表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/73

第十六話 邪神を滅する手段

 修行開始当初はあまり感じることのなかったが、次第に慣れてくると神域魔法を使うための魔力精査が、どれだけ恐ろしい性能なのか――二年経過し、思い知った。


「さて、と」


 呟き、俺は眼前に存在する砂竜を見据える――太陽の下、砂を巻き上げ迫るその姿に対し、俺は左腕をかざした。


「精査」


 一言。それと共に魔力をわずかに発せられ、次の瞬間砂竜がまとう魔力の多寡を即座に把握する。


 それは頭部、体、尾の部分に至るまで全てどういう量の魔力がどの程度存在しているのか……そしてどの部位に力が集まっているのかを明確に理解できる。今砂竜は頭部に力を集中させている。俺を飲み込もうとしているのもあるが、頭突きでも決めようとしているのかもしれない。

 それに対し俺は、右手に握り締める剣に魔力を注ぐ。過不足なく、必要な分量だけキッチリと……迫り来る砂竜に対し、無造作に薙いだ。


 刀身の刃先が地面に触れ、爆ぜる。地を介すことで大地の魔力を利用した刃を生み出すのだが、それがまともに砂竜に直撃。突進を殺し動きを止めた。

 俺の目には頭部に集中していた力が消え、隙が生まれている――そこへ立て続けに地に剣を走らせ一閃。同じ刃が生まれ、それが砂竜の頭部に当たった。


 魔力を減じていた頭部は耐えることができず――俺の刃により、頭が丸ごと吹き飛んだ。


「……楽勝だな」


 決して油断はできないが、敵の魔力が隅々までわかるというのは相当有利であることが証明された。砂竜という魔獣でさえ攻撃に魔力が伴う。それを察知し、どれだけの力で倒せるのかもわかる。つまり相手を丸裸にできる。


「砂竜も効率よく倒せるようになったし……」


 周囲を見回す。他に二体、瞬殺した砂竜の死体が転がっている。


「よし、今日の修行はこれで終わりだな。剥ぎ取りして帰ろう」


 肉はほとんど食べられないので価値はないが、革などについては武具などに使われるため高値で取引される。ある程度剥ぎ取ったら十分なので、放っておけば別の砂竜がこいつを食べて処理してくれる。

 呟きながら抱えられる量だけの革を得る。そして俺は、帰るべく足に力を入れた。


 跳躍するように砂漠を駆ける。といっても遺跡までそう遠くない。砂丘一つ越えればもう到着だ。

 その道中で一つ考える……遺跡に辿り着いた当初と比べ砂竜を見かけることが多くなった。これはおそらく、


「最初に倒した巨大な砂竜がここを守っていたんだな」


 遺跡周辺は魔力が滞留し、砂竜にとってはいい餌場となっている。何もない砂漠にこんな所がポツンとあったら、人間にしてみればオアシスに辿り着いたも同然。砂竜は我先にと群がるはず。


 だがここには主と呼ぶべき巨大な砂竜がいて、他の竜達が手出しできなかった。しかしロベルドが倒してしまったので、時折来るようになってしまった。一応ロベルドが結界を構築したり、遺跡の魔力を知覚しにくくなるよう魔法を使っているけど……それでもこうして来てしまうわけだ。


 遺跡へ入る。太陽を避けた瞬間、ひんやりとした空気が俺を包んだ。


「リュハ」


 名を呼ぶ。するとタッタッタと駆け足が聞こえ、


「おかえり、セレス」

「ただいま」


 その姿は最初と比べ成長している。背が高くなり……邪神を身に秘めていることから体の成長について何かあるかと思ったが、杞憂だった。


 ――この二年、やることはまったく変わらなかった。強くなるために修練と本を読み漁ることを繰り返す日々。成果は着実に現れているし、邪神に対抗する手段も徐々に構築できている。遺跡の結界についても補強が完了し、


