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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第二十四話 光と闇

 闇に包まれた瞬間、全力で防御したため体を乗っ取られることはなかった。しかし俺の全身には闇が這い回り、いつ何時体を食い破り浸食してくるかわからない。

 周囲は闇。明かり一つないため自分の姿すら見ることができない。その中で俺は冷静になるよう自分に言い聞かせる。


 少なくとも、体を乗っ取ろうとしている以上は俺を殺そうとするつもりはないのだろう。だからといって安心はできないが。


『進退窮まったかしら?』


 闇の外側から邪神の声がする。それに対し俺は――


「いや、まだだ」

『そう? なら少しは抵抗してみなさい。できるものなら』


 挑発的な言動。俺は呼吸を整え、


「――なら、これで終わりにしよう」


 宣言。同時、体の奥底から魔力を引き上げた。


 強大な邪神に打ち勝つためには、今の俺には足りないものが多い……だが、先ほどの攻防で現在の俺でも対抗できる威力を出すことができるのはわかった。

 そして、このまま戦い続けていれば魔力量において不利になるのも理解できる。そもそも攻防を続けてリュハの体が耐えられるか……できるだけ早く彼女を救うために、俺が思い浮かんだ方法は一つしかない。


 渦を巻く漆黒の中で、俺は体から引き出した魔力で自分の身を包む。魔力の大部分は体の表層で滞留し、今か今かと攻撃する態勢を整える。


『ひどくシンプルね』


 すると邪神が声を発した。俺が何をするのかわかったようだ。

 それでも俺は構わず闇がとどろく中で佇む……闇が俺を食らいつこうとすれば即座に反撃に転じ状況打開を図るつもりだが、どうやら相手はそれを読んでいるらしい。


 なら――正面突破だ。

 魔力解放。闇の中で白い光が生まれ、全身を包んでいく。


 ――体全てを魔法に変えるとでも言うべきか。俺自身が巨大な光弾と化し、邪神を押し潰す……今からやるのはそういう手法だ。

 生半可な手立てでは倒せない。俺が現在使える技法の中で、もっとも威力のある技術がこれ――失敗すれば後がない。それどころか魔力も枯渇し、おそらく体さえも乗っ取られる。


 しかし勝つには……これしかない!


「おああああっ!」


 絶叫。体に白い光が炎のようにまとわりつき、渦を巻く闇へ体当たりを仕掛ける。目標は闇の奥にいる邪神。魔力精査を継続しているため位置はわかる。

 突撃し、闇と接触。ぶち抜くべくさらに力を入れる!


 勝負は一瞬。闇はあっさりとはがれその奥の景色を映し出す。前方に見えたのは既に迎撃態勢を整えた邪神。腕だけでなく顔すら黒へ染まり、右目に当たる部分だけが赤く輝いている。


『来なさい。全力でも私に勝てないって、証明してあげるわ』


 光弾と化した俺の体当たりが、邪神へ入る。その瞬間魔力の全てを相手へ流し、邪神を打ち破ろうと殺到する。

 邪神はもう表情すらわからない。だが防御に発した魔力量はそれほど多くはなく、俺の力ならば易々とつぶせそうだった。


 それと同時、俺は察する。防御――ではなく、俺をはじき返そうと攻撃を放とうとしている。


『終わりよ』


 宣言と同時、その両腕から闇が発せられ、俺の胸へ触れた。

 来る――矢先、闇が邪神の手先から溢れ、またも俺を取り囲もうと取り巻き始める。


 ――ここで退けば間違いなく攻撃の手立てを失う。だからこそ、俺はさらに踏み込むべく足を前に出す。


「……まだだ……!」


 体の奥底から魔力を絞り出せ。今この一時、邪神に対抗できるだけの力を引き出せ!

 人間、幻魔、女神なんでもいい。あらゆる力をかき集め、その全てを邪神へ注げ!


