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お陰様でくーぴーたん  作者: 稲村正輝
第1章 「黎明」
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第60話 「本能時の変」

「君、いつまで寝てるんだね。もう日が昇りきってしまったじゃないか」

文麿の声がおぼろげながらに聞こえ、俺は封印が解かれて目覚めたエスタークのように目覚めようとしたが失敗し、普通に起きてしまった。

「阿南君は今、風呂を借りてるよ」

「あいつは人の家をいったい何だと思ってるんだ。なあ、文麿。俺はやっぱり政治家になれないのかな」

俺は昨日に一旦落着した件について蒸し返した。

「君はしつこいね。まあ、夢として置いておく分には良いかもしれない。男には浪漫が必要だからね」

「俺は現実を見て言ってるんだ。今すぐにでもギャル男を抹殺しないと大変なことになる」

「分かったさ。だけど、君はもっと現実を見た方が良い。来年からは将来有望の勇者として学んでいくわけなんだから」

文麿はにやにやしながら嬉しそうである。

「おまえは現実を浪漫で語るような奴だな。だいたい勇者なんて有り得ないだろう。俺だって親父のようなろくでなしが出た大学なんて行きたくないんだ」

「もう行くって決めたんだからさ、そこはきっちり頑張らないと。阿南君の将来も君にかかっているんだ。それからくちゃきの運命もね」

文麿は床に転がっていたノートをパラパラ見ながら、俺の人生について語りだす。

「どうせ俺のことだ。あんな大学、途中で行かなくなって中退だろ。そうやって親父の顔に泥を塗ってやるんだよ。俺は散々親父にしてやられてきたからな。で、くちゃきは今どうしてるんだ」

俺は結構くちゃきのことが気になって仕方がなくなったので文麿に聞いてみた。

「くちゃきとは毎日メールをしているよ。返事をしなかったら拗ねるからね」

「どうせ文麿からの返事が来ないからって、おーいとか連続で入れてくるんだろ」

「いやいや。いくらなんでも、そんなストーカじみたことする馬鹿者ではないよ。くちゃきはまだ小さいけど賢い子だしね」

「そうか」

俺はこれ以上、くちゃきの話をするのが嫌になったため強引にこの話題を終わりにした。

「ところで、さっきから何を見てるんだ」

そう言って、文麿が見ているノートを覗き込むと、それは何時ぞやか大学でもらったプロ野球カードが収集されたノートであった。

「これは、あれじゃないか。確か東條って奴の…。おい、文麿。そのノートについてどう思う?」

「いや、たいしたもんだ。タイゲイニーのカードが八頁に渡って貼られている様は圧巻だね。なかなか筋金入りのお嬢様だと見えるよ」

文麿は指で顎を撫でながら、感心しているのか呆れているのかよくわからない表情をしている。

「お嬢様って。そのノートの持ち主が女って何故わかる」

俺は摩訶不思議に思い、文麿を問い詰めた。

「ほら、ここ。一番最終頁に東條みゆきって書いてるよ。この子は東條さんとこの娘さんじゃないか。もしかして直接会ったのかい?」

「おまえ、東條のこと知ってるのか。学長に臭いと追い出された時に、たまたま校舎内で会ったんだ。その時に一方的にそのノートを渡されたんだよ」

「なるほど、そういうことか。それにしても、みゆき君とは最悪な出会い方をしたものだね。よりによって悪臭を放っている時に遭遇するなんて」

「みゆき君だなんて馴れ馴れしいな。くちゃきの時と言い、おまえは女に対して礼儀を知らん奴だ」

俺は嫉妬心を押し殺しながら文麿を批難した。

「みゆき君とはちょっとした知り合いだよ。君は参加していないから知らないだろうけど、この前にN大のパーティーでも会ったしね。僕は行きたくなかったんだけど、どうしてもと親に頼まれたから仕方がない」

「なんだ、知り合いかよ。それを先に言えよ。で、そのノートは一体何を意味しているのか分かるのか?」

文麿は意味深に笑いながら、

「そのうち分かる時がくるさ」

と言って、窓を開けた。静かに青い風が通り抜ける。今日も快晴だ。


「いやいや、良い風呂だった」

阿南が風呂から戻ってきた。

「おい阿南。陰茎ぐらい隠せ。親しき者にも礼儀ありだ」

俺は阿南の股間を指差して言い放った。ちょうどその時、インターホンが鳴った。誰だ誰だとその場は大騒ぎになり、阿南はパニックになって靴を履いて部屋中を駆け回った。母親が冷静に来客の応対をしている。その時ばかりは、流石は母親と思わずにはいられなかった。すると、母親がやってきて、俺に会いたいと言っている男が来たから部屋へ通すと言ってきた。誰なのか全く見当がつかないから断固拒否したのだが、最後は母親が刺そうとしてきたため、断腸の思いで承諾した。そうして、来客の男は俺の部屋に通された。

「なんだ、学長じゃないですか。わざわざ何をしにここへ?」

来客の男は何てことない、あの能勢学院大学の学長であった。俺は少々びっくりしながら学長を出迎えた。

「君のことで親父さんに用があって来てみたんだが生憎留守だって言われてな。そんなことより文麿君も来ていたのか。そして、そこにいる全裸の男は一体何者かね」

学長は全裸の男、阿南に視点を移した。阿南はこの状況は具合が悪いと思い、急にスーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスを歌い始めたのだが、何も起こらなかった。阿南は壁を拳で何度も殴り、悔し涙で顔はくしゃくしゃになっていた。

「おい、阿南。人の家の壁を殴るな。学長、この全裸で野蛮な男は阿南という男です。お願いがあるんですが、この阿南も一緒に入学させていただけないでしょうか」

時は来た。親友との約束を果たす時が遂に来たのである。俺は正義のヒーローになったかのような気分に酔いしれた。

「いや、こんな奴を入学させるわけがなかろうに」

しかし、現実は厳しかった。学長は阿南の入学についてノーを突きつけてきたのである。学長はノーと言えるタイプの日本人だったのだ。俺はこの時ばかりは阿南の方を振り返ることが出来なかった。背中が焼けるほどに阿南の視線を感じた。そして学長は、そこら辺に親父がいないか探してくると行って家を出て行ってしまった。

「ち、畜生!俺の入学が!俺の入学が!俺の…!」

阿南は体から絞り出したような顔で泣きながらその場に崩れ落ちた。

「…終わった。俺の人生はもう終わった。何もかも。よし、こうなったらヒップアタックしまくって、この家を半壊にしてやる!」

阿南の暴走がまた始まると思われたその時、急に文麿がスーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスを歌い始めた。その後は三人で夜まで盛大に踊り続け、なんだかんだ友情とは良いものだなあと感じた一日となった。

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