な部分は訓練学校にいたため俺も学んでいる。よってロベルドによる指導についても難なくついていけた。


 だからなのか、ロベルドは俺に対しセンスがあると感じたらしい――すぐに実戦形式を組み込んだ。

 といっても相手はロベルドではない。彼が生み出した人工的な魔獣だ。


「戦いは、一瞬判断が遅れただけで致命的となる。特に相手が達人や高位の魔獣であればなおさらだ」


 そう語ったロベルド――俺の目の前には、猿のような黒い魔獣が一体。


「剣術の基礎や体の動かし方、そして魔力の扱い方……基本的な部分は既に身についている。セレス、お前の場合三つの力が体の中に存在しているため多少ながら混乱があると考えていたが、杞憂だったようだ」


 これはロベルドの制御訓練の賜物だな。


「セレス、以前内に眠る三つの魔力は色が違うと言っていたな? 魔力による強化でどれを用いても差はないようだが、戦う場合違いが出てくるかもしれない。よって、日によって扱う力を変える。まずは、白を試そう」

「わかった」


 魔獣との戦いが始まる。猿は見た目通りすばしっこく、魔力無しではその動きについていくのがやっとだ。


 落ち着け、まずは魔力による身体強化だ……一呼吸置いて白い魔力により強化が成される。三つの力を区別し、同じように扱うことができる。それぞれの魔力の真価が発揮されるのは、もっと強力な魔法や技術を扱うようになってから、かな。


 猿は俺の周囲を動き回っており、強化によってその動きについていくことができるようになる……攻撃してくる様子がないのは、訓練だからか。

 接近し、剣を一閃。握っている武器は鉄ではなく石の剣。とはいえ魔力によって強化されたことにより切れ味は結構あり、猿は体に一撃受け、あっさりと滅んだ。


「いいだろう。ならば次だ」


 またも同じ形。だが今度は俺へ襲い掛かってくる!


 こちらは剣を構え直し、差し向けられた腕を弾き返す。腕がわずかにしびれ、追撃の一撃が迫る――

 どうすべきか判断に迷った。後退するのかそれとも迎え撃つのか。


「セレス!」


 足を止めた俺にロベルドが声を発する。それで我に返り、胸元に迫ろうとした腕を下からは上への斬撃が、妨げた。

 ガン! と重い音が間近で聞こえる。猿は体勢を大きく崩し、これは好機だと悟って前に出る!


「このっ――!!」


 刺突。見事成功し心臓部分を剣が貫いた。

 そして消滅する魔獣。息をついていると、ロベルトが口を開いた。


「向かってくる魔獣に対し、判断が遅れたな」


 指摘され俺は頷く……まさしくそれ。魔力については問題ないが、俺は実戦経験がまるで足らない。

 前世の試験が思い出される……苦い記憶だが、あれを乗り越えるにはとにかく鍛錬を重ねるしかない。


「今ので命取りになると理解できたはずだ。これを埋めるにはただ一つ……経験を積むことだ」


 戦いをこなすことで得られる経験――


「セレスはまだ小さい。だが小さいからこそ今から学んだものが確実に知識として体に記憶されていく。三つの色の魔力と、経験……その全てを今から実戦で学んでもらう」


 ……はっきり言おう。子供に教える内容ではない。


 けれど、これこそ俺が求めていたものだと言っていい。最高の素質と、最高の指導者。まだ女神の力を完全に行使できるわけではないので不完全ではあるけれど、逆に言えば途轍もない伸びしろが存在する。


 それを思うだけで、体が震える……そう、俺は強くなっている!


 ただがむしゃらに剣を振る姿を見てなのか、ロベルドは笑みを見せた。親友の息子である俺を見て感慨を抱いているのか、それとも魔獣と戦う俺の姿を微笑ましく思っているのか。

 魔力を戦闘で扱う技法は、とにかく実戦と共に教えてくれる。例えば内に秘めた魔力を筋肉にまとわせるイメージを行うと、身体強化だけではなく防御力も高くなる。


「魔力は集約すればするほど強固になる。セレスの力ならば、三種の魔力を集中すれば相当強固な防御壁となるだろう」


 解説を受けながら、俺は毎日剣を振り続ける……そんな生活がさらに数年続いた。


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