第三十一話 倒すべき相手
現状、俺は神域魔法を習得し、あとは『創神刻』を使うための準備を始める段階。『創神刻』を使うための武具を得ることはおそらくそう難しくはないし、残る問題は魔法を使う土地。これについては多少なりとも探す必要性があるのだが、幻魔に協力を願えばすんなり見つかる可能性はある。
ただしその場合もっともらしい理由を語らなければならないだろう。さすがにリュハの体に邪神そのものが封じられているなどという理由を真っ正直に語るのは危険。かといって理由もなく魔力の多大な土地を探すなんて怪しまれる。事情を伝えるにしてもロベルドのように信頼できる幻魔でなければならない。
その過程で幻魔と深く関わることはいいのか悪いのか……リュハのことを詳しく語らなければ問題ないか? 俺の考えすぎだろうか?
「何か気になることがあるようだな」
態度には出していないのだが、めざとくフェリアが声を上げる。
「当てて見せようか?」
「え?」
「ロベルドから聞いた内容としては、どこぞの遺跡に潜って修行していたと」
「はい、そうですね」
「その過程で隣の女性、リュハと出会った。気になることとしては彼女絡み……そうだな、幻魔と切っても切れぬ関係、とかだろうか? とある幻魔に対し目をつけられているとか、そういうことか?」
……ハズレではあるのだが、ここは話を合わせた方が無難だろうな。
さすがに邪神のことを公にするつもりはない……が、ある程度幻魔と協力を得る必要があるのも事実。
身の振り方についてどうするかはまず幻魔の状況を確認してからでも遅くはない。
とはいえ幻魔同士の戦いについても気になるな……沈黙していると、
「さすがに首を突っ込みたくはないか?」
「……ロベルドさんが関わっているかもしれない案件です。俺としては事情くらいは聞きたいとは思ってます」
「ふむ、そうだな……と、それを尋ねるなら彼の方がいいな」
フェリアは敵だったリイドに首を向けた。言われてみればそうだ。
「リイド、質問いいか?」
「ああ」
視線すらこちらに向けないままぶっきらぼうに答える。俺の支配能力が効いているわけだが、不服なのは仕方がない。さすがに俺も「常に笑っていろ」と指示するのも嫌だし。
「まず今回において俺達の敵……それを教えてくれ。リイドが仕えていた存在と同一か?」
「そうだ。名はイザルデ=エージェア}
「そいつこそ、今回幻魔同士の戦いを引き起こした存在だ」
フェリアが捕捉。ふむ、それなら――
「そいつを支配すれば俺達の勝ち?」
「いや、さすがにそれは無理だろう」
と、彼女が返答。支配できないってことか?
「仮に成功しても支配を解除する術を用意していると解釈していい」
「……警戒されているってことですか?」
「陛下も同じ能力を保有していたからな。例えば陛下が亡くなった現状でもそうした能力を引き継いでいる幻魔がいるかもしれないだろ? だからこそ対応策を準備していると容易に想像できる」
そこまで語るとフェリアは肩をすくめる。
「ま、根本的な話、幻魔を相当混乱させているヤツを許すことはできない。例え支配できようとも、ヤツに与えられた結末は、死だ。だからこそ相手も全力でこちらを潰そうとする」
「……その戦いで、フェリアさんはどういう立ち位置なんですか?」
「後方支援だな。ロベルド達に必要物資などを提供している」
「だからこそ、目をつけられたと」
「私達をつぶし補給を断つつもりだったようだな……さて、セレス君」
フェリアはこちらを窺うような視線。交渉するつもりらしい。
「幻魔の王の血筋に加え、どうやら君はまだ力を持っているようだ……それを見込んで頼みがある」
「協力してくれ、と?」
「報酬は望むままに用意しよう」
――これだなと、俺は胸中で確信する。
「わかりました」
「あっさりだな」
「ただし報酬は高くつきますよ」
「何でも言ってくれ」
「理由は話せませんが……俺達の旅の目的を果たすために、大規模な魔法を構築できる土地が必要なんです」
「土地?」
「はい。大地の力を借りながら発する極大魔法……それを利用できる土地を探している」
「理由は気になるが……少なくとも、幻魔の秩序を脅かすような話ではないのだな?」
「それは断言できます。理由は語れないから信じてもらうしかありませんが……」
「ふむ、わかった。いいだろう」
あっさりと承諾。大丈夫なのかと疑問を寄せる前に、彼女が言う。
「これでも私は人を見る目はあると自負している。少なくとも幻魔に危害を加えるような真似はしない……となれば、強力しようじゃないか」
「ありがとうございます」
礼を述べたところでリイドが身じろぎした。窓の外を注視している様を見て、何かあったのかと気に掛かる。
「リイド、どうした?」
「……この屋敷に派遣されたのは、俺だけじゃない」
そう述べた彼は、目を細め窓の外を見据える。
「もし俺が敗れた場合に備え、後詰めの部隊が存在していた」
「それが来たのか?」
「おそらくな。派手に動き回るヤツであるため、近くにいればすぐにわかる」
彼の目は非常に厳しい。
「……下手すると屋敷に突っ込んでくるぞ」
「そんな無謀な相手でも、問題ないようにはなっている」
ここでフェリアが告げる。
「建物に対しては結界を構築しているからな」
「本当ですか?」
「無論だ。屋敷の中にいれば問題はない」
ならば大丈夫か……と思っていた矢先、隣で座るリュハに異変が。
突然両手で自身の肩を抱いた。寒気でもしたのかと問い掛けようとした時、彼女から率先して話し掛けてきた。
「セレス、これ……」
「どうした? 何がある?」
表情からはただ事ではない。彼女がこんな風に口にする以上、考えられることは一つしかない。
すなわち――邪神。
「どうした? 寒いのか?」
フェリアも気付き声を掛ける。こちらは返事をしようとして、その直前、外から雄叫びのようなものが聞こえてきた。
「来たぞ」
リイドの言葉に俺は窓に駆け寄る。真正面、視線の先にいたのは人間離れした巨躯を持つ存在。
俺を倍する身長と数倍以上の体格。人間というより限りなく魔物に近いその存在は、脇目も振らずただ屋敷へ向け驀進する。
「名はブロン。先に言っておくが、あいつに説得や挑発は通用しないぞ」
そう語るリイドは、目を細める。
「命令に従い動くしか能がない存在だ。だがそれだけしかできないにも関わらず信頼されている……標的を撃滅する能力だけは凄まじい」
「はっ、力だけの単純馬鹿か」
窓の外を見据えながらフェリアが告げる。
「あの調子では配下では止められないな。屋敷に激突して止まるだろうから、そこを狙おうじゃないか」
――近づく敵。その時俺は背筋がゾクリとなった。
これは……即座に確信し、俺は口を開く。
「リイド、窓から離れろ」
即座に窓に背を向ける。リュハが怯えた目をして、対するフェリアは結界に自信を持っているのか小首を傾げた。
「セレス、さっきも言ったが――」
ズオッ――背後から魔力を感じた。建物と結界を隔ててなお感じられるそれが異常事態であることを確信させられる。
フェリアも同じだったか瞠目し、リイドが窓から急ぎ離れる。俺はリュハをかばうように立ち――
次の瞬間、幻魔の突撃により凄まじい音が響き、結界と壁が吹き飛んだ。