 ひとまず砂竜の革は遺跡の隅に置いておく。見れば戦利品がずいぶんと増えている。換金するより駆除する速度の方が上だからな。


「さて、お昼にしよう」

「用意できてるよ」

「お、そうか……って、あれ? 今日は俺の当番じゃなかった?」

「外で戦っているんだから、私も協力しないと」


 微笑む彼女――二年で彼女も少し変わり、笑うことが多くなった。邪神についてまだ話すことができないため若干陰のある笑顔だけれど……俺は笑みを返す。


「そっか、ありがとう」

「えへへ」


 照れたように声を上げるリュハと共に、遺跡の中央へ。そこにスープが入った鍋があった。


「ロベルドさんはいつ帰ってくるんだろう?」

「出発時間から逆算して今日の夕方くらいには帰ってくるよ」


 今彼はいない。その理由は買い出しである。

 俺が狩った砂竜の革を売り払い、食料や生活雑貨を買ってくる。部屋なども多く地下水も湧いているから遺跡内で暮らす分にはそう不自由ない。


 この二年、充実していた。現在の目標は神の力を確実に扱うことと、彼女をこの遺跡から出す術を解明すること。それにはここに居続けることが一番だ。


「いただきます」

「いただきます」


 俺に続きリュハも言い、鍋を囲み食事を始める。スープを一口すすると、まるで自分で作ったような味と香りが口の中に広がる。


「リュハ、俺が教えたから似たような味付けになるのは仕方がないんだけど、変えてもいいんだぞ?」

「これがいいの」


 固持する彼女。それ以上俺は何も言えず、黙ってスープをすする。

 と、なんだか相手は不安になった様子で……こちらを気にする素振りを見せ、


「味、変えた方がいい?」

「いや、俺もこれでいいよ」


 会話はそれだけ。リュハはそれで納得したのか小さく頷きスープを飲む。雰囲気は悪くない。というか最近の食事はこんな感じである。

 そもそも話のネタとかないからな……などと考える間に食事が終わる。今日ロベルドが帰ってくる。購入してくる食材なども毎回変えていたりもするので、こんな環境だがどんな料理にしようとか悩んでいたりもする。


 さて、腹を満たした後は勉強だ。遺跡奥にある書物を手に取り、ひたすら読み込んでいく。

 相変わらずの古語だが、慣れたこともあって苦もなく読むことができている。リュハはというと、部屋の隅にちょこん座って俺のことを眺めるばかり。


 さすがに追い払うような真似はしない。ちなみに一度同じように本を読むことを薦めてみたのだが、読めるにしろ知識がないため結局放り出してしまった。まあ神が何やらとか邪神がどうとか、そういう堅苦しいものだからな。


 俺が現在読んでいるのは『神域魔法』について。もっとも馬鹿正直にどんな魔法が使えるとか書かれているわけじゃない。ここに記載されているのはあくまで理論。

 砂竜との戦いで色々と検証しているのだが、さすがに二年では完全とまではいかない。けれど女神の血を持つ俺は、理論通りに魔法を組み立てれば容易に扱うことができた……他の人間や幻魔ではこう上手くいかないだろうし、完全に扱えるのはやはり俺だけだろう。


 邪神を抱える少女がいる以上、俺だけしか使えないなんて自体、由々しきことだと捉えてもいいけれど……ここでこれからについて一考する。


 俺自身、前世の無念を晴らすために強くなろうとしている。唯一無二の素質で限界まで強くなってみたいという願望と共に、この世界でこうした力を持つことの意味は何なのか。

 それは間違いなくリュハだろう。けれどすぐさま彼女をどうにかすることはできない。例えば彼女を殺めるだけでは邪神が現出してしまうし、そもそもそんなことをするべきではない。彼女の内に眠る邪神を完全に抹消するには、神の力を完全に制御しなければならない。


 それが『神域魔法』の最高到達点、『創神刻』と呼ばれる技法。邪神を封じるわけではなく、邪神の力そのものを別のもの――神へと変化させる魔法だ。

 太古、この世界には邪神のみが存在し、世界を蹂躙していた。それをこの魔法によって邪神から万物に恵みを与える神へと変えた――これこそこの世界の根幹。よって俺の最終目的は『創神刻』を習得し、リュハを救うことだ。


 そのためには手順がいる。まず俺自身が『神域魔法』をしっかり使いこなせるようになる。次に『創神刻』だが……これを使うための必要なものがある。それについては候補がある。そして彼女を救う……こういう流れだ。


 今はその第一段階に当たる……と、ここで外から足音が。


「ロベルドさんが帰ってきたな」


 本を置き立ち上がる。リュハと共に部屋を出ると、こちらへ向かってくるロベルドの姿が。


「おかえり」

「おかえりなさい」


 俺達の呼び掛けにロベルトは笑う……が、それはどこか陰があった。


「どうしたの?」


 リュハもまた察し、すぐに問い掛ける。それにロベルドは荷物を置き、


「まず、食料などを買ってきたから食料庫へ移そう」

「ああ、うん。昼食は? 余っているけど」

「ならもらおう……セレス」

「うん、何?」


 深刻な表情をするロベルドに聞き返すと、


「……私は、ここを離れなければならなくなった」


 そう俺達へ告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