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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第十九話 別れの時

 俺にとって、最高の剣戟――それにより目の前が真っ白になる寸前見えたものは、ロベルドが驚き吹き飛んでいく姿だった。


 ゴアッ――砂に何かが激突し、俺の周囲に砂塵が舞う。


 これで終わりだとは思っていない。光が消え周囲は砂煙によって覆われている。ここでいつ何時大剣が向かってきてもおかしくない。俺はすかさず後退し、ロベルドの姿が確認できるのを待つことにした。

 やがて……視界が晴れる。ロベルドは座り込み、大剣を砂に突き立て腕を組んでいた。戦う意思はない様子だが――


「……なるほど、非常に面白い」


 言いながら立ち上がる。最後の剣戟が相当な力を乗せたはずだが、鎧は砕けてもいない。相当な量だったが、それでも防ぎきったか。


「今の攻防、セレスの勝ちだな」

「……手傷を負わせていないのだから、勝ちではないんじゃないの?」

「いいや、衝撃は抜けたぞ。全身が多少なりともしびれている」


 思わぬ発言。ただ彼の話には続きがあった。


「とはいえ戦闘に支障が出るほどではないな。先ほどの猛攻、長くは続かなかったはずだ。同じ事を繰り返そうとも今度は体力も尽き、反撃していたはず」


 ……別にカチンと来たわけではなかったが、今日ばかりは少し反撃したくなった。


「いや、ロベルドさんは気付いていないけど実はまだまだ魔力は温存している。今のが通用しなかったらさらに出力を上げていただけだ」

「ほう? 私も今以上の力で防ぐことはできるぞ?」

「ロベルドさん、俺にも手があるんだぞ?」

「こちらにもセレスに見せていない技法は腐るほどあるぞ?」


 傍からすれば子供の喧嘩かと思うほどだ。遺跡の入口で観戦するリュハは唐突な言い合いにポカンとなっている。

 ここで俺とロベルドは視線を重ね……やがて、笑い始めた。


 砂漠に声が響く――それがひとしきり終わると、ロベルドが口を開いた。


「……セレス、もうどうこう言う必要もないな」

「ロベルドさん……」

「砂竜について気掛かりだが、それについてはさっきも言ったとおり結界がある。セレス自身も何やら考えがある様子だが……任せよう」


 彼はここで地面に突き立てた大剣を握った。


「ここを離れなければならない……セレス、リュハについて心残りだが――」

「大丈夫」


 その言葉は、多大な自信を含んでいた。


「俺に任せてくれ」

「……わかった、信じよう」


 頷いたロベルドは、大剣を背負い俺に背を向けた。


「では、もう行くとしよう」

「もう? 決闘やったくらいだし、せめて今日くらいは――」

「移動する分には不自由ないから問題ない。相手はすぐにでもという雰囲気だったし、できるだけ早く戻ろうと思っているからな」


 あまりにもあっさりとした別れ……リュハはちょっとオロオロし始め、俺は――


「ロベルドさん!」


 叫ぶ。彼は一度立ち止まり、


「今まで……小さい頃からありがとう! 本当に――」

「こちらはきっかけを与えただけだ。その力を己が手に宿したのは、お前自身だ……セレス、強くなれ。自らが望むままに力をつけ、欲するものをつかめ」


 振り返らずそう言うと、再び歩き出した。

 そしてもう振り返らなかった。俺とリュハは彼の姿を見えなくなるまで凝視し続け……、


「セレス、いっちゃったね」


 リュハの言葉。俺は深く頷き、地面に座り込んだ。


「……ロベルドさん」


 ずっと一緒にいた。別れがあまりにも急で感慨も湧かないけど……ただ、いずれまた彼とは再会するだろう。

 それは物語の中でか、もしくはそれより前か……俺がこの遺跡に来た時点で物語とは大きく流れが変わっている。だからもしかすると――


「再会した時、もっと強くなっているよ……ロベルドさんを超えるくらいに」


 彼が去った場所を眺めながら、俺はポツリと呟いた。






 遺跡でついに俺とリュハの二人きりとなってしまったわけだが……より正確に言うならロベルドが残したしもべもいる。黒い大型の犬で、少し調べるとこの犬を通して色々できることがわかった。

 それからしばらくは修練の日々が続いた。とはいえ当然食料などがなくなり買い出しに行かなければならない。


 お金については困ることはないのだが、問題はリュハについて……ということで、


「よし、これでいいかな」


 犬に色々と仕込みの魔法を使い終えた。隣にいるリュハは、小首を傾げ俺に問い掛ける。


「何をしているの?」

「ロベルドさんが残したしもべに、会話する魔法を付与したんだよ」

「会話?」

「ほら、俺は買い出しに行かないといけないだろ?」


 その意見に、リュハはピクンと一度体が跳ねた。


「さすがに数日一人で待てというのもキツイだろうし……だからしもべを通して魔法で会話できた方が――」

「そ、そうだよね」


 あ、目が泳ぎ始めた。何考えているかわかるぞ。


「……言っておくが、絶対きちんと帰ってくるからな。それは信じてくれよ」

「う、うん」


 頷くリュハ。ただ俺がいなくなることは生死に直結する以上、不安がるのは仕方のない話ではある。

 俺はロベルドの言葉を思い出す。別れる際にメモをもらった。そこにはもし何かあったら町にいるある所に頼れと書かれていた。


 そこはどうやら店。挨拶しに行きがてら、物資の調達へ行くとしよう。俺は砂竜の革などを入れたリュックを背負い、


「そういうわけで、行ってくるよ」

「気をつけてね」


 元気よく手を振るリュハ……なんとなくが空元気だとわかるけど、だからといって買い出しをやめるわけにはいかない。


 俺は両足に魔力を集め、高速で駆ける。ロベルドがいなくなってから、修練については移動速度を高めることを優先した。女神の魔力を扱える俺は、ともすればロベルドよりも速く駆けることができる。持久力が最大の難関だったが、それもまた女神の力を修練したことで気付かぬうちに上がっていた。


 この調子なら、思った以上に早く往復できるかも……そう考えながら、俺はこれからのことを思案する。


 ロベルドが残してくれたしもべにより、俺にもしものことがあってもひとまず大丈夫そうだ。ただ現時点で彼女の存在を広めるのはできるだけ避けたいところ……とにかくリュハの存在は危険すぎる。それに遺跡が公になればどうなるか――もし公にするなら、邪神を抱える彼女について、俺が神域魔法で制御できるようにしてからの方がいい。


「今はとにかく、リュハの邪神を抑えることか……」


 全てはそこからだ――そう心の中で呟きながら、ひたすら足を動かし続ける。

 その道中で俺はしもべを通しリュハと会話を試みる。


「リュハ、聞こえる?」

『うん、聞こえるよ』


 彼女の声が頭に中に響く。


「よし、とりあえず成功だな。状況は逐一伝えるのと、もし何かあったらすぐに報告するように」

『わかった』


 ……遺跡の外に出ても、こうして彼女とつながっている。なんだか奇妙な気分だ。


『……セレス』


 ふいに彼女から言葉が。こちらが「どうした」と応じたのだが、彼女は沈黙し、


『ううん、ごめん……大丈夫』

「何かあれば言ってくれ」

『その、本当に大丈夫だから』


 不安になるような言葉。こうして会話していてもやっぱり不安なのだろうか。

 ともあれ、少しでも早く買い出しを終えたいな……そう胸中で呟きながら、俺は砂漠を駆け続けた。


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