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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第五十話 邪神対抗魔法

 俺の魔法が発動した瞬間、最初に変化したのは空気。イザルデもそれを察したらしく、こちらを見て瞠目した。


「何を……!?」


 彼が驚いたのには理由がある。俺が発動した神域魔法は攻撃する用途ではない……それは周辺に拡散する邪神の力を、取り込む役割を持っていた。

 膨大な魔力が俺の魔法と激突した瞬間、一気にこちらへと引き寄せられ闇が白へと変じていく――それはまるで『創神刻』を発動しているかのような光景であり、


「そういうことか……!」

「神域魔法を単なる攻撃手段だと捉えていたのが、最大の敗因だな」


 闇が白へと変わると、それが一挙に粒子へと変じ、俺を取り巻き始める。


「圧倒的な力を持つ邪神に対し、女神はどう応じたか……その策として考えついたのが創神刻だが……それを戦闘に転用したのが、これだ」


 魔力が俺の右腕に宿る。邪神の力を変換した魔力は膨大で、女神の血を持つ俺でなければ間違いなく耐えきれないものだ。


「もうお前の魔法は通用しない……というより、仮にどれだけ闇を発生させようとも、全て俺の血肉となる」

「――力を露出させることは、逆効果というわけか」


 感服した、という様子でイザルデは応じた。


「なるほどな、俺は女神の力に対し知らないことが多々ある……逃げ場がないようここを戦場に選んだが、結果的にここの全てがお前に利することになったか」

「自らの策におぼれたな」


 魔力を収束させ、俺は右手に剣を生み出す。


「勝負を決めよう、イザルデ」

「――ずいぶん余裕が出てきたようだが、これで勝負が決したと考えるのは早計だぞ」


 イザルデが構える……無論、多少相手の力を奪っただけで俺も勝てるとは思っていない。

 ……神域魔法にはまだイザルデが把握していないような効果がある。それをここで見せれば、イザルデ本体との戦いで苦戦は免れないが……やるしか、ないか。


 俺は無言で地を蹴った。背後にいるリュハが息を呑むのが気配でわかる。

 決めにかかる……そう彼女は認識したに違いなく、またイザルデも同様の見解なのか目を細め、魔力を高めた。


 とはいえ、先ほどのように闇を拡散させるようなことはしない。体表面に力を留めることで、こちらに力を奪われないようにしている。

 だがそれは、こちらとしても好都合……! 守護者に指示を送り、黄金を含めた面々が一斉にイザルデへ襲い掛かる!


「この守護者達も、面倒極まりないな」


 嘆息しながらイザルデは呟き――守護者の刃を、受けた。

 けれど背後から迫る黄金の守護者が放った一撃だけは、闇で弾き飛ばす。一番威力があるはずの守護者の攻撃は避け、他はあえて受ける……傷を最小限に留める判断だ。


 だがその挙動は付け入る隙となる――今度は俺が迫る。右腕に生成した剣にさらなる魔力をまとわせ、その体へ斬撃を叩き込むべく肉薄――


「ちっ」


 舌打ち。思い通りに行かずイザルデは苛立っている様子。

 次いで闇を周辺に放ち、まず守護者を吹き飛ばす。俺が魔法により奪うほどの量ではなく、守護者を引きはがし俺を迎え撃つだけの時間稼ぎだった。


 しかし背後にいる黄金の守護者だけは対処できなかった――俺の黄金が斬撃を放ったのは、まったく同時だった。

 イザルデはどう判断したか――背後を捨てた。俺の攻撃を受けるのが一番まずいと考えた。


 そして俺の剣を、イザルデは左腕を盾にして防いだ。途端白と黒の魔力が拡散し、周辺に吹き荒れる。こちらとしては腕を両断する勢いだったが、叶わない。

 同時、黄金の守護者がイザルデの背に剣を、叩き込んだ。ズン、と重い音が響きイザルデの体が大いに揺れたが――耐えきる。


「防御をある程度抜けるが、それでも致命的な打撃にはならない」


 イザルデは語りながら、俺の剣を弾いた。


「上手くやったつもりだろうが、それでも勝つことは――」


 俺はなおも前に出る。さらに黄金の守護者もまたイザルデの背後から迫る。加えて残る守護者もイザルデの横から仕掛ける。

 けれど先ほどとは異なり、イザルデにも余裕があった。闇を発し、その狙いは守護者。


 さっきのような全てを包み込むようなものではなかった。それは闇の矢とでも言うべきもので――必要最小限の闇が守護者を射抜く。

 左右から迫る者に対しては数本。そして背後の黄金には十数本――闇は守護者達の体に突き刺さるどころか貫通し、全ての守護者は機能を停止した。


「万事休す、だな」

「どうかな」


 俺は単独で突っ走る。執拗に追いすがる俺をイザルデはどう解釈したか。


「……まだ手はあるのか?」


 問い掛けにこちらは応じず、剣を振る。もう守護者は全て消え去り、残っているのはイザルデから奪った魔力で作り上げた剣のみ。まさかこの剣を作るために策を用いたのか……イザルデは目を細め迫る俺を見据える。どんな手を打ってくるか……それを見極めようとしている。

 しかしそれは無意味だ……なぜならこれはわかっていても防ぐことはできないから。


 剣が再びイザルデの腕に激突する。そこで俺は神域魔法を発動させた。

 刀身を介し魔法が放たれる――ただそれは、イザルデを直接攻撃するものとは違っていた。


「――これは……!」

「気付いたか、イザルデ」


 イザルデから奪った魔力……それを基にして、さらに強力な神域魔法を扱える。それこそ、邪神の力を持つ相手から直接力を奪う魔法――

 刹那、魔法がイザルデの魔力を奪いにかかった。けれど相手もそれに抵抗し、一時せめぎ合いとなる。


「ずいぶんと、小癪な真似を……!」


 イザルデは吠えながら、抵抗するが……やがてこちらの魔法が優勢だと直感したか、笑みを浮かべた。


「――やはり、セレス。お前が最大の障害になるか」

「お前の野望は、俺が止める」


 言葉と同時、イザルデは醜悪な――前世では想像もできなかった笑みがこぼれた。


「手の内を明かした……お前に俺を止めることができるのか?」

「やってみせるさ。お前の全てを封じ、邪神を必ず、消し去ってみせる」

「いいだろう。ならば来るがいい――俺の城へ」


 魔力を吸われ、分身が力を失っていく――そしてこちらの斬撃を防御する力も弱まり、俺は腕を弾きイザルデの体へ、斬撃を叩き込んだ。

 弾ける邪神の力と、それを相殺する女神の力……イザルデの体は一瞬のうちに消え、圧倒的な気配が遺跡前から完全に消え去った。


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