 咆哮と共に発せられた俺の体当たりは、徐々に取り囲む闇を消していく。これには邪神も予想外だったか、一瞬どうするか躊躇する。

 その隙を、俺は逃さなかった。半ば暴走する力の中で腕を伸ばす。そしてどうやら体に触れた。


 瞬間、絶叫と共にありったけの魔力を放出。闇が消え失せ、視界全てが白く染まる。

 濁流と化した魔力の中で、俺は祈るような気持ちで魔力を発し続ける。自分の体から魔力が抜けボロボロになっていく感覚。だが構わない……リュハ――


 やがて光が消え始める。視界が明瞭になり、手の感触も戻ってきた。


 俺の右手はリュハの首下に当たっていた。漆黒は消え、俺の目からは邪神がいなくなったように感じられる。

 そして俯く彼女。動かないところから、どうやら敵意はないようで、


「……リュハ?」


 顔を上げる彼女。その瞳には困惑と、安堵のようなものが見え隠れしていた。


「戻ったんだな?」


 コクリと頷く。それと同時に、俺は全身から力を抜いてへたり込んだ。


「セ、セレス!?」

「いや、本当に良かった」



 体の底から魔力を引き出したせいか、体力も相当減っている。そのまま大の字に寝転がり、大きく息を吐いた。


「邪神を倒した……いや、リュハの体の中にある邪神の核は消えていないから、弱体化して奥に引っ込んだってことか」

「セレス……ごめんなさい」


 傍に座り、彼女は言う。だが俺は首を左右に振った。


「リュハのせいじゃないって」

「でも、私がしっかりしていなかったから――」

「しっかりしていようが、邪神が相手なんだ。どうしようもなかったさ」


 上体を起こす。一度深呼吸をしてから、さらに述べる。


「成長するに従い、邪神も目覚めたってことなのかもしれない。完全に解決するにはやっぱり『創神刻』しかなさそうだな」

「あの、私……」

「気を落とす必要はないよ。仮にリュハがずっと封印されていようと、邪神はいつか目覚めていた。こうして対処できる俺が近くにいた……それは幸運なことだったと思うよ」


 そうとも――俺は邪神を打ち破ることができると証明できた。無論、リュハを依り代としていた邪神も力は完全ではなかったはず。だから弱体化し奥に引っ込んでいる間に、決着をつけるべきだ。


「どうにか邪神を押し込めることができた。ここからは『創神刻』を行うことができる道具集めと土地探し。そして何より、その場所にリュハが行けるよう遺跡の結界を解かないと」


 そう言って、俺はリュハの頭を撫でた。


「リュハのせいじゃないからな」

「ありがとう、セレス」


 泣きそうな彼女に笑みで応じる――新たな目標は定まった。とはいえやることはこれまでとそう変わらない。

 さらに現段階で結界を解く方法など、ある程度解明されつつあるのも事実。そう遠くないうちに遺跡から出られるだろう。


「――俺の書いた物語では、いずれリュハは邪神として世界に降臨する」


 その言葉にリュハは硬い表情となる。


「防ぐにはいくつかやり方があるが……俺は一つ思いついている」

「それは……?」

「この世界にも邪神は残した力を利用し悪さをしようとする輩がいるんだ。俺の小説通りなら、そいつが動き出すのは今から一年以上後になる」

「一年以上?」

「小説はセレスが騎士学校に入ってからスタートする。で、俺は傭兵稼業やっているところを見込まれて入ったから編入生だ。年齢は……十六」


 リュハはじっと俺を見据える。何が言いたいのかわかったようだ。


「あと少しで結界のことや、神域魔法についておおよそ解決する。そこからすぐに行動を開始すれば、敵が動き出すよりも前に対処できる」

「敵は、何をするの?」

「大陸の中西部にある山脈の中に、女神の力を封印した遺跡が存在する。敵は邪神に関する武具を得ようと動いているけど、邪神と女神の遺跡は情報が少なすぎて区別できない。そして」


 と、俺は一度言葉を切り、


「その遺跡にある武具こそ、『創神刻』を行うのに必要不可欠な物だ。そうだとわかった敵は、武具を破壊する」

「その前に、セレスが行って手に入れると?」

「そういうこと。あとは『創神刻』が行える土地を探す……これはロベルドさん辺りと再会して調べてもらえばいいかな。武具が手に入ったらあとはこっちのものだ。そう心配する必要はない」


 つまり、今から俺がやることは――


「自らの手で作った物語を、自分の手で叩き壊す。それこそ俺が成すべきことだ」


 邪神がいずれ復活してしまうのなら――それに首謀者がいるのなら、打ち倒せばいい。あるいは敵が邪神の力をつかむ前に、そうした邪神の残した道具などを予め破壊しておけばいい。

 それと共にリュハの内に眠る邪神を消す――この二つをやれば、晴れて世界の脅威は消え去る。


「リュハ、いいな?」

「……うん」


 俺の言葉に従い頷く彼女――こうして新たな目標を携え、強くなる日々が始まった。


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