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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第五十八話 十日

 マシェルとガドナから邪神の力を消すと、二人は気絶から回復した。


「やれやれ、頭の中をいじくられた気分ねえ……」


 どこか面白く無さそうな感じでマシェルが話し始める。


「思考が常に前を向き、破壊衝動で支配される……なるほど、イザルデの力というのはこういう厄介な代物なのね」

「今は頭の中もクリアなのか?」


 フェリアが問うと、マシェルは「そうね」と応じた。


「少なくともフェリアを成敗しようとは考えていないわね」

「……一応聞くが、好戦的だったのはイザルデの力の影響ということでいいんだな?」

「そうね。でもいつか寝首をかかれるかもしれないわよ? 眠るときは気をつけてね」


 冗談っぽく会話をする両者。距離感が近いのは、それなりに親交があったから、ということだろう。

 そしてガドナは自分の体を色々と確かめている。異常がないかを目で見ているようだが、


「ガドナ、大丈夫か?」


 ロベルドの問い掛け。それにガドナは頷いた。


「体に痛みなどは?」


 首を小さく振る。


「そうか。異常があればすぐに言ってくれ」


 コクリと頷く……一言も喋らないのは――


「ロベルドさん、ガドナさんは」

「ああ、基本こいつは声を発しないからな。イザルデの力を得てずいぶんと多弁になっていたが」


 コクリと頷くガドナ。これが本来の姿みたいだけど……今までがよほど異常だったってことかな?


「さて、これで主要な問題は解決したな」


 フェリアが手をパン、と鳴らしながら述べる。


「いよいよイザルデとの対決に移ることになるだろう……マシェル達も戻ったことだし、ひとまずお茶にでもしよう」






 屋敷へ戻り侍女が色々と準備をする間にフェリアが改めて状況説明を行う。またイザルデが保有する邪神の力についてもきちんと説明を加え――


「……正直、ほんの少しだけ力を入れたわけだけど、途轍もないものだったわ」


 そうマシェルは感想を述べた。


「イザルデが抱えている邪神の力は、例え幻魔であっても精神がおかしくなるようなほどのもの……それに耐えているのは、何か理由があるのかしら?」

「あるからこそ、ああして活動しているんだろ……いや、少し言い方が違うな」


 そうフェリアは言うと、口の端をわずかに歪め、


「もしかするとイザルデという存在は、もう消え失せているのかもしれない。あれは邪神を抱えるただの器だとしたら」

「なるほど、そういう可能性も考えられるわね」


 ――実際は、どうなのだろうか。俺と相まみえたイザルデ――シャルトはどういう存在なのか。


 邪神そのものなのかあるいは邪神とは関係のないものなのか……後者だとしたら、例えイザルデの力が多大であっても正直耐えきれるとは思えない。シャルトは俺のことを認識したわけだけど、単に記憶を保有しているだけで実際は邪神の力に取り込まれているだけ、なんて可能性もある。


「――様々な推測はできるが、ひとまずそれについて置いておこう」


 次にロベルドが口を開いた。


「そもそもイザルデが話すようなこともないだろうからな……さて、モルバーについての対処も終え、反撃できる条件は整った。現在各地にいる幻魔に文を送り、応答を待っているのだが、それも数日中には終わるだろう」

「戦力はどの程度集まりそうなの?」


 マシェルが問う。それにロベルドは、


「幻魔の頭数だけを言えば、イザルデの配下とほぼ同等だ」

「質的には?」

「こちら側の方が上……と思う。王に仕えていた者ばかりだからな」

「歴戦の戦士達、というわけね。そしてこちらには切り札である存在もいる」


 俺へと視線を注ぐマシェル。


「なるほど、確かに反撃できる態勢は整いつつある……けれど、正直洞窟にこもっている彼を引きずり出すのは至難じゃ無いかしら?」

「――たぶん、外に出てくる可能性は低いと思う」


 そう俺は口を開く。途端に視線が集まった。


「俺は一度、イザルデの分身と戦い、勝利している……俺の存在がいる以上、自分に有利なフィールドを出て戦うということはしないと思う」

「倒すならば、こちらから行かなければならないと」


 フェリアの言葉に俺は首肯する。


「イザルデは俺を倒せばそれで終わり……けれどこちらはイザルデを放っておけばそれだけ多くの被害が出るし、マシェルさん達のように幻魔を支配下に入れてしまう……よって。できるだけ短期間で勝負をつけたいはず」

「確かに、な」


 ロベルドが声を発した。


「セレスの登場で、大きく戦局が変わった。女神の力を持つセレスに対しイザルデも警戒していることだろう……イザルデとしてはセレスに対し何かしら策を講じてくるはずで、しかもそれは今までの戦いよりも規模の大きいものになるだろう」

「時間を与えるのは、相手にもそうした策の準備をさせるわけで、得策ではないな」


 フェリアが続く。マシェルやガドナもそれについては同意するのかしきりに頷く。


「ま、こちらもこれ以上領地を無茶苦茶にされたくはないし、さらに言えばイザルデの戦力も減っている現状が、まさに最良の狙い時なのは確か……各地にいる幻魔が結集するのは十日ほど経過してからだが、それを待って攻撃を仕掛けよう」


 十日……イザルデが分身などを準備する期間がどのくらいは不明だが、あれだけの力を持った存在を作るには相応の時間が必要となるはず。そう心配はしなくていいか。


「ロベルド、策は以前話し合った通りだな?」


 フェリアが訊く。ロベルドは頷き、


「ああ、それでいいだろう……セレス、お前がイザルデを倒さなければならない。そのために、こちらで守り、最高の状態で戦うように段取りする」

「わかった」


 決戦までは、守られる立場か……ともあれその策はありがたい。全力でなければ、間違いなくイザルデには勝てないだろうから。


「よし、結論は出た。マシェルとガドナはしばし屋敷で休んでいてくれ。決戦までに体調を戻しておくこと」

「わかったわ」


 マシェルは承諾。ガドナもまた頷き、会議は終了した。


 ――ようやく、イザルデとの決戦が始まることになる。どう転ぶか予想もつかない戦いであるし、何よりシャルトの記憶を持っていることは……最深部で本物と対面したとき、わかるのだろうか。

 ともあれ、まずはそこまで到達しなければならない……そして必ず勝たなければならない。そのために十日ばかりだが、さらに鍛練を重ねる。これしかないと強く思った。


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