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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第五十六話 彼女の剣

 フェリアが高めた魔力は、それこそ『黒竜剣』を行使したロベルドと比べても遜色のない気配……それを見て彼女もまた傑物なのだと、思い知らされる。

 対するマシェルも魔力を高め、フェリアに対抗するべく魔法を放とうと構える。双方がまさしく全力の一撃であり、これで勝敗を決するという気概に満ちあふれていた。


「勝つのは私よ、フェリア」


 マシェルが宣言。それに対しフェリアは、


「いや、私だ」


 負けじと返す――直後、フェリアが斬撃を、薙いだ。

 それと同時にマシェルも両腕をかざした。それと共に放たれたのは闇の光弾。フェリアも刀身に乗せた魔力を刃状に変化させ、マシェルへと放った。


 その二つが、両者の中間地点で激突する。途端、轟音と大気を軋ませる衝撃を、肌で感じ取ることができた。

 隣にいるリュハは言葉を無くし、胸元で服を握り締める。俺もまた固唾を呑む中で二つがせめぎ合い……やがて、フェリアの斬撃が押し始める。


 力ではまだフェリアが上か……そう思った矢先、マシェルはさらに腕をかざした。追撃の攻撃か――

 だがフェリアはそれを読んでいたのか、さらに剣を放とうとする。そしてフェリアの斬撃は闇を打ち払ったが、マシェルへ届くことはなく消え去り、またも両者は闇と斬撃を放った。


 けれど全力を出した先ほどの攻撃と比べれば、魔力量は少ない――直後、またも激突。けれど今回結果は明瞭で、フェリアの剣が闇を弾き飛ばす。

 そしてマシェルに届こうとして――彼女は避けた。


「やるわね」

「根本的に私との力の差は大きかった。例えイザルデの力で埋めようとも、それを変えることはできなかったようだな」


 冷静に言葉を紡いだフェリアは、改めて剣を構え直す。一方、マシェルはまたも魔法を使うべく両腕に魔力を集めた。

 刹那、フェリアがとうとう踏み込んだ。ロベルドとガドナの横槍はどうやらなさそうで、彼女は猛然とマシェルの下へ駆ける。


 その所作はこれで決めるという気概を含んでいるが……するとマシェルは守りに入った。両腕に収束させていた魔力を攻撃ではなく、フェリアとの間に壁を作り防御に転用した。

 そこへフェリアの斬撃が入る。だが硬い物に阻まれた彼女の剣戟は、結界により押し留められた。


「……セレス、少しばかり言わせてもらう」


 そこで、俺へ向かってフェリアは話し始めた。


「確かにこれから相手となるイザルデは脅威だ。セレスの力が無ければ勝つのは難しい……が、さすがに足手まといのような扱いをされるのは、少々癪だ。これでも幻魔として、それなりに功績を上げてきたからな」

「今この場でやられるあなたが語る必要はないと思うわよ?」


 挑発的に告げるマシェル。けれどそんなセリフをフェリアは無視する。


「ロベルドの技量はセレスもよくわかっているから、特に考慮しなくともいいだろう……が、この私の実力についてはここできちんと示しておかなければなるまいな」


 そこで気付く。結界とせめぎ合っているフェリアの力が、どんどん高まっていく。


「マシェルが相手ならばその辺り、十分示せるだろう」

「甘く見るのも大概にしないといけないわよ?」

「甘くは見ていないさ――」


 決然と述べた直後、フェリアの力が一挙に放出された。

 それは火山が噴火するような凄まじい勢いを伴っていた。さすがにマシェルも予想外だったか、表情から余裕が消える。


 これはまずい――そんな判断をしたのかもしれない。ともかくマシェルの選択は後退か結界強化か……結論としては、強化を選択し、抑え込むことにしたようだ。


 けれど、それは完璧に悪手だった。


 フェリアの力が爆発する。先ほどイメージした通り、それは間違いなく噴火だった。刀身に注がれた魔力は半ば暴走状態に近く、俺は大丈夫なのかと思ってしまう。


「――久しぶりに、見たな」


 そんな中、ロベルドと対峙するガドナが呟く。


「あの技は多少なりとも溜めが必要だ。援護でもなければ使えないはずだが」

「その余裕がある相手ということだろう」


 淡々とロベルドが返す。そこで俺はマシェルの表情を見据えた。結界を通しフェリアと対峙する彼女の顔は、恐怖に染まっていた。


「馬鹿な……! これを凌駕するというの!?」

「そんなセリフが出るということは、マシェルは私の力を見誤っていた、ってことだな」


 対するフェリアはロベルドと同様、淡々と呟く。


「まあ、これは仕方のない話だ。そもそもこの技はガドナが言った通り時間を要する。まともな戦いでは使用することのできない代物だからな」

「けれど、私との戦いでは使ったじゃない?」

「それはつまり、そちらの戦法がまずかったというだけだ。マシェルの敗因は、私に時間を与えてしまったことだ」


 マシェルが生み出す結界にヒビが入り始める。怒濤の如く押し寄せる魔力に、マシェルの力はついていくことができない。

 この段に至り、結末が予想できた。フェリアが結界を突き破りそのままの勢いでマシェルに一撃決める。刀身に注がれた魔力をまともに食らえばマシェルは無事では済まないと思うが、何か手があるのか。


「ま、この戦いは私の実力が多少なりとも証明された一戦になりそうだな。そうだろう? セレス」

「……ああ」


 認めざるを得なかった。その言葉でフェリアは満足したのか笑みを浮かべ、

 同時、結界を突き破りマシェルに一撃食らわせた。


「かはっ――」


 声が漏れる。ただ予想に反し剣を決めても吹き飛ぶようなことはなかった。結界を破壊した勢いで剣を叩き込めば、相当吹き飛ばされると俺は思ったが……どうやら加減したらしい。


「本気を出すまでもないな……マシェル、力を得てもその程度だったということだ。ま、戦法もまずかったが」


 倒れ伏すマシェルを眺め、フェリアは言う。


「魔法使いである以上、もうちょっと頭を使った戦いならば、勝敗もわからなかっただろう。しかし力を得たことで真正面からの戦いにこだわった……その辺りが敗因だ」


 マシェルは答えない。いや、剣を受け答えられないと言うべきか。


「ともあれそこでしばらく頭を冷やしているといい」


 そう言ってフェリアはロベルド達へ向き直った。


「こちらは終わった、ガドナ、どうする?」

「――仕方がないな」


 呟いた直後、ガドナの魔力に変化が生じた。


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