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お陰様でくーぴーたん  作者: 稲村正輝
第1章 「黎明」
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第59話 「至極、まっとう」

翌日、俺は文麿と阿南を自宅に招いた。二人とも、いったいぜんたい何の用なのだと首を傾げながらやってきたため、俺の家に到着するのに、いつもより数分かかったという苦情が殺到した。苦情などの対応に追われていたところ、まず先に阿南がやってきた。

「急に呼ばれたから、来る途中で犬の糞を踏んだよ。俺は君を恨むぞ」

阿南はそう言いながら、床へどかっと座った。

「おい、どうでも良いから土足であがるのはやめろ」

俺は阿南を叱咤激励し、玄関へ連れて行った。

「相変わらず君は短気だな…。そんなことだからあまり友人が出来ないんだ」

阿南はやれやれといった感じで靴を脱いだ。

「友人が一人もいないおまえなんかには言われたくない」

俺は言葉のブーメランを投げ放つと、阿南は急に顔面蒼白になり、

「それは本気で言っているのか」

と詰め寄ってきた。

「一人もいないということは、君は俺を友人と思っていないということではないか!いったいこの状況はなんなんだ!?俺は君のために犬の糞まで踏んでやってきたというのに、俺は友人ではないというのか!?なんなんですか君は!何のために俺は生まれてきたんだ!」

阿南のこめかみの血管が925hPaくらいに浮き上がり、今まさに暴走が始まろうとしている。俺は、これは駄目だと思い、

「阿南。俺はおまえの友人ではない。何故なら親友だからだ」

と深い低音ボイスで呟いた。阿南は、はっと俺を見上げ、

「…悪かった、俺の勘違いだったよ。短気なのは俺の方だな…」

と、安堵のため息をついて靴を履き直し、そのまま部屋へと入っていった。

「親友だから言っておくが、靴は脱いで入ってくれ。床が糞まみれでたまらん」

俺が再び阿南を叱咤激励していると、そこへ文麿がやってきた。

「おいおい、朝っぱらから何を揉めているんだね。それにしてもこれは相当酷い臭いじゃないか。僕も親友として良いことを教えておいてあげよう。便漏れにはアテントが良いよ。昨今の介護などの業務でも使われているし、信頼性は抜群だからね。それから言っておくけど僕は使ったことがないから、これ以上のことを聞かれても返答には困るよ」

「勘違いするな。この糞の要因は阿南だ。阿南が犬の糞を踏ん付けてやってきたんだよ」

俺は文麿に言い返しながら、ティッシュで床に付着した糞を拭き取っていった。

「君が急に呼ぶから…」

阿南は体育座りでぼそっと呟いた。

「阿南、靴を脱いで玄関に置いてこい。話はそれからだ」

俺は再三、阿南に注意をし靴を脱がすことに成功した。


「さて、急で申し訳ないが、諸君に集まってもらったのには訳がある」

俺は二人に向かって話し始めた。

「ここ最近、俺はひとつ使命感みたいなのを背負ったのだ。これはこの国を考えてこその決断だ」

「なんだね。いきなり大層な話になりそうじゃないか。よし、聞こう」

文麿は相当乗り気である。阿南は相変わらず興味がない様子で、耳に己の指を突っ込んで掻き回している。

「では決意表明だ。俺はこの国に蔓延るギャル男を抹殺する。これは正当なホロコーストだ。そのために俺は政治家になる」

少しの沈黙が続いた後、

「被選挙権がない君が政治家になるには、まだまだ先の話になりそうだけど、それだけの理由では立候補しても当選しないと思うよ」

と、文麿が全否定しだした。

「ギャル男を抹殺すれば全てうまくいく!おまえらもよく考えてみろ。ギャル男さえ居なくなれば、

犯罪もなくなるし税金の無駄遣いもなくなって世の中は平和になる。平和こそ皆が求める唯一の希望なのだ。もう我々に猶予はない。一刻も早くギャル男を絶滅させ、良い世の中を作っていこうじゃないか。だから出来るだけで良い。オラに元気をわけてくれ!」

俺は、この後も小一時間ばかりギャル男の害について語ってはみたのだが、文麿と阿南からは愛想なしの返事であった。

「いったいお前らはどこの国の人間なんだ。日本人ならギャル男がいない世の中にしたいと思っているはずだ。まさか、お前ら、ギャル男になろうとしているんじゃないだろうな…」

俺はキョロちゃんがギョロ目になったかのようなギョロ目で二人を見渡した。

「ちょっと落ち着きたまえ。ギャル男が嫌いなのはよく分かったけど、君の考えていることを行動にするのは現実的ではないのだよ」

文麿は毎度のこと上から目線でなだめてくるだけだ。

「そんなこといわずにたのむよ!な!な!」

俺は二人から同意を得るまで身動きしない決意でいたが、二人はもう諦めろと俺に言ってきた。

「そうか…。お前らとは親友だと思っていたが、俺の勘違いだったのかもしれない。分かったよ…。もうお前らとは絶交だ!もう口もきかん!これまでのことも全て無かったことと思え!」

俺は床に唾を吐き捨てながら怒りをあらわにした。すると、空気を読めない阿南が、

「なあ。そう言えば俺の入学の話、学長にしてくれたんだろうな」

と言ってきた。

「なんなんだ、お前は。この大事なタイミングでその質問はあり得ないだろう。学長には会ってきたが、俺の体が臭いからとの理由で部屋を追い出されて帰ってきたよ」

その瞬間、阿南の容態が急変した。

「ということは…、学長には話してないのか。俺のことも、そして、小田かおりのことも…」

阿南は再び激しい怒りに震えだした。

「仕方がないだろう。話そうとしても臭いからの一点張りで取り合ってくれなかったんだから」

「俺は…、俺はいったいどうなるんだ!!」

阿南は俺を見つめながら怒鳴り散らした。その眼光は、朝の太陽のように眩しかった。阿南の暴走がまた始まると思われたその時、急に文麿がスーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスを歌い始めた。その後は三人で夜まで盛大に踊り続け、なんだかんだ友情とは良いものだなあと感じた一日となった。

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