第四十話 闇の中の戦い
窓を開け、俺達は空中に身を躍らせる。こっちの魔法で上手く調整して着地すると、周囲の人影が騒ぎ始めた。
「逃げたぞ! 殺せ!」
物騒な言葉を投げかけてくるので、まずは黙らせる――右手をかざし魔法発動。さすがに神域魔法を全開で使うような真似はしないが。
魔法は自分達を中心に、円形に衝撃波を放出するもの。刹那、目の前が真っ白に染まる。闇夜の中で発される光――周囲の人影はこちらに襲い掛かろうとしていたため、避けることができずこっちの魔法をまともに受ける。
結果どうなったかというと……全員気絶した。
「この魔法で倒せるくらいだから、強くはないな」
「モルバーが雇った傭兵といったところでしょうか」
キャシーが口を開く。
「配下の幻魔ではないでしょうし」
「そうだな……なぜ俺達のことを把握しているのか気になるが、とにかく今は町から離れないと」
周囲では何やらザワザワし始めている。視界には映らないがまだ似たような傭兵がいるみたいだ。
「その行き先……答えは、一つですね」
キャシーがふいに発言した。言いたいことはわかる、のだが……。
「このままモルバーの屋敷へ直行ってことか?」
「他に選択肢はないでしょう。ここで騒ぎを起こしている以上、この町へはモルバーをどうにかしなければ入れなくなりますし……それに私達の素性がわかっているのなら、領地全てで私達のことを追おうとすることだってあり得ます」
……それだけの権力を持っている存在だからな。
「わかった……リュハ、いいか?」
「うん」
正直、彼女を同行させたくないが……周りが敵しかいない状況だ。それもやむなしか。
「それじゃあ、案内は――」
「大丈夫、任せてください」
自信ありげにキャシーは語る……とにかくやるしかない。
俺は彼女の先導に従い町を走り出す。リュハの動きに合わせたものなのでやや遅いが……その間に迫ってくる傭兵。とはいえ俺達の敵ではなく、魔法などで容易に対処できた。
「彼らでどうにかできるとは思っていないはずです」
そうキャシーは俺達へ語る。
「傭兵は単なる牽制役……屋敷へ引き込むために仕込んだものでしょう」
「そうすると俺達は敵が満載の陣中へ自ら向かっていることになるけど……」
「しかしだからといって、彼の領地から離れるのは意味がない」
確かに。どちらにせよ領地に入った時点でこういう目に遭っていた……ならば早々に決着をつけるべき。
ただ、この時点で俺達の素性がバレているとなると……モルバーが手を結んでいる可能性のあるイザルデにも伝わっている可能性は高いな。ただロベルドが生存していることなど核心的な情報を得るには至っていないと思うが、こっちが色々と裏工作をしていることは認識するはず。
その辺り、モルバーを倒したらどう応じるべきか……考えている間に俺達は町を出る。
そこで見えたのは、魔獣……それも街道にかなりの数がいる。
「絶対俺達が目的だな」
「そのようですね……押し通ります!」
キャシーが大剣を抜く。俺も腰にある剣を抜き、戦闘開始。
魔獣の見た目は犬や猫といった動物が多い――といってもその大きさはそれこそ虎とかくらいはある。さらに人型も混ざっている。中には武器を模した物を持っている魔獣もいた。
面倒だしここで引っ掛かっていては後方から傭兵達が来るだろう。俺の魔法でどうにかできるが、立ち止まっていてはさらに援軍がくる。さっさと突破するに限る。
俺の考えに呼応するようにキャシーは魔獣を素早い動きで薙いだ。それによってあっさりと消滅し、
「こちらです!」
彼女は叫び進む。モルバーの屋敷へ向かう道を切り開く……それ以外は無視といったところか。
魔獣についてはどこまでも追ってくる可能性は高いし、道々処理しなければならないと思うけど……俺は手近に迫っていた魔獣に一閃。撃破する。
リュハも魔法を使い対処している――彼女でも仕留められるくらいの力。うん、怪我などすることはなさそうだ。
よって、俺達は屋敷への道へ進む……そこは森の中を突っ切るような道であり、当然ながら森から気配を感じ取る。
「とはいえ、行くしかないか……!」
声を発し、さらに突き進む。背後からの魔獣はリュハが対応し、前方はキャシー。そして俺は左右と役割分担ができつつあった。
魔獣の中に強い個体などがいると面倒になるんだが……幸いそういうこともなかった。モルバーはわざとやっているのか、それともこういう魔獣しか作ったり集めたりすることができなかったのか。
「ひとまず、屋敷までは問題ないようですね」
キャシーは剣を振りながら俺へ語る。
「こうやって無理矢理私達を誘ったのは、こちらの能力を推し量るといった目的だってあるかもしれません」
「戦力分析か……とはいえ、傭兵や魔獣の能力がお粗末だけど」
「魔獣を一蹴できるだけの力を持っている、という判断にはなるでしょう。それによってモルバーがどう考えるのかわかりませんが」
「下手すると、逃げられるか?」
「さすがにそれはないでしょう」
キャシーは返答しながらまた魔獣を斬る……改めて思うが、彼女もまた相当な実力者だな。
そうこうするうちに、とうとう森の中を抜けた。その先にあったのはずいぶんと大きな屋敷。暗くてよくわからないのだが、屋敷の外観は赤色だとキャシーから聞かされていた。
「屋敷周辺に……魔獣はいませんね」
彼女は呟く。気付けば追っ手はいなくなり、魔獣すら出現しなくなった。屋敷周辺は静寂に包まれ、これまでのことがまるで嘘であるかのような雰囲気。
ただ、目の前に広がる屋敷……そこから明らかにこちらを挑発するような魔力が発せられている。俺達のことは歓迎しよう、とでもいうのか。
「……不気味極まりないが、行くしかないな」
歩き出す。俺はリュハとキャシーに細心の注意を払いながら、門を抜け玄関扉を開けた。
外から中を覗き見ると、歩くには最低限の明かりがあるくらいで、人気はない。なおかつ中も外観と同様、赤に染まっているようだ。
そして絨毯の一部分が赤く光り、廊下へ続いている……この光の先へ進めってことか?
「……罠があるような気配はないですね」
キャシーが言う。もし罠があるとすれば、魔法を用いたものだろう。彼女もそう思い目を凝らしてみたが、成果はなかったようだ。
俺も少し意識してみる。魔力精査を使えば罠などがあっても発見できる……が、それらしいものは見当たらない。
「どうやら、何事もなく領主の所までたどり着けるみたいだな」
どういう意図があるのか。まあ相手から先に仕掛けてきたのだから、いい内容ではないはずだが。
「キャシーさん、進もう」
「……ええ」
頷き光に従い屋敷の中へ。扉が閉まり、俺達はひたすら進む。
魔力精査で何かないか探ってみるが、やはり異常はなし……こうなると俺達としては非常に楽だ。今晩中に片が付きそうな雰囲気。
やがて俺達の前に大扉が。ここが領主の部屋なのだろうと推測し、キャシーが先頭で扉を開ける。
中は……ずいぶんと広いダンスホールのような空間だった。その中央に、
「ようこそ、客人達」
男性が俺達に笑いかけ、挨拶を行った。




