第5話 「余裕のある挑戦」
擦っても消えないのなら隠してしまえばいい。俺は名案を思いつき有頂天になっていた。
見える…、見えるぞ……。俺の未来、俺のサクセスストーリーが。よし。これがうまくいったら自分へのご褒美に新しいローションを買おう。勿論、今使ってるローションよりも、もっともっと凄いやつをだ。今使っているやつは安もんの「ペペ」とかいうやつなのだが、これが何だか文房具のでんぷんノリを塗りたくってる様で前から嫌だったのだ。今度のは手触りが良くて、しかもミントの様にスッとするやつだ。出来ればピーチの香りがするやつがいいだろう。新しくローションを買い足すと「ペペ」が大量に余ることになるが、これは佐々木君の誕生日にあげることにしよう。ちょうど、あいつの誕生日は来月だったからな。
俺は調子よくコサックダンスを踊ってみせ、その体勢のままトイレの外へと出て行った。
「よし、出発だ」
俺は同級生である林君の家へと向かうことにした。林君とは昨年まで同じクラスだったのだが、ほとんど話すことはなかった。というのも、林君のことがあまり好きじゃなかったからだ。
では、何故このような危機的状況の中で好きでもない林君の家に行く必要があるのかと思われるかもしれないが、実は林君の実家はペンキ屋なのである。この危機的状況を抜け出すためにはどうしてもペンキが必要なのだ。林君ではない。ペンキが必要なのだ。俺は林君が嫌いだ。しかし、ペンキは好きだ。こういう葛藤の中で俺が選んだ道は、今から林君の家に行って、ペンキをもらう。そしてそのペンキで壁についたうんこを隠す。出来れば林君にも手伝ってもらう。しかし、いくら嫌いな林君だからと言って、ただ働きさせるわけにはいかない。かと言って、俺に利益のあるものをあげるわけにはいかないだろう。何故かと言うと林君が大嫌いだからに他ならない。
そうだ、「ペペ」をあげることにしよう。ペンキと「ペペ」はどちらも塗るという点で一緒だし、林君も喜ぶだろう。佐々木君には申し訳ないが、こんな状況だから致し方ない。代わりに佐々木君には余ったペンキをあげることにしよう。ペンキと「ペペ」はどっちも塗るという点で一緒だし、佐々木君も喜ぶだろう。
俺はコサックダンスで道を進みながら計画を練っていると、偶然にも塗装業者の看板が現れた。
「マルヤマ塗装 ここを右折」
なんだ。こんなところにあるじゃないか。俺が求めていたものが。もう林君なんか、どうでもいい。「ペペ」はやはり佐々木君にあげよう。林君にあげるものは何もない。あんな奴のために今から地元まで戻るなんて考えられない。
俺は塗装屋から塗料の入ったドラム缶を2缶盗んできた。見張り人が一人いたが、結構年老いたじじいであった上に居眠りをこいていたため、盗むのは容易であった。それよりも全裸でウロウロしている方が俺的には問題であった。
トイレに戻った頃には夕方が近づいていた。
「これでおめえらはおしめえだ」
俺は孫悟空を少し意識したような台詞を、うんこの付いた壁目掛けて吐き捨てた。