第三十七話 作戦会議
「さて、話を聞こうじゃないか」
いの一番にフェリアは告げる――ロベルドとの戦いから一夜明け、屋敷の一室で話を始めた。
この場にいるのは俺とリュハ、ロベルドにフェリアだけ。他の面々は屋敷の修繕作業などをしてもらっている。まあ従えた幻魔は不満もあったみたいだけど……元々彼らが壊したのだ。それを思えば作業するのは当然の話だ。
「ロベルドから、あんたのいた遺跡については聞いた」
そう前置きをする――俺としてはロベルドだけに真実を伝えるべきと思ったのだが、彼の判断でフェリアに伝えたらしい。
ただその判断は懸命か……世話になる以上、俺達には話す義務もある。もしかするとリュハ絡みで何かあるかもしれないから。
こっちとしても、邪神の力と関わりがあるであろう幻魔――敵であるイザルデの情報は欲しい。交換条件を提示すれば、ロベルド達はすんなり情報を提供してくれるだろう。
「……リュハ」
「うん」
頷く彼女。隣に座るリュハは神妙な面持ち。
同意は得たので、俺は話し始める……たださすがに自分が描いていた小説の世界とは言わなかった。ひとまず「女神の子」である事実から、預言的な力がある……そう説明した。
ロベルドやフェリアは、こちらが話す間はじっと聞き入っていた。笑い飛ばすようなこともせず、真剣に俺の話に耳を傾けてくれている。
そうして語っていくのは、リュハの中に眠る邪神について。
「――女神の力を持つ俺は、邪神を滅するために動かなきゃいけない。そのためには『創神刻』……それを実行する必要がある。フェリアさんに幻魔イザルデとの戦いで条件を提示したのは、この辺りが関係してる」
……フェリアにも砕けた口調で話をする。彼女によると「ロベルドさえも止めた存在である以上、遠慮はいらない」とのこと。幻魔全てがどうかはわからないけれど、彼女はどうも実力で上下関係を決めるようだ。
「ふむふむ、事情はある程度わかった」
そうして一連の話を終えると、フェリアはそう呟いた。
「邪神か……彼女の体の中に宿っていると言われてもピンとは来ないが、信用はするぞ」
「ありがとう」
「当面の問題は『創神刻』を扱えるだけの魔力が備わっている場所か……ロベルドが来る前に語っていた交換条件の部分だな。うむ、これは候補はあるぞ」
「本当か?」
「ああ。ただし」
と、フェリアは意味深な笑みを浮かべた。
「その場所は……イザルデの住んでいる洞窟だ」
「あー、そういうことか……」
「当たり前だが、そこで『創神刻』を使おうにもイザルデ達が邪魔である以上、彼らを排除する必要がある」
「戦闘は避けられない、と」
「どちらにせよ、相手にするのだろう?」
フェリアの質問は俺はにべもなく頷いた。
「ああ。邪神絡みだからな」
「いいだろう、ならばしっかりと働いてもらうぞ」
とことん俺を使う気らしい……が、リュハのことに関わる部分だ。こちらとしては積極的に介入しようとは思う。
「わかったけど……戦いに勝つために、具体的にどう戦うんだ?」
「まずは敵の戦力を削る。イザルデは配下が多いからな」
ロベルトが言う。
「戦力的にもこちらが不利。よってまずその状況を覆す」
「理想的なのは、セレスが行使する幻魔を操る能力を駆使し、味方に引き入れることだな」
フェリアが口添え。ロベルドは「そうだな」と小さく同意し、
「現在私がこうして正気に戻ったことなどについてはイザルデにバレている可能性は低い。無論相手の動向を観察する必要があるが、そこは大丈夫だろう」
「裏切り者二名についても同じ?」
「ああ、おそらく」
情報が漏れていないのなら、ドンドン味方にしてもいいか……ただその過程で間違いなく敵にバレる。そうなったらそうなったで協議すればいいか。
「早急に解決すべき問題は三つだ」
そうロベルドは語り出す。
「一つは、私のように敵に支配されてしまった仲間の解放」
「他にもいるのか」
「そうだ。魔女マシェルと戦士ガドナ」
「敵にしたら厄介だねえ」
フェリアがコメントする。彼女がそう語るのだから、非常にまずい状況なのだろう。
「うむ、その両者をセレスの力で味方に加える……その過程で本来なら敵に動向がバレてしまうだろう。ただし上手くやれば、その限りではない」
「この辺りは、私の出番だね」
フェリスが言う。出番とは――
「ロベルドを含め、今回襲撃してきた幻魔については、片付けた……死亡扱いにする。ただロベルドについてはそういう説明は難しいだろうから、戦いの中で偶然正気を取り戻し、戦わず行方不明になった……そういう風にするべきだろうね」
「ああ、そこについては私も賛成だ」
ロベルドも同意。
「というわけでフェリア、情報工作を頼む」
「ああ、任せておけ……と、だがロベルド」
「ああ。ただし問題二つ目。ここの守りをどうするべきか」
「情報工作をする場合は、どうしたって手薄になるから……ま、ロベルド、あんたが頑張ればなんとかなる」
「ずいぶんと適当だな……まあいい。では三つ目の問題」
「西のモルバーね」
――幻魔の名前か? 疑問に思っていると、ロベルドから返答が来た。
「ここから北西に、フェリアと同じように国に認められ領土を保有する存在がいる。その名がモルバーであり、またイザルデと密かに協力しているのでは……という可能性が浮上している」
なるほど、フェリア達にしてみれば下手すると挟み撃ちみたいになってしまうのか。
「操られてしまった仲間の解放、屋敷の守り、そしてモルバーという領主……この三つをクリアできなければ、イザルデの軍団に追い込まれてしまうだろう」
――俺が出張れば解決できそうだが、あいにく体は一つ。例えば領主について会いにくけば、他の二つは対処できなくなるかもしれない。
ただこれは同時進行だった場合の話。
「……全部同時に片付ける必要はないんだろ?」
「そうだな。モルバーと操られた仲間についてはセレスの力がなければどうしようもない。よって、まずは――」
「モルバーだな」
フェリアが断定。ならばと、俺は提案する。
「場所さえ教えてくれれば、そのモルバーの所へ向かって作戦を遂行してみせるよ」
「頼もしい限りだな」
よって、作戦は決した。フェリアが言葉を紡ぐ。
「まずはモルバーの対処。次いで私が情報工作を行い、敵をごまかす。ま、私もロベルド同様当面外に出ない方がいいな。ただロベルド、あんたにはここで色々動いてもらうから、覚悟しておくように」
「わかっているさ……それでセレス、リュハはどうする?」
「色々考えたけれど、結論は一つだ」
俺はリュハを一瞥し、
「邪神のこともある……俺としては全てが終わるまで、あまり離れたくはない」
「セレス……」
「別に迷惑って話じゃないから安心してくれ。リュハの内に眠る邪神は意思を持っているし、俺が離れれば悪さをする可能性だって考えられるから」
「護衛くらいはつけるさ」
そうフェリアは言った。
「セレスには大役を担ってもらうわけだから、こっちとしてもしっかり援護はする」
「頼むよ……一つ確認だけど、イザルデと戦う場合、俺がその幻魔と戦う……ってことで、いいんだよな?」
「そういう形になる。セレスには最初から最後まで申し訳ないが」
「平気だ。全ては邪神を滅するため……頑張るよ」
そう笑みで応じ――作戦会議は終了した。




