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お陰様でくーぴーたん  作者: 稲村正輝
第1章 「黎明」
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第49話 「火の鳥のように」

俺は余裕の表情を浮かべながら学校を目指した。トイレ事件の犯人という濡れ衣から解放されたと考えた俺は、急に体がいちだんと軽くなったような気がした。子供用自転車の調子もすこぶる順調だ。

「よし、このまま風のように行くぞ!」

俺はそう叫んで自分自身に気合いを入れた。

「俺は風になる!」

その瞬間、子供用自転車の右側の車輪が吹っ飛んで行き、俺は「うわーい」と言って、子供用自転車もろとも横転した。横転した際に子供用自転車のハンドル部分が切断され、俺はそのハンドルを持ったまま空中を彷徨った末、道路脇の並木辺りに激突した。一瞬、脳震盪のうしんとうを起こしたものの、意識をはっきりと取り戻した俺は子供用自転車が横転している場所に駆け寄った。

「畜生!子供用自転車!」

俺は子供用自転車の周りを、パプワニューギニア諸島らへんの民族的な動きで踊りながらゆっくりと一周し、そのまま子供用自転車を置き去りにして学校へと駆け出した。もうここまで来たのだから、後は自分の足で何とかなるであろう。


しかし、俺は急にその足を止め、地面に身を投げ出し、泣き出した。

「萌美…」

俺はやはり、萌美のパンツのことを忘れられなかったのだ。今ならまだ間に合うかもしれない。今からまた整形外科まで戻って、その辺りで聞き込み調査をしたり、張り紙などを町中に貼ったりなどの活動をすれば、もしかすると見つかるかもしれない。時間がたつにつれ、頭の中からも消えかけようとしている萌美のパンツ。

「どこに行ってしまったんだ、おまえは…」

今でもどこかで優しく微笑んでいるに違いない。そう考えると、心惜しい感情を押し殺せないのだ。そして、どうしても余計なことを考えてしまうのである。


もし、萌美が誰か別の男の手に渡ってしまっていたとしたら…。

もし、萌美がゴミと間違えられて収集車に飲み込まれていたとしたら…。

もし、萌美が悪戯な風に吹かれるがままに太平洋の藻屑となっていたとしたら…。

もし、…。


俺はぬぐってもぬぐっても溢れ出てくる涙をそのままに、その場で立ち尽くす他なかった。来た道を振り返ると、萌美が最期の別れをしようとしているかのように、太陽の光が降りそそぐ道端に転がる犬の糞にハエが群がっていた。その様子を何気なく観察していると、ああ、まるで、女という名の糞に男という名のハエが群がっているようだなあと心の中でつぶやいた。なるほど、ハエ男という言葉はよく聞くが、ハエ女という言葉はまったく聞いたことがない。ドラゴンクエストのモンスターにもハエ男はいてもハエ女はいない。そう考えると、女はうんこなのか?というひとつの疑問がわいてきた。これはもしかすると、俺は世界中の人間がまだ知るよしもない大問題に気づき始めたのではないか?そして、この問題を解決した時、俺はノーベル平和賞を受賞してしまうのではないか?

だとしたら、これは非常に大変なことだ。俺は喜びを隠すことができず、その場で四股踏みを何度もした。この四股踏みは、約一時間ほど行われ、周りの人々からは千代の富士の再来だと騒がれ、カメラ小僧や年金暮らしの老人たちでたちまち溢れ返り、狭い路地はたちまち混乱した。

「ありがとう、萌美。俺はやっぱり行くよ。でも、俺。お前のこと忘れないから。ずっと忘れないから」

俺は泣き顔から一転して、生まれ変わった勇気ある男の顔でそう呟きながら再び学校へ向かおうと第一歩を踏み出したのだが、四股を踏んでいる時に、先ほど観察していたうんこを踏んでしまっていたことに気づいため、一旦家に戻って靴を履き替えてから、もう一度出直すことにした。

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